東の街 ②
今回も専門用語があるので記載します。
サムピース シリンダーを取り出す際に使用する銃の左側に付けられた金具。
カート 実包。カートリッジの略称。
箱の中に入っていた物、それは現在エミリアが使用している中折式とは異なる構造を持ったリボルバー式拳銃。銃自体の大きさは一回り大きくいのだが、パーカッションロック式並の長さを持つシリンダーに若干の戸惑いを見せる。
「欲しいって言ってたし、今回のは売らないでエミリアにあげる。」
トレジャーハンターとは財宝を見つけてはそれを売り生活をしている。そんな彼女等でも時には自分達で使用する出来る物を発見すればそのまま持ち帰る事も珍しくはない。
銃には弾が装填されておらず、箱の中で区切られたスペースに二十発入りの弾薬箱が添えられているだけだった為、エミリアは箱の中から一発取り出すとその大きさに興味津々の様だ。
「その弾珍しいのか?」
「少しね。三十八のカートだけど私が知ってる物より少しだけ長いの。モグラが作ったロングカートとかで見た事あるけど本当にこんなサイズの弾があるなんて・・・」
自分から聞いておいてエミリアが何を言っているのか分からないアリスは早々に話を聞いておらず元の義肢を取り付ける為、四肢に付いた水滴を全てタオルで拭いながら一度宿に行き休憩する事を提案する。
宿に着くなりアリスは食事を希望し、スミレは風呂を希望。普段ならばここでエミリアがどちらかを支持し決定するのだが、当の本人は机の上に置いた新しい銃を睨むような目つきで見つめて動かずに居た。流石に様子がおかしい事を感じ取った二人は改めてエミリアとこの銃の今後の事を話し合う事に。
聞けば新しい銃を欲しいとは思っていたが、想定よりも大きなサイズである為、普段使いは難しい上に弾薬の確保の簡単ではないだろうと言う心配から使用を躊躇しているとの事。確かに大きい弾ならばその分反動も大きく扱いづらいのは事実であり、こればかりはエミリア自身の問題である。
「とりあえず撃ってみたら?それで使いにくいなら流しちゃおうよ。」
現在の弾より長いとは言ったが口径は小さくなって居る為どの程度の反動か確かめてみるのが先決。スミレの意見に同意したエミリアはスッキリしたような表情になり、次の行動へ移す事に。
「飯!」
「お風呂!」
「じゃあ先にお風呂にしましょ。アリスも川に入って冷えてるでしょ?」
「川に入ったから風呂に入る必要はない!」
「・・・アリス?」
「ワカリマシタ。」
エミリアの妙な威圧感に押され片言で答えるアリスを連れて風呂屋へ向かう事にした一行。
翌日。いつも通りの作業を終えた三人は昨日のガンショップを訪れた。
「おはよう、シューティングレンジ使わせてもらえる?」
「あ、昨日のお嬢ちゃん!手は大丈夫なのか?」
店員の問に右手の指をヒラヒラと動かし笑顔を返すエミリア。彼女の行動から安堵した店員は昨日銃の暴発を起こした射撃場と言う名の巻き藁置き場へと案内する。早速弾を装填しようとサムピースを押し込むと予想していない方向へシリンダーが動いた為驚くエミリアと店員。この銃は横にシリンダーが飛び出すスイングアウト式を採用しており、驚いたのは二人がこの仕様の銃を見た事が無かったからだ。
「横に出るのか。確かにこれなら強力な弾が使えるな。」
店員が言う強力な弾とはこの世界の住人の多くが使用する四十五のロングカートモデルの事。こちらはソリッドフレーム式と言うシリンダーの軸が固定され銃本体の右側の蓋を開き弾を込める仕組みとなっている為強固な代物。逆にエミリアの中折式は再装填が早いのだが、真っ二つに折る為頑丈さは欠ける。
付属の弾を装填し終わったエミリアは今回ゴーグルを使用せず眼鏡を着用のまま巻き藁の前に置かれた瓶へ発砲。弾は瓶を粉砕すると巻き藁へ突入するのだが、貫通したらしくその奥の木の板へ着弾する。
「凄い反動と音・・・しかも貫通までした、凄い銃ねこれ。」
「撃ちにくい?」
「普段使いとなるとどうしてもね・・・でもこの反動でこの威力は捨てがたいかも。」
一発撃っただけだが想像よりは反動が無かったものの貫通力の方は想像以上。この銃があれば普段使用している銃で力不足を感じた際に交代要員として使用すると言う使い方も出て来た。
「とりあえず円型の的を撃ってみたら?命中精度も見ないと。」
先程から自分を気にして声をかけるスミレに感謝しつつエミリアは板に丸が描かれた的へ残りの五発を撃ち込む事に。
「最後の二発が少しズレたな。まぁこの距離でこの程度なら問題ないだろ。」
「そうね。あと気づいてないみたいだけどエミ、結構嬉しそうな顔してるよ。」
どうやら二人もエミリアがこの銃を使う事に関して肯定的な様で、エミリア自身も結構気に入っている事がスミレにはお見通しの様だ。
