正反対の男(6)
人影は二人の男だった。
「……で、……からな、これを使えば一日で……稼げる」
「自動でそんなにか? でもなぁ、……だと……に……って見つかると……」
思った通り、男達の会話は怪しい。見たところハンターと行商人のようだが、この位置だとよく聞き取れない。
「もっと近づくいてみますか」
「あ、あなた……待っててって言ったでしょ」
車で待機しているはずのトーマは、いつの間にか私の背後で、相棒よろしく立っていた。
「アレは置いてきましたって」
そう言ったトーマは親指でピンクの車を指した。一応バズーカは置いて来ている。ちょっぴり窓からはみ出してるけど……
「仕方無いわね。犯行を確認するまでは大人しくしててよ」
「はいはい」
「はいは一回」
「……あんパンと牛乳買ってきましょうか?」
「そんなに長く張り込まないわよ!」
私とトーマは、静かに怪しい男達に近づいた。
「こいつは組み立てると人型になる。服を着せれば人間そっくりだ。話しかけられさえしなければ大丈夫さ」
行商人は大人が軽く抱えられるほどの箱を出した。パッケージも何もなく、市販の商品でないことは明らかだ。
「もし話しかけられられたらアウトじゃないか」
「狩ってる最中に話しかける奴がいるか? それに人通りもパトロールも少ない夜中に放しゃあ、ナイトハンティングの連中に紛れて、まずバレない。自動でバンバン狩ってくるぞ。あんたは家でこいつが帰ってくるのを待つなり、別の所で狩るなり好きにすればいい。内臓のナビに自宅を設定すれば勝手に戻ってくる」
どうやら自動狩猟機を売ろうとしているようだ。これは持っているだけで違法の品である。
ハンターはツァンカール郊外の森や草原にいる害獣、つまり野生で人を襲うとされている獣を狩り、加工場や商店等に売って生計を立てている。だからより多く害獣を狩った方が儲かる。そして儲けたお金で武器や防具をより強いものにするのだ。
しかし最近のハンターは、対害獣の戦闘や危機回避能力が高いことを利用して、人の手が入っていない洞窟や砂漠でレアな材料を集めたり、加工場から集めて欲しいと依頼されたりで、トレジャーハンター及び何でも屋のようになっている。
それ自体は違法ではないのだが、なかなか狩りのはかどらないハンターの間で、自分の代わりに次々と害獣を狩ってくれるロボット、自動狩猟機が出回るようになった。これは違法となる。各々の実力に関係無くロボットが害獣を濫獲 するからだ。
ちょっと前までの自動狩猟機は、金属の箱に車輪と数本の手が生えた、明らかに怪しいものだったが、だんだん人型に近く、巧妙になってきている。
「ここでもきっちり説明するんですね」
「一応始めてのパトロールではそうする決まりなの。ユハだってさっきの新人君にやってたはずよ」
「スキップ機能とかないんスか?」
「……さあ、ボタンがあるか、探してみれば?」
「冗談ですって。怒んないでくださいよ」
失礼な男だ。説明地獄に落としてやろうか。
そうこうしている内に、行商人の男が箱の中身をハンターに見せ始めた。
「何か機械が入っているわね……」
ビルの壁に張り付いて覗いていたら、ふと視界に影が射した。後ろからにゅっと大きな手が私の顔の下に伸びてくる。トーマが背後から私を抱えるような形で壁に手をついているのだ。
近い近い近い、近い! 一瞬ギクリとしたから呼吸が速くなる。伸びてきたトーマの手に鼻息がかかりそうで、私は覗いていた顔を戻し、壁と対面した。
「あー、狩猟機のパーツが入ってますね……って、何してんですか。ちゃんと見てないと、押さえられないっしょ?」
脳天からトーマの声が響く。何してんのって、こっちが聞きたい。背中が暑い!
「……近いのよ。もうちょっと離れて」
「はあ? んじゃ俺はどうやってあいつら覗くんですか。隠れられる所はここしかないのに」
トーマは全く気にしていない口調で手を下ろした。背中がスッと涼しくなったので振り返ると、彼は軽く眉間に皺を寄せて立っていた。本当にただ隠れながら箱の中身を確認しようとしていただけのようだ。
「紛らわしい……」
「だから何がですか?」
「もういいわ。箱にパーツが入っていたのね? ならさっさと捕まえるわよ」
遠目に見ただけで違法なパーツを確認出来るなんて、本当に新人か? 最新のものなんて、私でも見逃す程分かりにくいのに……
気になることはあったけど、一人であたふたしていたことが恥ずかしくて居たたまれなくて、私は怪しい男達に向かって猛ダッシュした。