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北東の山 ①





 この付近の魔物は財宝に惹かれると言う事が事実かどうかは置いておくとして、可能性があるならばこの街を早く離れようと三人はゴーレムを倒した歓声の響く中アリスの仕入れた情報を元に話す事にした。


 北東の山にある平べったく傷がつかない岩と言うのも常識的には考えられない代物故、財宝に関わっている事は間違いないだろうと予測したスミレは食料等を確保次第すぐにでも向かう事を提案する。


「俺は食料を集める。スミレとエミは雑貨を。」


「分かった。私は義肢に使えそうなの探すから薬とかはエミにお願いしても良い?」


「良いけどガンショップに寄ってからで良いかな?店主に頼んでる事があって・・・」


 店主にエミリアがお願いしていた事、それは新しい銃のホルスターである。今は弾を入れておくポーチに無理矢理しまい込んでいる為、使い勝手や必要時即座に取り出せる様にしたかったのだ。


「それじゃあ一時間後に東口に集合だ。スミレはさっきの店に行ったりするなよ?」


「え?!そんなの・・・分かった。」


 アリスが忠告しなければ先程の悪趣味な魔具店へ足を運ぼうとしていたらしく、先手を打たれ渋々了解するスミレ。


 なお一時間後と言うが、三人の中で懐中時計を持って居るのはスミレのみで残りの二人は街中の時計塔で判断するしかない。故にスミレは過去自分の時計の方が合っているからと寄り道をした前例がある。





 ホルスターを注文したのだが、サービスだとベルトもセットでくれた為、右後ろ腰にずらし二重でガンベルトを巻いたエミリアが最初に到着。スミレに言われた通り、軟膏や薬草以外にも油やマッチも揃えている。暫くしてアリスとスミレも合流し、一行はそのまま休む事無く北東にあると言われる鏡石を目指し歩き始めた。


「ところでエミ。その新しい銃の弾はどれ位あるんだ?」


 山へ登り始めた頃、視界に入った銃を見てアリスが尋ねるとエミは「ニ十発位。」と返答する。もっと多く作れたとの事だが、買い物をしつつガンショップで制作するには時間が無さ過ぎたとの事。だが三十八のロングケースは店の在庫全て購入したらしく、宿に泊まる際に作成すると笑顔で報告をしてくる。


 ガンマニアと言う訳ではないが、今回の銃は非常に気に入ったらしく一度開いた口が塞がる事無く数時間山道を登って行くと少々開けた場所へと辿り着いた。


「妙に平たい岩。これだな鏡石は。」


 そう言って高さ三メートル、直径五メートルはある一面だけ平らな鏡石を見つめるアリスとは逆に汗だくになったスミレは返事をする余裕もなく肩で息をしている。


「スミレちゃんも辛そうだし休憩にする?」


 膝に手を付いて居るスミレを見たエミリアはアリスへ休憩の申し込みをするのだが、それを聞いたスミレは少しばかり不満そうに声を漏らす。


「私は右腕以外生身だからあんた達より酸素を多く使うのよ・・・そして何で喋りっぱなしのエミは息すら切れてないの・・・!」


 夢中になると無限の体力となるエミリアは兎も角、アリスの場合は魔石の結晶を胸に埋め込むように装着し、動力源となっている為二人に比べ体力面では勝っている。実際、アリスの使用している高機動型の義肢を一般人が着けた場合は数分もしない内に倒れ込むだろう。


「俺は周りを見て来るから取り合えず休んでろスミレ。」


 スミレの問をスルーしアリスは鏡石に気になる所が無いかと眺めながら周回を始めるのだが、見た所一面だけが平と言う事以外おかしな場所は無くスミレの休憩は数十秒で終わる事となる。


「やっぱり天才スミレ様の頭脳が必要って事ね!」


 収穫無しである事を伝えると嬉しそうに立ち上がり腕を組みながら二人へ威勢良く言い放つスミレ。それに対し「ソウデスヨ。」と感情の無い言葉を返すアリスだが、当の本人は返答を聞いておらず鏡石の平対面を調べ始めていた。


「アリスの胸みたく妙に平たい・・・」


 男なんだから当たり前だと言うのと、お前も同じだろと言うツッコミを入れたい所だが、ここでスミレがヘソを曲げると後々厄介なので黙って見守るアリス。しかし鏡石に近づいたスミレの鞄が若干光っている様に見え疑問をぶつける。


