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こだわる男(5)

 「まあまあ、今の話は少し気になった程度のものだ。早速なのだが、捕獲に向かってくれ。まだ人に憑依したという情報はないが、念の為直接触らず、噴射式ネットを使うように」

そうグルドー司令官に言われ、私達は司令室を出た。

 とりあえず黒い物体が出没すくるというメインストリートへ行くべく、本部の玄関門の方へ歩き始めると……

「そっちは逆方向ですよ、2世隊長」

私は一緒に司令室で話を聞いていたにも関わらず、こっそり宿舎のある方に行こうとしている第1部隊の隊長に気付いていた。

「ちっ、私のことは放っておいてくれたまえ」

ギクリと動きを止めた彼は、開き直って口を曲げた。

「いい加減、その無気力をどうにかしてもらえませんかねぇ」

マルセイも呆れ気味だ。2世隊長は招集があって何か任務に就かされる時は、いつもこんな感じで大人しく気配を消し、逃げようとするのだ。

 私達の冷たい視線を受けた彼は、更に開き直り、腕を組んで胸を張った。

「好きでこうなったわけではないぞ。親の七光りで隊長となった自覚はある。これと言って人より秀でた部分がないことも。だが、君達が私のことを2世2世と呼ぶから、やる気が無くなるんじゃないか」

「グルドー司令官とグルドー隊長って、ややこしいからそう呼んでるんですよ。勝手にひがまないでください」

普段機械いじりばかりで他人に全く興味の無いザベディアンにまで言われてしまった。

 そう、2世隊長はグルドー司令官の息子なのだ。一応上官のご子息ということで皆丁寧に接してはいるが、本音としては耳を引っ摘まんで説教したくなる30のおっさんだ。

 「私にはアスターという名前があるのだぞ? 何故そっちで呼ばないのだ」

いやだって親の七光りだし……と言いそうになるのをグッとこらえる。

「そんなこと今更おっしゃられても、2世隊長で定着してるんで、諦めてください。さ、行きましょう」

「ま、待て! 引っ張るな!」

「引きこもりのザベディアンも出るんですから」

「私は得体の知れないものと戦う気は……」

「司令官にチクりますよ」

「むぅ……」

捕獲に慣れているトーマは猫耳の発注に行かせてるし、ぐずぐずしている暇はない。人に憑依していなくても、凶暴化した野良の動物が人を襲ったら大事だ。

 こうして私達隊長4人は、黒い物体の捕獲に向かった







 真っ昼間のツァンカール・メインストリート。まずは実物の黒い物体を見たことのあるザベディアンに付いて、ブラブラと歩いた。

「2世隊長、そんな所で買い食いしないでください」

すぐにサボろうとする無気力親父。ちょっと目を離すとこれだ。

「コロッケくらい良いだろう。カシェリーも食べるかい?」

「勤務中なので結構です」

コロッケが5つくらい入った紙袋を目の前に出されると、ため息で酸欠になりそうだ。

「いつも君は糞真面目だなぁ。鉄女アイアンガールと陰で言われているのを知っているか?」

「ええ、らしいですね」

無気力親父はスカスカの海綿男スポンジマンと言われているが。

 その時、ザベディアンがふと足を止めた。

「あそこを見てみろ」

彼が指差したのは、正午を過ぎてほんの少し日が傾いたことにより、道路沿いの商店前に生まれた狭い影。そこが微妙に黒く盛り上がっている。

「さあ、レディ。お先にどうぞ」

マルセイがすらりとした手で私に確認を促した。ここでレディファーストするのか。得体の知れないものだってのに。

「……その冗談、笑えない」

目を細めて突っ込んでやると、マルセイはひょいと手を引っ込め、前髪をファサファサさせた。

「つれないなぁ」

このテのやり取りが冗談で済むのがマルセイで、本気で言ってくるのが2世隊長である。

 マルセイは長い脚を颯爽さっそうと動かし、黒い盛り上がりに近づいた。

「う~ん、プルプル震えているようだけど、それ以上でもそれ以下でもないね」

「迂闊に触らないように」

ブーツの爪先で突っつこうとしていたマルセイをザベディアンが止めた。

「でもこれ、地面に貼り付いてるみたいだよ? スコップですくおうか」

 マルセイが振り返ろうとした瞬間、黒い物体が急に膨れ上がった。

「危ない!」

私の声に驚いて、マルセイは視線を戻した。人の腰辺りまで伸び上がった物体は、彼に巻き付こうと広がる。

「うりゃっ!」

咄嗟に私は2世隊長の手から食べかけのコロッケを奪って投げた。それが黒い物体に当たると、マルセイの代わりに取り込まれていった。

 「私のコロッケが……」

「役に立ちましたね。こうなることを予想して買うなんて、流石グルドー司令官のご子息です」

「いやあの……う、うむ」

無理矢理フォローしたら、恨めしそうな2世隊長は黙った。

 黒い物体はしばらくうごめくと、やがてスッと霧散していった。後に残るのは、少しいびつな形となったコロッケ。

 私達の周りには、いつの間にか通行人の野次馬が集まっていた。







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