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プロローグ

この記録を()の神々に捧ぐ

ーーテトマト暦1年


 (のち)に、人々が『アフマダの戦い』と呼ぶ神々の争いが終結し、新たな時代が始まった年である。


 言うまでもないが、未だ半神半人(ネフィリム)半魔半人(アーリマン)が大勢この地を闊歩(かっぽ)しており、人類は現在の繁栄を疑いたくなる程ごくごく少数民族だった頃の話のため、口伝(くでん)で引き継がれてきたこの戦いの史実性には若干(じゃっかん)の疑問が残る。だが、世界各地に散らばる逸話(いつわ)を我が人生を()して収集し、慎重に照らし合わせた結果、(おおむ)ね正しいと判断し()るに足りた情報のみをここに書き記すこととする。


 全能の神々がいた。神々は何の不自由もなくこの地で暮らしていたが、そのうち一部の神々が刺激の足りない生き方に疑問を(てい)し始めた。有体(ありてい)に言えば、飽きたのだ。


 我々人類からすれば、なんと贅沢な悩みなのだろうとお思いかもしれないが、少し考えてみて欲しい。何でも出来るのだ。何でもだ。しかも不死により、時間は無限にある。そして周りにいる他の神々も同じ状況なのだ。これはまさしく退屈だ。既存のどんな言葉でも形容(けいよう)できないぐらいに。


 話を戻そう。


 神々は、神以外の生命体を(つく)った。それぞれの種族を創った神が、その種族を管理した。そう、ドワーフも、エルフも、我々人類も、テトマト暦以前に神々によって生み出されていたのだ。


 神々の生活に、(いろど)りが加わるようになった。種族が育ち、繁栄し、時には(あやま)ちを(おか)しもするが、失敗から学ぶこともする。そして、神々は彼らを正しい道へと導いて行く。


 やがて、他の生命体への転生を希望する少数の神々が現れた。神々はその者たちの願いを聞き入れた。神を捨て、神以外の種族と暮らし始めたその者たちの総称(そうしょう)が、いわゆる『魔族』である。もはや神ではないため、長寿ではあるものの不死ではなかったり、腕力や霊力の制限があったり(など)、転生時に一定の縛りが発生したとされている。


 神以外の生命体の繁栄は、想定外の弊害(へいがい)をもたらした。魔族たちは、実際に神以外の生命体として暮らした結果、神としての力がいかに絶対的で素晴らしいかを(さと)ったのである。手放(てばな)して始めて、手放した物の大事さを実感する。我々にもそういう経験があるだろう。


 はてさて、魔族たちは神に戻りたいと主張した。これを受け入れるかどうかは、神々の中でも意見が割れた。


 そうこうしている中で、魔族の間でも派閥(はばつ)が出来上がる。ただ単に神に戻るだけでは飽き足らず、この素晴らしい神としての力を、もはや他の何者にも渡したくないという考え方が支持を集めた。


 協議を重ねた神々が、「数ある種族の中から魔族だけを世界から消滅させ、魔族は神に戻り、神以外の生命体として暮らしたその経験を()かして、異種族の統合的管理を担当すべし」という結論を出した頃には、魔族たちは既に「神の力は占有(せんゆう)すべし」という思想の(もと)で意思統一されていた。


 魔族は神に戻った。戻るやいなや、神々に(おそ)いかかった。神の力の占有を(かか)げ、他の生命体との共存を願う神々の排除へと動いたのだ。無論(むろん)、神々も応戦した。


 これこそが『アフマダの戦い』、この世界を二分(にぶん)した神々と魔族の戦争なのである。その結末は、皆さんもご存知の通りだ。

斯くして世界は分かたれた

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