「スミレ、何か光ってないかソレ?」


「あ、本当だ。鞄が反応する岩?もしかして・・・」


 そう言うとスミレは右手を伸ばし鏡石の面に触れる。すると彼女の手は若干光るとそのまま岩の中へスルスルと入っていく。


「財宝や魔石に反応するっぽい。ただ中がどうなってるか分からないから・・・」


「先行くぞー。」


 スミレが説明している最中なのにも関わらず無視して鏡石の中へ入って行くアリスに動揺する二人。その後数秒待っていてもアリスが戻って来ない為、別の場所へワープしたのかもと不安になる。が、アリスを一人にしておけないと意を決して片手を鏡石に差し込み始める。


「良いエミ?せーので一緒に行くよ。」


「スミレちゃんもズルしないで一緒にね?」


 二人が「せーの。」の掛け声をしようと「せ。」を発音した直後、二人は吸い込まれるように勢い良く鏡石の中へ消えて行った。その原因はワープした先で二人の手が出て来たのでアリスが力ずくで引っ張ったからである。


「心臓飛び出るかと思った・・・」


 腰が砕け胸を押さえながら激しい動悸を抑える事の出来ないスミレとエミリアなのだが、そんな二人を尻目に「早くしないとここで野宿だぞ。」とそっけない態度で先を進むアリス。やや怒りを覚えつつも二人はガクガクになった脚で無理矢理立ち上がりアリスの背中を追う。




「ダンジョンタイプだな。」


 松明の必要なく光を放ち整った石製の床や柱から岩の中ではない事が分かり呟くアリスに対しエミリアはこれがダンジョンなんだと歓喜の声を上げる。


「あれ?エミってダンジョン来た事なかったっけ?」


「うん。謎解きみたいなのはあってもダンジョンは初めて。」


 エミリアは二メートル程の幅しかない直線の道を歩きながらスミレと会話していると急に立ち止まったアリスに反応し咄嗟に銃へ手を伸ばした。


「安心しろ、敵じゃない。ただのトラップゾーンだ。」


 そう言ってアリスはその場にしゃがみ込み石のタイルを撫でる様に掃いながらマジマジと見始める。


「感圧板か・・・踏むと何かが起きる。」


 感圧板から目を離し道の奥や横の壁、天井を観察してみると妙な穴が開いている事が分かった。この穴の目的は矢や銃弾の様な飛び道具か、水やガス等の入った人間を排除するための物なのか分からず、どうしようかと立ち上がり振り向いたアリスの踵が感圧板を踏んでしまう。その瞬間、通路の奥から何かが自分の背中へ高速で近づいて来る事に気づいたアリスだが避けるだけの時間が無く直撃する事を覚悟した。


 しかし飛んで来た物はアリスに直撃する事は無く空中でバラバラになってしまう。何が起きたのか理解できず、バラバラになる直前に聞いた破裂音から推測してエミリアを見ると銃口から硝煙を上げた銃を構えた彼女が息を荒げて立っていた。


「危なかったぁ。この眼鏡が無かったらアリス死んでたかもよ?」


 エミリア曰く、アリスの背後から迫って来たのは矢らしく、高速で動く物の未来を見える眼鏡のお陰で撃ち落とす事が出来たとの事。その瞬間、安心したアリスは体の向きを変える為脚の位置を変えるのだが、先程まで踏んでいた感圧板を再び踏んでしまう。が、今度は何も起きず。どうやら一度作動した感圧板は二度と作動しなくなるようだ。


「アリス?次にまた不用意に踏んだら助けないわよ?」


「ゴメンナサイ。モウシマセン。」


 笑顔なのにどす黒い何かが見えたアリスは素直に謝り、この先何メートル先まで感圧板があるかを確認する事に。


「見た感じ十メートルはあるわね。アリスなら飛べそうだけど。」


「天井が高くないからなぁ、一回は脚が付くかもしれない。」


 そもそも一人だけ行っても意味が無いと行き詰ってしまう。そんな中エミリアが一つの作戦を立てる。


「穴から出て来るのは矢だとして、アリスが全部飛んでくる矢を斬り落とせば大丈夫じゃない?」


「もし矢じゃなくて毒ガスが出たら?」


「アリスを置いて逃げる。」


 鉄拳制裁を食らったエミリアだが、方法が無い以上一番可能性が高いとしてこの作戦を採用する事になる。即座に反応する為、エミリアの眼鏡を借り足の裏にチョークの粉を塗した高機動型の義肢を装着したアリスは双剣を抜き準備完了。


