東の街 ①
予備知識として銃の説明を記載しておきます。
リボルバー 弾倉が回転する形状の銃。六連発が多い。
シリンダー リボルバーの回転式弾倉部分の事。
中折れ式 銃の上部から二つに折り開き弾を込める仕組み。
ガンベルト 銃を入れるポケットが付いたベルト。西部劇等で使用されている。
雷管 薬莢の場合は後ろ部分についており、叩く事で火花が出る。
薬莢 弾の筒部分。英語では『ケース』
弾頭 弾の先端部分。
実包 薬莢に火薬を入れ弾頭と雷管を取り付けた物。『弾』はこれを指すことが多い。
中の火薬には雷管の火花で着火し弾頭が飛んでいく。
排莢 撃ち終わって空になった薬莢を取り除く事。中折れ式は折るだけで取り除ける。
因みに撃ち終わった直後の空薬莢は大なり小なり熱を持っている。
朝にやる事はいつも同じ。アリスは全身を動かし双剣のチェック、スミレは本を取り出しパラパラとページを捲っては閉じてしまうを繰り返す。そんな中、銃のチェックとクイックドローを繰り返していたエミリアだが急に悩ましそうな顔をしながら銃を見つめ出した。
「どうかした?エミ。」
様子がおかしい事に気づいたスミレはパタンと音を立ながら本を閉じて尋ねるが、当のエミは暫く返答せず唸っていた。
「私の銃って六連発でしょ?もう少し撃てるか、もう一丁あればスミレちゃんが危険な目に合わずに済んだのになぁって思って・・・」
エミリアの持っている中折れ式リボルバーは排莢も再装填も早いのが利点。しかし六連発と言うのが最大の欠点となる。
「義手がやられただけだし気にしなくて良いのに。そもそも私戦えないし。」
「それに関しては俺にも言える。俺が剣だけじゃなくて飛び道具があればスミレを守れた。まぁもう一つ欲しいってなら東の街に着いた時にでも探すと良い。」
スミレの回答に付け足すように入るアリス。
この世界では銃は希少。主な入手方法は財宝としてだが、中にはそれらをコピーして作った物もあるのだが、こちらは精度が良くない物が多く、狭く暗い場所で秘密裡に制作される事からモグラと呼ばれている。
「そうね。この街のガンショップには弾しか置いてなかったし。」
エミは機嫌を取り戻したのか銃に弾を込めると一回だけガンスピンをしガンベルトへと収めた。
「よし、東の街へ行くぞ!・・・参考に聞くが徒歩だよな?」
「馬車よ。歩いて行ったら今日中に間に合わないでしょ。」
嫌だと喚くアリスを引きずりながら二人は港町の東まで移動し馬車へと投げ込む。その乱暴な行動に戸惑う御者だが、笑顔で「出して。」と訴えるエミリアにどこか恐怖を抱き出発する。
「あ゛ぁ゛ーーーー。」
地獄の底から聞こえる様な声を上げながら寝転がっているアリスに対しスミレが話し掛ける。
「気持ち悪くなるって分かってるなら最初から寝れてば良いのに。」
「乗ってから出発まで五秒だぞ。そんな短時間で寝れるか!」
コントの様なやり取りをしつつ一行は東の街へと向かって行く。しかし、出発してから数時間と言う所で馬車が急に速度を上げた。何事だと御者に聞けば魔物が追って来ているとの事。見てみると馬車の後ろには確かにウルフが確認出来る。
「追いつかれるのも時間の問題ね。」
そう言ってエミリアは銃を引き抜き六発発射する。当たってはいるが致命傷とならず数が殆ど減っていないのだが、そんな状況下でも追走を止めない事から全面的に戦う事が余儀なくなれた。
「逃げないわね・・・スミレちゃん!」
「オッケー、弾はここに置いとくね。あとはアリスだけど・・・」
名前を呼ばれ本を取り出したスミレはページの面を下にしその場で振るとエミが使用する弾薬箱が数ケース音を立て落ちる。その後はその本のページを暫く捲ると急に手を本に突っ込み四角い機械を取り出した。
「えい。」
「痛ってーー!!!」
「アリス起きた?」
「お前が起こしたんだろスタンガンで!」
「それよりモンスターだよ。」
