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期待の男(4)

 「んなわけ無かったぁあ!」

ゴミ箱からビックリ箱も真っ青の勢いで女魔術師が襲い掛かる。咄嗟にピコピコハンマーを振り回すと、彼女の鼻先をかすめた。

「ぎゃっ」

女魔術師はそう小さく悲鳴を上げ、またもやごみ箱の蓋をきっちり閉めて隠れた。

「も、もう油断しないわ……」

額の冷や汗を拭きつつごみ箱に向かってそう言う。

 動かなくなったと一旦思わせておいて、急に復活し襲い掛かるのはホラー基本だと、昔よく肝試しの時に祖母ばあちゃんが解説していたのを思い出した。次も来る。私はピコピコハンマーを構えなおす。

 「ぐゎっ!」

ピコン!

「がぅう!」

ピコン!

「がるるっ!」

「だぁあもう! もぐら叩きか!」

ピコン!

女魔術師が出て来ちゃ叩き、出て来ちゃ叩きを繰り返していたが、次第にその間隔も短くなっていった。

 出て来りゃ叩かれるというのに、攻撃的な行動はエスカレートするばかり。学習能力と自我の無さは害獣以下だ。例えトーマが来て捕獲したところで、彼女は元に戻ることが出来るのだろうか。

 詐欺はいけないことだし、どうやら自ら憑依されるような行動を取ったらしいから自業自得とも言えるが、見た目だけはセクシーな姉ちゃんをもぐら叩きよろしく叩きまくっていると、少し物悲しい気分になってきた。

 と、ため息をつきかけた刹那、女魔術師がこれまで以上の勢いで飛び出してきた。

「やぁ!」

負けじとピコハンで応戦するが、彼女は怯まず私に体当たりしてきた。そのままもつれながら倒れこむ。この体勢はヤバイかも……!?

「ぐあああああああっ!」

「な、何?」

上に乗っかった女魔術師の攻撃を予感して身構えたのだが、逆に彼女は叫びながらもがくように転がり下りた。

 「ねえ、苦しいの!? まだ自我は残ってるの!?」

話しかけてもうずくまった彼女は唸るだけで返事はない。

「がああ!!」

「きゃぁっ!」

突然彼女は私を振り払うように立ち上がる。そして再び通りの方へ駆け出した。

 あんな状態で逃がすわけにはいかない! 

 私はベルトから噴射式ネットを外し、発射させる。ネットはしっかり女魔術師を包み込んだが、彼女はそのまま無理矢理に走り続けた。

「あああ! やっぱこうなると思った!」

引きずられながら私は無念を叫ぶ。怪力と化した彼女に適うわけ無いから、今までピコピコハンマーしか使わなかったのだ。かと言ってネットの端を離すわけにもいかない。逃走して離れた相手にも使えるピコハンの開発をザベディアンにお願いしよう。

 「もう! 誰か手伝ってぇ!」

半ば自棄ヤケになって言うと、それに応えるかのごとく、女魔術師の前に大きな人影が射した。

「むぅ!」

「ぐぎゃっ……」

人影に激突した女魔術師は、潰された蛙のような声を出し、後ろへひっくり返った。

「トーマ!?」

やっと来たかこの野郎!

「……いや、期待に添えずすまん」

「あれ?」

トーマより低いセクシーボイスだ。

 見上げて目を凝らすと、特注の制服すらピチピチで窮屈そうな体躯、盛り上がった僧帽筋と三角筋、逆光で後光が射したかのように光るスキンヘッドにサングラス……それはトーマではなく、さっき話題に上った第5部隊隊長のレスターだった。

 「すんませんです! トーマさんがなかなか見つかんねかったもんで、先に見かけたレスター隊長に来てもらったんです! ドットが引き続きトーマさんを探してます!」

後からマックが息をぜいぜい言わせながらやって来た。

 「ありがとうレスター! その人を押さえて! 物凄い怪力なのよ」

「ふむ……」

レスターは一つ頷き、手錠が邪魔でネットの中でもがきながら起き上がろうとする女魔術師に近付くと、肩と首根っこを地面に押し付けた。

 「がぁぁああ……あ゛ぅっ!」

それでも尚、女魔術師は抵抗する。レスターでさえ、気を抜くと体が持ち上がりそうだ。

「くっ……これが黒い物体に憑依された者の成れの果てか?」

「果てかは分からない。でも、どんどん人間離れしていくのよ。もうピコピコハンマーの静電気も構わなくなってきてるし……」

「オイラも手伝うんです!」

レスターとマック、重量系二人がかりでやっと女魔術師を取り押さえることが出来た。

 そこへバタバタと足音が近付く。

「トーマさん呼んできました!」

まずドットが路地に飛び込んで来た。

「おい、人に憑依したって本当か!?」

続いた偉そうな声を聞いた瞬間、腰の力が抜け、ヘナヘナと座り込んでしまった。

 



そう言えば私の書く女主人公やヒロイン(?)は「キャッ///」なんて可愛い悲鳴が皆無だったので、ちょっと今回入れてみました。

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