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正反対の男(1)

 私は真面目である。

 規則正しく、清く正しく、美し……ゴホンッ。

 とにかく、私は真面目である。でも真面目をし通すのは難しい。そして、他人ひとにそれを求めるのはもっと難しい。

 よって私はそれを他人に期待することはない。

 しかしだからと言ってアイツ、問題児にも程があるだろう、と思うのである。







 カツカツカツ、と軽やかな靴音が響く。

 私は足早にブーツのかかとを鳴らし、廊下を颯爽さっそうと歩いている。そして辿り着いた両開きの扉の前で、今一度身なりを確かめた。

 後れ毛、無し。襟元、良し、靴紐、固し。

 独りで頷いて、扉をノックした。

「第11部隊隊長ミア・カシェリー、ただ今参りました」

「……ああ、入りたまえ」

中から入室許可の返事を貰い、扉を開けた。

 部屋の奥、真正面に鎮座した重厚な造りの机に肘をついて座っているのは、白髪混じりの大柄な男、名はグルドー。取締隊を統括する司令官だ。

 「グルドー司令官、中途採用の新入隊員がいるとのことですが……」

「うむ、そこにいる彼がそうだ」

グルドー司令官が顎で指した方を見ると、そこには私と同じくらいの年格好の男が、気怠けだるそうに立っていた。黒髪を無造作に流し、制服の第一ボタンは留めていないし、シャツの裾が上着からちょっぴり出ていて猫背、そして目付きも悪い。真面目そうではないというのは、火を見るより明らかだ。

 「あなた、名前は?」

この男が自ら名乗るなど、気の利いたことはしなさそうだ。とりあえず私から尋ねてあげた。

「クリス・トウマです」

一応受け答えは出来るようだ。

「そう、トーマって呼べばいい?」

「トウマなんスけど」

「うん、トーマでしょ?」

「ああもう、トーマでいいです……」

何が違うんだか。それにさっきから初対面の上司に対するとは思えない態度なんだけど……

 「じゃあトーマ、私は第11部隊の隊長、ミア・カシェリーよ。今日からあなたの上司だから。よろしく」

「はぁ、どうも……」

私が手を差し出すと、トーマは意外にしっかりと握り返してくれた。







 領土極小、経済大国であるこの国、アークギドルの取締隊は、首都ツァンカールに本部を置き、国の治安を護り、違反者を取り締まるのが主な仕事で、現在は11の部隊に分かれている。

 宿舎にトーマを案内しながら、そんなお決まりのセリフをつらつら述べる。もう何回同じことを繰り返したか分からない。新入隊員が入ってくるたびだ。こんな基本的なこと、言わなくても皆知ってるのか、たいていは聞いていない。そしてトーマも欠伸を噛み殺しているから、絶対上の空。でも決まりだから、今日も今日とて説明する。

 こんな融通利かずだから、男性隊員達につまらない女とよく言われる。でも髪はきっちり一つに束ねなきゃ嫌だし、詰め襟の制服は一寸の隙もなく着込まなきゃ気持ち悪い。これが私の性格なのだから仕方ない。

 そんなことを考えていると、斜め後ろを付いて来ていたトーマが隣に並んだ。

「カシェリーさんはいくつなんですか?」

「……女性にいきなり年を尋ねるって……」

しかもカシェリーさんときた。ここはびしっとカシェリー隊長と呼んで欲しいところだ。でもまだマシな方か。うちの部隊の可愛い部下達は、ミアねえさんなんて呼んでいるくらいだから。

「23よ」

「隊長にしては若いんですね」

「ええ、おまけに女だからね。ナメられないようにするのが大変よ」

 私は16歳の時、初の女性取締隊員になった。俊敏さには自信があるが、戦闘能力が飛び抜けているというわけではない。だからひたすら頭を使って作戦を練って実績を上げてきた。しかし男所帯の中で女が目立つと、当然やっかみを受けることもしばしばある。そこで私は、数々の嫌がらせに対して、急所を狙った鉄拳や、時には法を盾に脅しをかけ、女性隊員という存在の地盤を固めた。

 そんな努力が上司の信頼に繋がり、21歳の時に女性でありながら、史上最年少で第11部隊の隊長に昇格した。私の人生の中で一番の自慢だ。

 「トーマはいくつなの?」

「27ですよ」

「へえ、若く見えるのね。私と同い年くらいかと思ったわ」

「若めの設定にしてますから」

「ふうん、最近は男も若作りするんだ?」

ということは、さっきの不真面目そうな態度も若作りか? 私にしてみれば、大人ぶってくれた方が助かるんだけど。

 そんな他愛もない話しているうちに、第11部隊の宿舎に着いた。まず扉の前で立ち止まり、トーマを待たせる。うちの可愛い部下、とりわけ女性隊員達は、入る前に確認しておかないと大変なことになるのだ。

 私は扉を少しだけ開け、中に入った。

 

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