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第18話 均し方の話

 朝、川辺に立った。


 今日は、触れないと決めていたわけではない。

 触れると決めてもいない。


 ただ、考えたいと思った。


 水面は穏やかで、風は弱い。

 昨日の“揺れ”は、ほとんど痕跡を残していなかった。


「……全部か、ゼロか、じゃない」


 独り言が、音もなく消える。


 医療団の診断。

 昨日の数値の話。

 ミロの言葉。


 頭の中で、それらがゆっくり繋がっていく。


 私は、癒していない。

 均している。


 なら――

 均し方にも、強弱があるはずだ。


 川に近づき、しゃがむ。


 今日は、手を入れない。

 代わりに、石を一つ拾って、流れの中に置いた。


 水が、石を避けて流れる。

 小さな渦が生まれ、すぐに消える。


「……これくらい」


 ほんの小さな変化。


 私は、深く息を吸い、川のそばに立ったまま目を閉じた。


 祈らない。

 願わない。


 ただ、ここにいる。


 数呼吸分だけ。


 それ以上は、やらない。


 目を開けると、何も変わっていないように見えた。

 水の色も、音も、同じだ。


 胸の奥を探る。


 ――軽い。


 昨日ほどではないが、

 “何もしない日”より、少しだけ重い。


「……引き受けてる」


 確信は、静かだった。


 今日は、これで終わり。


 それ以上、川に関わらなかった。


 ***


 昼、共同施設の前を通りかかる。


 中では、炊き出しの準備が進んでいた。

 いつもなら、自然に中へ入っていた。


 今日は、入口で立ち止まる。


「……顔出すだけ」


 中に入り、挨拶だけする。


「無理しないでね」


 年配の女性が、笑って言う。


「はい」


 短く答え、鍋には触れない。


 ただ、そこに数分だけいる。


 人の声。

 湯気。

 生活の音。


 それだけで、胸の奥が、ほんのり重くなる。


 ――やっぱり、全部じゃなくていい。


 外に出ると、身体はまだ動く。

 息も、乱れていない。


「……これなら」


 小さな手応え。


 夕方。


 川辺に戻ると、ミロがいた。


「今日は、珍しいな」


「……少し、試してました」


 そう答えると、彼は眉を上げる。


「試す?」


「はい」


 言葉を選びながら、続ける。


「休むか、全部やるか、じゃなくて……

 間を探してました」


 ミロは、しばらく黙っていたが、やがて言った。


「どうだ」


「……完全じゃないけど」


 川を見る。


「戻ってない気がします」


 ミロも、川に目を向ける。


「……確かに、今日は安定してる」


 その言葉に、胸が少しだけ温かくなる。


 ――ゼロじゃなくていい。

 ――全部じゃなくていい。


 夜。


 医療団の宿舎で、セラが帳簿をめくっていた。


「……今日、揺れてない」


 助手が言う。


「彼女、今日は診療所に来ていません」


「知ってる」


 セラは、別の紙を見る。


「でも、完全に休んでもいない」


 数値は、昨日ほど整っていない。

 だが、悪化もしていない。


「……代表」


「ええ」


 セラは、静かに頷く。


「配分の可能性が出てきた」


 その言葉は、仮説としては危うい。

 だが、無視できない兆しだった。


 ***


 エリシアは、布団に横になり、天井を見つめていた。


 身体は、疲れている。

 でも、壊れそうな重さではない。


 町も、揺れていない。


 完璧じゃない。

 でも、昨日よりは、確実に前に進んだ。


「……均し方」


 その言葉が、胸に落ちる。


 力を強くする必要はない。

 私が減る必要も、町が壊れる必要もない。


 ――まだ、分からないことだらけだけど。


 それでも。


 今日、私は初めて

 “選ばれなかった聖女”としてではなく、

 “考える人間”として、この力に向き合えた。


 その事実だけで、

 明日を迎える理由には、十分だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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