「三十八のロング・・・確かここにあった様な。」
店内へ戻ると予備の弾を探し始める店員。カウンターの下やら背後の棚やら好き放題開いていると粗末な箱に入った三十八の空薬莢を発見する。「ケースだけか。」と棚へ戻そうとするがエミリアは弾を自作しているのでケースだけでも必要だと見せて貰う事に。早速シリンダー内に空薬莢を収め弾頭部分がはみ出さない品物かを確認する。
「少しだけ長い。弾頭を奥に押し込めば収まるかな・・・それじゃロングの意味が無いか。」
暫く薬莢と睨めっこをしたのち出した答えは「カッターある?」だった。つまり長すぎる弾頭部分を切断し弾頭までをシリンダー内に収める魂胆。弾の制作と言う事は地味で長い作業が始まると悟ったアリスとスミレは「情報仕入れて来る。」とだけ言って店を後にした。
「あぁなったエミは夜まで帰って来ないよね?」
「だろうな。こんな朝っぱらからバーに行っても飲んだくれしかいないだろうし、どこか心当たりあるか?」
情報を仕入れて来るとは言ったものの何処で仕入れるかが問題。アリスの問に対し悩むスミレだったが、昨日宿へ向かう最中魔具店の前を通った事を思い出す。なお魔具店とは魔石を始めとする財宝の売買を行う場所で買い取り専門店よりは安価で買われるものの購入方面ではリーズナブルな物となっている。故に三人は買い取り専門店にはよく行くが魔具店には滅多に足を運ばないのだ。
約十分後、到着したアリスは店の扉を潜ると店内の様子に少しばかり戸惑いを見せる。何故なら魔具を扱っているのにも関わらず明かりが少ない薄暗い中、赤や紫を基調としたクロスやレースを使用した棚、店の奥には何かを崇めるかの如く祭壇の様な物が置かれていたのだ。うさん臭さが滲み出ると言うより全面的に出ている風貌に足が進まず扉を開けたまま立ち止まってしまう。
そんなアリスを早く入れと言わんばかりに押し込んだスミレは店内の様子を見てアリス同様にその場で固まってしまう。そんな様子にアリスは「早く出よう。」と耳打ちするがスミレにはその声が届かなかった。
「可愛い!」
そう言ってスミレは店内の至る所をキョロキョロジロジロと笑顔で回り始める。思い返せば紫はスミレが好きな色である上におどろおどろしい風貌の物とレースやフリルを基調とた物を好む傾向があった。
「ねぇアリス見て。髑髏型の蠟燭立てだって。魔石に反応して眼孔が光るんだって。」
どう見ても悪趣味な品物で、一体何処が財宝の取扱店なんだと嫌気が差したアリスは「ゆっくり楽しんで来い、俺は別の場所に行く。」と逃げるように出て行く。
寒気の様な身震いをしたのちアリスは斜向かいに食堂を発見する。朝食を食べていなかった事を思い出し食欲は失せているが何か胃に入れたいと目指す事に。
店内は如何にもトレジャーハンターだと言う風貌の人間からこの町に住んでいるであろう者まで様々。このような場合ライバルでもあるがトレジャーハンター同士情報交換を行うのも珍しくなく、アリス達の場合は見た目が美少女である為か気を許す者も多い。
「隣良いか?」
そう言って中々に大きなカバンを所持している大柄な男の横に返答を待たず座るアリス。男は横目でアリスを見たが気にせず視線を戻しポタージュにパンを付けて食べるている。
「この町の中心ってのを探してるならもう無理だ、俺達が見つけた。」
その発言を聞いた男は持っていたパンの手を止め体をアリスの方へ向けた。
「中身は?」
「銃だ。生憎仲間が気に入ったようだから流してねぇよ。」
「そうか。で、望みは?」
「この町の他の財宝、又は別の場所。」
すると男は少し黙ったのち口を開く。
「ここから北東の山、やけに平べったい岩がある。『鏡石』って呼ばれてるらしいが、そこに財宝があると聞いた。だが辺りを掘っても何もねぇ、岩も傷付かねぇしで取られた後だろうな。」
「成程、悪くない情報だ。」
今回の情報交換は『既に見つかった物』であり、探していた物が既に見つかっている場合それを探すのは時間の無駄。故にこの男も探したが見つからなかった物の情報を提供したと言う事。
その間も注文をせずカウンターに座っていた為睨んていた店員の視線に気づきパンとスープを注文し代金を置くアリス。店員も少し不機嫌そうだが言われた通り品物を提供すると代金を受け取り数枚の銅貨を返却する。「飲食店なら愛想良くしろ。」と思いつつも黙って食事を始める。
暫くして町中が緊張に包まれた。何故なら魔物の襲撃を知らせるサイレンが響き渡ったからだ。アリスは勿論、食堂にいた冒険家やトレジャーハンターも一斉に飛び出し町の入口へと向かう。なお、町の入口は二か所あるがサイレンのなる方角がそれを示しているらしく、今回はアリスも使用した西口。