「お前等は姿勢低くしておけよ。それと念のため頭は右手で守れ。」


 そう言うとアリスは感圧板を二人の歩幅に合わせ次々に踏み抜き左右、上、正面の四面から飛んで来る矢を次々に斬りながら感圧板の最終地点まで到達。無事渡った事を伝えると二人は顔を上げアリスの状態を確認した。


「悪りぃ全部は斬れなかった。」


 アリスの義肢には右腕二本、右足三本、そして左腕と左脚には一本ずつの矢が突き刺さっており、胴体と頭部は何とか直撃を防いでいた。


「エミ、この眼鏡左目しか未来見えないから左側の反応メッチャ遅れたぞ。」


「あ、ごめん言うの忘れてた。でもクリアしたから結果オーライ?」


 チョークの付いた感圧板を伝って来たエミリアに再び鉄拳制裁を済ませたアリスは二人に矢を引き抜いて貰った後再び元の義肢へと換装し道を進んで行く事に。矢が発射されたであろう壁は右側に曲がる通路となっていたのだが、その先は左右の明かりの無い道へ分かれており三人はどちらの道を行くか考える事にした。


 作戦会議の内容としては、カンテラの明かりだけではトラップが気づけない上に油が持つか分からない。そもそも帰って来れるか分からない等と難航。その時ふと今いる場所が洞窟の様な通路である事を思い出したスミレはエミリアに両方の道へ向かって発砲してもらう事を発案する。これにより反響した音から何があるかを想像しようと言う作戦らしい。


 エミリアはスミレに言われた通り発砲。すると音は反響する所か土の中にでも居るかの如くあっという間に消えてしまった。


「これは進んでたら私達も危なかったのかも・・・」


 反響しない音に恐怖感を覚えたスミレは念のため反対側にも発砲する様にお願いする。勿論結果は同じである。


「そうなると左右の道じゃなく正面の壁か、天井か床か・・・。取り合えずスミレ正面の壁叩いてみてくれ。俺とエミは床だ。」


 そう言われ壁の前に立ったスミレだが壁を叩く事は無かった。


「壁を叩くのは無理ね。」


「何でだよ。」


「だってほら・・・」


 地面を叩きながら耳に集中していたアリスがスミレの方へ眼をやると、そこには右手が壁の中に入り込んだ彼女の姿があった。


「ここもワープだったのか。」




 正面の壁を抜けるとそこは白い大理石の様な素材で作られた十メートル四方の部屋に繋がっており、この部屋の中も光の魔石からか非常に明るく中央には装飾がされた三つの箱、その手前には大きな燭台が意味深に置かれていた。


「最深部っぽいが、何かスッキリしないな。」


 箱が所謂報酬的な扱いをしていたとして、ワープ直後に存在している事に違和感を覚えたアリスは箱の前に設置されている直径一メートル高さ五十センチ程の燭台の方に疑問を抱く。


「確かに、この燭台も気になるし書かれてる文字も気になるわね。」


 燭台を上から見ていたアリスはエミリアの言葉に反応し何が書かれているのかを見るのだが、使われている言語が自分の知ら居ない言語であった為即座に匙を投げスミレに任せる事にした。


 書かれていたのは『月と太陽が重なる時、大いなる力が手に入る』と言うもの。大いなる力とは武器なのかと呆気に取られたアリスは急にやる気を失いその場へ寝ころび始めてしまう。アリスの双剣は長い事愛用している物、エミリアは新しい銃を手に入れたばかり、そしてスミレは武器全般に興味がない為、アリス程ではないが二人も明らかに残念そうな態度をしている。


「月と太陽が重なるってさ、そりゃもう大事件だろ。」


「この手のは謎解きだろうからねぇ、何かの例えでしょ。こんな風に火をつけて見たり・・・」


 アリスの愚痴に付き合うようにスミレは燭台にカンテラの油を流しマッチで着火すると必要以上の火力になり火柱に近い炎が立ち上がった。想像だにしていない事態にスミレは転がるような体制で燭台から離れ、エミリアは燃えたスミレの左袖を叩いて窒息消火を行う。


