正反対の男(4)
大部屋は元々第11部隊の宿舎のリビングルーム的な皆の寛ぎスペースだった。そう、"皆"の大部屋だったのだが、女性隊員達に占拠されていて、男性隊員が使うことはない。
「良いんじゃないですか? 男は別に集団で固まる生態はしてないんですから。個室があれば十分です」
トーマにさっきの部屋は無いものと思ってほしいと言うと、こんな言葉が返ってきた。
意外だ。さっきの制裁と言う名の喧嘩からして、文句を言われるかと思ったが。譲れないのは下着のチラリズムだけなのだろうか。
とりあえず、あれば十分という個室にトーマを案内し、これから暇だと言うので、早く仕事に慣れてもらう為にも、一緒にパトロールをすることにした。
取締隊員は基本的に交代でパトロールを行う。男性隊員は既に出払っているし、女性隊員も大部屋にいたのが全てではない。
道中違反者を発見すれば捕まえるのがほとんどだが、本部に届いた苦情や通報を基に、現場へ行くときもある。
取締った事件は、その程度により各部隊にポイントが加算される。それが年に1回ある部隊別査定で総計され、貯まっているポイントに応じて部隊の施設や武器、車両等を好きなようにグレードアップさせることが出来るのだ。一度総計されたポイントはいつでも使える。だから翌年の為にこうやってパトロールをして、地道にせっせとポイントを稼がなくちゃならない。
「長い説明、ご苦労様です」
「……何かムカつく言い方ね」
駐車場に停めてある、真っピンクのパトロールカー。第11部隊の専用車だ。
元は強そうな黒塗りだったのだが、うちの子達、主に女性隊員達が、貯めたポイントで第11部隊のパトロールカーを全てピンクにしたのだ。その際、特に装備を強化するなどは一切していない。
「それってむしろ、グレードダウンしてませんか?」
トーマは案の定、眼精疲労を起こしそうな色に、目をしばしばさせた。
「しっ、前に隣の第10部隊の人が車を馬鹿にしたようなこと言ったら、それを聞いたうちの子達が向こうの宿舎に大勢で抗議に押しかけちゃって、大変だったんだから」
「……それって迷惑行為にならないんですか? ペナルティ課せられるでしょ」
「ん? そんなの、向こうからが言ったことが原因なんだし、喧嘩は基本的に当事者同士で解決しなくちゃいけないから、大丈夫だったわよ」
うちの子達の行動は褒められたものではないが、一応第10部隊の隊長を脅……いやお話し合いをして、単なる個人間のトラブルということで収めてもらった。そう言ったら、何故かトーマは頬を引きつらせた。そんな態度だと守ってやらないぞ。
「トーマの場合は、部屋で暴れられるかもね」
「面倒くせぇ集団だな。やっぱり入る部隊を間違えたか……」
「口には気を付けなさい。女の子は悪口に対して地獄耳だから」
忠告すると、トーマは軽く舌打ちをした。全くもって可愛くない。他の男性隊員の方がよっぽど可愛げがある。ちょっと頼りないけど……
「そう言えば、武器は持った?」
取締隊は、入隊する時に各々好きな武器を持ち込める。自分に合ったものあれば何でも構わない。因みに私の相棒は噴射式捕獲用ネットと特殊なピコピコハンマーだ。特殊、と言うのは、ハンマーの頭部に静電気が流れる為、ピコンッ!とやるとかなり痛いのだ。それに打つ面が何気に凹凸で尖っていて、衝撃の割りには地味に効く。軽いし女でも振り回しやすいから、うちの隊の女性隊員は大半がこれを使っている。開発を提案したのは私だ。
トーマは部屋に忘れてきたようで、「取ってくる」と言って戻っていった。
ピンクのパトロールカーを運転しながら、私は憂鬱だった。
いつもなら、遠目でも目立つこの車を見た市民の女の子達が、「あれカワイー」とか言ってキャッキャする中を、気分良く走り抜けるのだが……
「ねえ、やっぱりパトロールにその武器は大袈裟じゃない?」
バックミラーに映るトーマを見ながら言った。
トーマの持ってきた武器は、バズーカだった。いくら好きなものを持ち込めると言ったところで、普通は実際使う時のことを考えて選ぶと思うのだが。バズーカは後部座席を斜めに占領していて、後方確認がし辛いったらありゃしない。
「でも持って入った時、誰にも何も言われませんでしたよ」
「それ以前に、どう使うつもりなの?」
「え、フツーに引き金引いてドカンと……」
「いやそうじゃなくてね……はぁ」
持って来ちゃったもの仕方ない。今日は何か取締る事があっても、トーマには手出しさせないでおこう。後でピコピコハンマー渡さなきゃ。予備あったかなぁ。
どうやら第11部隊に問題児がやって来たようだ。