到着すると既に複数の者が多数の熊型の魔物と戦闘を開始していた。「今回は俺達のせいじゃないよな?」と少し疑問符を浮かべながらも双剣を引き抜き戦闘へ参加するアリス。数が多い場合は高機動型の義肢を使用する事が多いのだが、今はスミレが近くに居ない上に目の前まで来ている魔物に対し交換している余裕は無い。
本来熊の様な毛は刃物を通しにくいのだが、冒険家やトレジャーハンターとなると魔石による付与の力で対処する者も多い。中には音の魔石を使用し刃を高速振動させ斬りやすくしている者も。しかしアリスの場合、双剣が財宝であり刃毀れもしないコーティングと触れるだけで切れてしまう程の鋭い刃を持つ為問答無用で斬る事が出来る。
五匹六匹と数を減らすが魔物の方も次から次へと表れる。質が悪いのは移動速度の速いウルフが参戦した事。近接武器しかない場合、自分を襲う瞬間にカウンターの如く攻撃するしか手段はなく、飛び道具が無いと不利の一言。
「増援はまだか!?」
「おそらくこれで全員だろうよ!」
怒号の飛び交う最中、ふとアリスが町の方へ目線を向けるとそこには既に高機動型の義肢を用意したスミレの姿が目に入る。交換している間は無防備故、アリスは目の前に居た大柄な男に声をかける。
「俺と来てくれ!十秒だけで良い、時間をくれ!」
すると男はアリスの顔を見るなり「分かった。」と最前線を離脱。入口には両脚を構えたスミレがおりアリスは自分の体を持ち上げる事を男に命令する。男は言われるがままアリスの体を持ち上げるとその瞬間アリスの両脚の義肢が外れ間髪入れずスミレが脚を装着する。着地と同時に右手で左腕を外しスミレが装着、すると装着したばかりの自らの左腕で右腕を外しスミレが装着をするとすぐさま振り向き最前線へと戻るアリス。
「四肢全部が義肢なのか・・・」
驚きのあまり声を漏らす大柄の男。因みにこの男は偶然だったのか先程食堂で情報交換した者であった。アリスの言う事を聞いたのも財宝を手に入れる実力があると知っていた為だろう。
スピードを手に入れたアリスは先程とは比べ物にならない程の速さで次から次へと魔物を切り裂いていくのだが、この高機動型の欠点はエネルギーの消費が激しい事。物の数分で徐々にではあるが速度が落ち始めて来ている。が、それをサポートするが如く現れたのはエミリア。熊に対しては非力な拳銃だがウルフに対しては効果がある為アリスの負担を減らすべくウルフを中心に攻撃を開始する。
中には全員の攻撃をすり抜け再装填中のエミリアを狙うウルフも居たのだがスミレのロングスパナがそれを阻止。装填を済ましたエミリアが近距離で発砲する事で難を逃れ、敵の数は見る見るうちに減っていく。
「あとはその熊だけ!」
スミレの声を聴き最後の魔物を斬ったアリスは剣を握ったままその場に倒れ込む。どうやら体力を全て使い果たしたらしく仰向けのまま大きく呼吸を繰り返していた。
魔物の迎撃に成功し歓声を上げた矢先、倒れたアリスの数メートル手前の地面が急に盛り上がり三メートル近い隆起となる。が、それは魔法でもなければ天変地異でもない。動く砂の集合体、所謂ゴーレムである。
ゴーレムが最初に狙うのは目の前で倒れている絶好の獲物であるアリス。しかし当の本人はまともに指先さえ動かせず唯々ゴーレムを睨みつける事しか出来なかった。
「スミレちゃん。弱点は?!」
「ゴーレムは口の中に魔石がある筈、それを壊せれば。」
そう言われエミリアは頭部と思わしき場所へ銃弾を撃ち込むのだが、砂の防弾性は高く表面を削り一瞬魔石が見える程度にしか通用しない。
前線に居た者もアリスを助けようとゴーレムに向かうが腕の様な砂の塊を持ち上げたゴーレムの方が先に行動するだろう。そんな時エミリアはもう一つの銃を取り出した。この銃の威力ならば砂をもっと消する事が出来るだろうと。
予想は的中。三十八ロングから放たれた弾丸は四十五ショートよりも破壊力が高く一発で魔石が見える程の砂を吹き飛ばす。しかし砂である為即座に元通りになってしまうので続けて二発目を発射、そして三発目でついに魔石へ被弾。その瞬間、ゴーレムは形を保てなくなり持ち上げた砂の塊はそのまま落下し五秒もすれば何言わぬ砂の山だけが残った。
今度こそ終わったのか。そう言った静まりが十秒程続いた後、エミリアが銃を下したのを合図に再び歓声が沸く。スミレはエミリアに飛びつき「やったーっ!」と左手を上げて勝利をアピール。それに伴い周りの者も「よくやった。」と讃える。
今回の騒動で三人の脳裏に過ったのは『この付近の魔物は財宝に惹かれるのではないか?』と言う事。そうなると自分達がこの町に来たのが原因があると考え、半ばマッチポンプになってしまった故にこの町を明日にでも出る事を決意する。
「この弾試作品だけど使えて良かったわ。」
あまり聞きたくない言葉がエミリアの口から零れた。