 この事態の最中、天井まで上がった火柱を見上げるとそこには意味深な大きな球体が鎖で繋がれている事に気づいたアリスは「伏せてろ!」と叫び燃え盛る炎に焙られた球体の鎖を双剣で切断。すると支えが無くなった球体は自由落下を開始し、そのまま大きな衝撃と音を響かせながら燭台へと直撃する。辺り一面には火の粉が飛び散り、ジャンプした瞬間に負荷が掛かりすぎて壊れた義肢では真面に着地の出来なかったアリスに降り掛かった。今度はアリスだと自分のスカートの裾を使って叩くエミリアのお陰で三人は火傷をする事無く何とか消火出来た事を確認する。


「何だ今の炎は!」


 上半身を起こしながら怒鳴るような声で叫ぶアリスと「分かんない!」と叫び返すスミレの二人の間に「消えたんだから。」と宥めていたエミリアは燭台の奥にあった三つの箱が動いている事に気づき宥める事を忘れ呆然と注目していた。そんな彼女の異変に気付いた二人も箱を見ていると、箱の置いてあった床部分が箱と共に落下し、別の床が奈落の如くせり上がって来る。その床には先程の箱よりも質素な石製の箱が乗っていた。


「こっちが本命か?」


「さっきの球が月だとして、燭台の炎が太陽?そう考えると知らず知らずの内に正解してたって事?」


 疑問符ばかりの二人を尻目に三十センチ程の大きさの石蓋を持ち上げ中身を確認したエミリアは興奮気味の声でスミレを呼び始めた。武器に興味はないのにとやや面倒くさそうに箱を覗き込んだスミレは素っ頓狂な声を上げ大はしゃぎを始めた。


「凄いよコレ!魔導石の大型結晶だよ!」


 そう言ってスミレはそっと手に取るとぬいぐるみを抱く女の子の様に結晶を抱きしめる。中身が武器ではない事を知ったアリスもどれどれとスミレの指の隙間からのぞき込むと、非常に透明度が高く濁りの一切ない高純度の結晶である事を理解した。


 魔石は純度が高い程透明度が高く、無色に近い程『属性』を持たない物となっており、この無属性の魔石を『魔導石』と呼んでいる。魔導石は他の魔石と組み合わせる事で強大なエネルギーを発したり、生命が触れるだけで活力を生む事の出来る希少品。砂粒程度でも高値で取引される一攫千金の品物である為、今回の様に拳程の大きさもある結晶となると街が傾くレベルである。


「凄いじゃないか、最初のダンジョンでこんなお宝に出会えるとは。」


 喜びのあまり口調がおかしくなったアリスはエミリアにそう言うとスミレと共に歓喜の声を上げた。先程まで火柱で言い争っていたとは思えないこの変わり様にエミリアはもう笑うしかないと三人のあらゆる声が部屋中に響き渡る。




「あ、帰りは直通なんだ。」


 一通り喜び終わった一行は入って来たワープゲートを潜ると元の鏡石の前である事を知り安堵する。何故ならアリスの両脚はジャンプと着地失敗でボロボロ、高機動型は矢により故障個所があった為、急遽水中用の義肢を使用して居たので慣れない義肢で先程の感圧板を踏み歩くのは困難であったからである。


「スミレちゃん、今何時?」


「え~と、三時・・・あれ?」


 エミリアに時間を聞かれたスミレは自分達が鏡石に着いた時刻と殆ど同じ時刻を指す懐中時計に疑問を抱いた。まるでダンジョンの中に居る間、時間が止まっていたかの様な不思議な感覚なのだが、まぁダンジョンならある事かと深く考えない様にする事にした。


「今からじゃ街に戻れないし、まぁ戻ってもまた襲われるかもしれないが・・・取り合えず今日はここでキャンプにしよう。エミだって弾作りたいだろ?スミレは義肢を直してくれ。」


 簡単そうに言うアリスに少しばかり怒りを覚えたスミレは「直してくれ。」の言い方はおかしくないかと背筋の凍るような顔で返事をした為「直してください。」と訂正。自分が動けるのはスミレの超高性能な義肢のお陰である為アリスは頭が上がらないのだ。


 なお、スミレはこの時先程の大型結晶を使用し新しい発明を閃いていたのだが、それが何かを知るのは三日後の事だった。







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