こだわる男(3)
普通なら平等公平且つポピュラーな採決方法。しかしうちの部隊では単なる数の暴力となる。その名も……
「多数決を取ります」
「そんなの猫派が有利に決まってるじゃないですか!」
やっぱりトーマは反発してきた。
「だって猫耳つけたらわがままになるとか、意味分かんないわよ、あなたの理屈」
「ああ、ああ、カシェリーさんは猫ちゃんとか言ってる時点で猫派ですね。聞いた俺が馬鹿でした……」
「じゃ、トーマも納得したところで……犬派の人ぉ」
トーマを始め、男性隊員達が次々に手を挙げる。いつもこれくらい積極的に参加してくれれば良いのに。
「次、猫派の人ぉ」
数えるまでもなく猫派の圧勝で、今月のテーマは"猫"に決まった。
トーマが「犬の方が賢いし人懐っこくて可愛いし……」と犬派のこだわりをぼやいて項垂れるのを、ドットが肩を叩いて慰めている。なかなか男性隊員達でまとまってきているじゃないか。
次の議題は、どこで猫耳を調達するか、なのだが、ここで行き詰まった。下着のように誰しもが持っている物ではない為、自前を持ち寄るわけにもいかない。
「あ、そういえばトーマ、ハンターやってたことあるんでしょ? 良い加工場知らない?」
私はふと思い出して、不貞腐れているトーマに話し掛けた。
「……何で犬派の俺が紹介しなくちゃいけないんです?」
「決まったんだから協力してよ」
そう言うと、とうとう諦めたトーマは盛大に溜息をついた。
「ミア姐さん駄目よ。コイツに頼んだら、犬耳を発注しそうだわ」
ホミーは不満げだ。彼女は発注及び買い付け係なのだ。決まっているわけではないが、ショッピングが大好きな彼女は、色んな店を知っているから、暗黙で任されている。
「なら、ホミーが付いて行ったらどう?」
「ええええ!?」
心配なら自分で見張れば済むのに、ホミーは盛大に嫌がった。そういえば初日のトーマの態度にいたくお怒りだったなぁ。
「良いじゃない。新しいお店の開拓にもなるし」
「う~ん、それはそうなんだけどぉ……猫耳ありそうな加工場の当てはあるの?」
"新しい店"という言葉に魅力を感じたのか、ホミーはチラリとトーマを見た。
「ちょっと前に東の森で殺豹が大量発生した時、近くの村の村長がハンターを雇って、駆除させまくったんだ。その毛皮が市場で捌き切れないくらい余ってたはずだ。まとめ買いするんなら、捨て値で売ってくれるさ」
諦めたトーマが遠い目をして教えると、女性隊員達は色めき立った。
「わお、本物の毛皮で作れるんだ」
「確か殺豹って、黒と白とピンクと斑がいたわ」
「色も豊富よね。アタシはピンクがいい」
「シックに黒猫も捨てがたいわ」
どうやら発注先は、トーマの知っている加工場に決まったようだ。金庫番のダリアがホミーに今回の予算を渡している。
「トーマも殺豹の駆除に参加したの?」
尋ねると、トーマは首を横に振った。
「俺がハンターだったのは、もっと前ですよ。取締隊員になる直前は、加工場で物造ったり錬金したり……ま、職人でした」
「へえ、意外に器用な人なんだ。元職場なら、いい感じの猫耳を発注できそうね」
「……本気で犬耳にしてやろっかな」
「諦めの悪い男……」
ホミーはお茶会終了を待たずして、未だうじうじしているトーマを早速引きずって、発注に出掛けた。
喧嘩しなきゃ良いけど。
議論することもなくなり、トーマが連れて行かれると、男性隊員達はそそくさと大部屋を出始めた。一応大部屋は皆のものという事になっているから、大人しくしてさえいれば女性陣も追い出しはしない。でも女子会費を払っていない男性隊員にはお茶も出ないし、今日の"勇者"がいなくなったから居心地が悪いのだろう。
その時、宿舎の各部屋に取り付けられているスピーカーが鳴り出した。
《召集令、召集令、本部内にいる隊長は直ちに司令室へ集合せよ》
グルドー司令官の声が大部屋に響く。
「ミア姐さん、行くの?」
私に2杯目の紅茶を入れてくれていたダリアが首を傾げた。
「ごめん。何だか急ぎっぽいから、その紅茶は他の子にあげて? ほら、ユーリのカップとか、もう空だし」
すると奥のマリアンヌと一緒にいたユーリがカップを持ち上げ、頭の上でフリフリ振ってアピールした。
「そう、いってらっしゃい」
「ええ、行ってくるわ。後よろしく」
「OK。ユーリ、欲しかったら自分で取りに来なさい」
「はいはーい」
私を送り出したダリアは、ユーリに紅茶を渡した。
女性隊員でマリアンヌ、ダリア、ホミー、ユーリばかりが出てくるのは、彼女達がリーダータイプだったり、人なつっこかったり、自己主張が激しかったり、積極的で何かとミアと絡むことが多いからです。




