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こだわる男(4)

 司令室に集まった隊長は、私以外に3人いた。他は街に出払っているようだ。

 「司令官、いきなりの招集とは一体……何かあったのですか?」

第6部隊隊長のマルセイが、前髪をファサ……っと掻き上げ、最初に口を開いた。相変わらず嫌味な程脚が長い。おくれ毛さえ嫌な性分の私は、彼のいちいち掻き上げなければならない髪型が気に食わないのだが、レディファースト命のフェミニストなもんだから、うちの猫ちゃん達の間では、けっこう人気がある。

 聞かれたグルドー司令官は、机の上で手を組み、悩ましげに眉を寄せた。私としてはこっちのダンディ・グレイなオールバックの方が好ましい。

「最近街に妙な物体が出現するのだ」

妙な物体? 初耳だ。

「ああ、あの黒い……」

第2部隊のザベディアンはそれを知っているのか、白衣のポケットに骨と皮だけの手を突っ込んだまま頷いた。病的なくらい痩せ型の彼が制服の上着を着ているところは見たことがない。代わりに白衣を羽織っているのだ。隊長なのに、いつも自室で機械いじりをしている、軽い引きこもり。この招集で久しぶりに顔を見た。

 「何? 黒いものって」

真上に見上げる程長身のザベディアンに聞くと、彼は不思議そうにこちらを見た。

「知らないのか? 君のところの隊員がちょくちょく退治しているんだぞ」

「ええ? 誰が?」

「名前は何だったかな……やたら上から目線で、目付きの悪い……」

そんな隊員は一人しかいない。

「分かった。トーマね。私は何も報告を受けてないんだけど」

 他の部隊の隊長が知ってて私が知らないとはどういうことだ、トーマの奴。そりゃあ経験豊富なあいつからしたら私は頼りないかもしれないが、これじゃ面子めんつ丸潰れだ。

 「まあまあ、ザベディアンが先に知っていたのは、妙な物体を調べる機械を操作出来るのが彼だけだから、その関係じゃないかい? 僕だって知らなかったよ。一緒さ一緒。僕とおそろい」

私の機嫌が悪くなったのが伝わったのか、マルセイがまた髪を掻き上げフォローしてきた。この人とお揃いでも全く嬉しくない。そういうことはうちの猫ちゃんに言ってくれ。

「ってかいい加減髪切れば?」

「ああ、つれないなぁ。僕の髪型をだらしないと言うのは君だけだよ。部下は甘やかすのにさ」

何が楽しゅうて隊長格を甘やかすというのだ。しかも可愛くもない26歳の男を……そういえばトーマはもう一つ上だったか。あいつはもうちょい厳しめにいこう。

 「ウォッホン! そろそろ良いかな?」

あ、グルドー司令官を忘れてた。

「はい。失礼しました」

そうしてやっと本題に入った。







 トーマは取締隊に入った翌日から、妙な黒い物体を捕獲し、本部の司令室へ直接持ち込むことが度々あった。それは黒く特定の形を持たず、スライム状の半固形物だった。

 不気味にうごめいているだけで無害かと思われたが、ペットとして人気のフェレットが、散歩中に憑依されるように一瞬取り込まれた後、凶暴化して飼い主に襲い掛かろうとしたのを見た、とトーマが言った為、今ザベディアンが調べている最中らしい。

 「それが今、急に数が増えているのだ。今回招集をかけたのはその件だ。とりあえずは協力して捕獲してほしい」

グルドー司令官はそう締めくくった。

「以前はそれ程出没していなかっのですか?」

マルセイが前髪の分け目をいじりながら聞いた。

「うむ、今までは事が起こる前にクリス・トーマが見つけて捕獲していたからか、市民がそれを目撃することはあまりなかった。しかし昨晩から今朝にかけて、不審な黒いものを見た、又は野良猫が急に暴れ出した等の通報が10件以上寄せられたのだ」

「そんなに?」

「ああ、クリス・トーマが今朝の部隊別会議でパトロールできなかったのを差し引いても多過ぎる。ほとんどがメインストリートの片隅に突然、静かに現れるのだが、今朝は車道のど真ん中にも現れたらしい」

トーマが屋根からメインストリートを睨んでいたのは、この黒い物体を捜していたのか。そしてこっそり現れたところをいそいそと捕獲に出掛けていたと……しかも何も言わず一人で。

 「そう不機嫌になるな、カシェリー」

ムカムカもやもやしていたら、グルドー司令官が苦笑した。

「不機嫌にもなりますよ。隊長の私に黙ってやるなんて」

「黒い物体は最初持ち込まれた時、初めは無害に見えた。だが得体の知れないものを放っておいてはいけないとトーマが言ったから、引き続き捕獲させたのだ。だが実害があるまでは下手に周知させて不安をあおらん方が良いと、私が言い付けたのだよ。実際にペットが凶暴化したのはつい昨日の話だ」

「……司令官の指示だったんなら、良いんですけど……」

渋々自分を納得させると、司令官は少し声をひそめた。

「まあ、何故彼が丁度取締隊に入ったタイミングで妙なものが現れ始めたのかは、不可解ではあるが……」

「司令官、それって……」

「気にする程のことではないかもしれんが、彼は前科記録がなく、不採用となる要素が無かったというだけで、本当に何者なのかは、正直私もよく分からない」

それって……わざと独りで泳がせていたというの?




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