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期待の男(1)

 ある日のこと、私はピンクのパトロールカーでツァンカールの街を走っていた。通報や捜査が入っているわけではない。ただのパトロールである。

 第11部隊が大きな事件を任されることは、余程他の部隊に人手が足りていない時以外はそうそう無い。大抵はおこぼれ事件を貰うか、パトロールで偶然見つけて取締るかだ。まだ出来て2年ほどの部隊だが、その扱いに時々腹が立つこともある。とは言え、隊員の熟練度や性格を考えると、今までは仕方がないと諦めざるを得ない部分もあった。

 しかし! 色々と生活態度に問題はあれど、実戦では優秀な人材が入って来たのだ。トーマは気弱なうちの男性隊員達の勇者であると同時に、第11部隊を盛り上げて行くかなめにもなりる男だ。もうそう思うことにした。

 グルドー司令官は怪しいと思っているかもしれないが、トーマは正体不明瞭なだけで、取締隊としてちゃんと動いている。運転は荒っぽいが、そこは目をつむろう。黒い物体に関しても、トーマが捕まえ始めなければ、今頃ツァンカールは憑依されまくって、カオスな街になっていた可能性もある。

 結局はトーマのおかげで今の平穏が保たれているところが大きいのだ。隊長である私がまず彼を信じる。信頼関係を築くのは、まずそこからだ。

 そんなことを考えているが、トーマは今日も私とは別行動で、黒い物体捕獲に精を出している。これに関しては彼が中心となって解決するということになったらしい。司令官もちゃっかりしている。怪しんでるくせに。

 トーマは今、第1部隊と一緒に行動している。因みに2世隊長は、最近腰痛が酷くなったとのたまって、絶賛サボタージュ中だ。第1部隊は隊長がああだから、隊員達はかなりしっかりしている。取締のポイント獲得数No.1。あそこのパトロールカーはまるで小型戦闘車だ。バズーカ愛用のトーマが目を輝かせるのが目に浮かぶ。くそぅ……

 トーマはうちの隊員だから、黒い物体のことは第11部隊の管轄にしてほしいと司令官に申し出たら、まずは隊員のレベルを上げろだと。

 というわけで、ピンクのパトロールカーに同乗しているのは、今まで一度も取締に成功していないドットとマックのコンビ。まずは違法行為の判別とイマイチ取締の要領が分かっていないこの2人を、パトロールがてら再教育することになったのだ。

 「領土極小、経済大国であるこの国、アークギドルの取締隊は、首都ツァンカールに本部を置き、国の治安を護り、違反者を取り締まるのが……」

「あの、カシェリー隊長、そこから説明するんですか?」

ドットに遮られた。

「ええ、一から教え直すんだから、新人用のチュートリアルが丁度良いと思って」

「はぁ、そうですよね……」

「オイラは聞きたいんです。正直入隊した時の説明は覚えてねぇんです」

ドットとは逆にマックは乗り気だ。

「そう、じゃあしばらく聞いていてちょうだい」

そして私は説明を再開した。







 ドットとマックが多少ぐったりしてきた頃、怪しい奴らを発見した。

「ちょうど実践出来そうよ。やっぱり聞くだけよりやってみなくちゃね」

「それなら説明ははぶきましょうよぉ」

「ドット、予備知識があるのと無いのとでは、現場で大違いなのよ」

 私はビルの脇にパトロールカーを停め、商店の看板の影から様子をうかがった。

「いい? 違法行為をする人間は、たいていああいう隙間とかでこそこそ喋ってるの。パトロール中はそういうところに注意しながら運転してね」

「オイラ、普通に運転するだけでも苦手なんです。事故りそうなんです」

「そっか……じゃあ誰かと複数で行動すればいいわ。ドットが運転してマックが外を見るとか。部隊全体での効率を考えたら個別でパトロールする人が多いけど、決まってるわけじゃないし。事故るよりはマシよ」

とは言ってみたものの、マックには後で運転講習を受け直させよう。

 怪しい奴らは男女二人。男はハンター、女は魔術師の格好をしている。女魔術師は高値で売買される魔水晶マジッククリスタルを手に、何やら説明を始めた。友人に自慢して見せびらかしている雰囲気には見えない。個人間の取引だろうか。こういうのはよくトラブルになるから、一応見ておいた方がいい。

 「魔術師かぁ。ボク、一回なってみたかったんですけど、かなり難しいって聞いて諦めました」

ドットがため息をつきながら言った。

 魔術師はハンターのように武器を使って戦わなくても良い為、運動神経に自信はないが狩りをしたい者、魔術そのものに興味のある者等が目指すことがよくある。だがその多くは途中で挫折し、他へ転職する。呪文がクソ難しいからだ。それを一句たりとも違えずに、いくつも覚え込まなければならない。故に魔術師の数はとても少ない。

 とは言え便利な魔術。大物を狙うハンターは、こぞって魔術師とパーティを組みたがる。あぶれてしまったハンターが次に手を出すのが、魔術師が作る魔水晶マジッククリスタルなのだ。地面に投げつけて砕くと、魔術が発動する。これが魔術師の言い値で売れるものだから、相場は跳ね上がり、今では大変高価なアイテムとなった。パーティを組まずせっせと魔水晶を作り続け、巨万の富を得た魔術師も、このツァンカールには数人いる。

 「魔術師の説明から魔水晶が高いっていう流れですか……ボク、その辺は知ってるんですけど」

「オイラは勉強になったんです!」

「ドット、今はマックに合わせて初心者モードにしましょう」



補足…

アークギドルでは、外出する時はハンター、取締隊、魔術師、商人、行商人等、自分の職業の格好をしなければなりません。デザインは色々ありますが、基本的な形は決まっていて、誰が何の職業か一目で分かります。宿舎内でコスプレを楽しむ女性隊員も、外へ出る時はちゃんと制服を着ます。

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