強制的に目覚めさせたアリスに馬車の後方を指差し確認させるスミレ。状況を把握したアリスはスミレへ要望を伝える。
「高機動型!」
そう言われたスミレも別の本と取り出しながらアリスへと叫んだ。
「脚外して!」
アリスはその場で座りスカートを捲り上げると慣れた手付きで自分の義足を両方取り外す。太腿の半分程度しかない脚では不安定になり転びそうになるが、スミレが本から取り出した別の義足を素早く装着させる。
「右!」
そう言われ右腕を外すアリスへ間髪入れず別の義手を装着するスミレ。その後左腕も交換するとアリスは立ち上がり素早く馬車の後部から飛び出した。
数メートルはあろうかと言う空中に居ながら姿勢は安定しており、双剣を引き抜き着地と共に一気にウルフとの距離を縮め次から次へと切り裂いていく。その一方、馬車には左右からも大型のウルフが一匹ずつ近づいており、エミリアはアリスのサポートをしている暇さえ無かった。
「こっち来んな!」
一メートル程のロングスパナを振り回し威嚇するスミレだが効果はあるのかと言われれば微妙である。対しエミリアは何度も再装填を繰り返し馬車の中にはそこら中に空薬莢が転がり始めた。
「スミレちゃん交代!」
進行方向右側のウルフを片付けたエミリアは続いてスミレの居た左側へ発砲を始める。しかし再装填の際、かなりの速射で銃身とシリンダーは熱せられ左手で銃身を掴みつつ指でシリンダーを回しながら右手で弾を入れる装填方法を取るエミリアはその熱さから装填ミスをし始める。その間もウルフの接近は止まることが無い為、四発しか装填していないが仕方なく発砲を続ける。が、幸いにもその一発が首元に当たり徐々に後退していくウルフ。
「こいつで最後だ!」
そのウルフに後ろから追いついたアリスが一刀両断するとそのまま馬車へと飛び移る。
「疲れた~、俺はもう寝るぞ。」
そう言って馬車に戻るなりその場で仰向けに倒れこむアリス。
「あ、その辺は空薬莢が・・・」
「あっちぃ!!」
「助かったよ。しかし何で魔物が追いかけて来たんだ?食い物を積んでる訳でもないのに・・・」
騒ぎが落ち着いた頃三人へ話し掛ける御者。
「あの魔物は食べ物に反応するの?」
「いや、食い物と高い魔力だな。」
御者の答えに対し急に小声になるスミレとエミリア。
「今魔道具いくつ?」
「私の鞄にアリスの剣、エミの銃と眼鏡だから四つ?」
「鞄の中は反応しないのかな?」
「え~、そうすると本とか義肢も入るから・・・」
魔物が近づいてきたのは自分たちの魔道具が原因ではないかと冷や汗をかく二人に対し御者が「何かあったか?」と尋ねて来る為「何でもない、何で魔物が来たんだろうねぇ。」ととぼける事に。
更に数時間後、昼食を取るにも遅い時間に東の街へと到着する一行。
「はい到着。それにしても嬢ちゃんが義肢だと言うのにも驚いたよ、その義肢を作った人も相当な腕だなぁ。それだけ自由に動く手足なんて滅多にないから大切にするんだよ。」
御者はそれだけ言うと馬車を進め去って行く。
「大切に・・・か。」
呟くアリスをニヤニヤと見つめているスミレ。そう、アリスの義肢もスミレが作った物で、彼女が居ないと義肢が壊れた際動けなくなってしまう。その為、アリスはスミレの趣味に合わせた格好をする事を条件に義肢を見て貰っているのだ。
なお、スミレの義肢は自分の意思通りに動かせるのは勿論、皮膚等に感覚、痛覚をも再現する程の一品で、仮に義肢専門店を開けば世界各国の人間が足を運ぶ程。
「とりあえずアリスを宿に寝かせよう。」
地獄の底の様な声こそ上げてはいないが全体重をエミリアに預けぐったりとしているアリス。つい先日にも同じような事があったなと感じながら一行は宿に到着する。
「あとは私がやっとくからエミは銃を見てきたら?」
「そうね。さっきの戦闘で結構弾使っちゃったし、弾を買うついでに銃も手に入ると良いんだけど。」
「はいよ、四十五のケース。それにしても弾を自作とは若いのに感心するな。」
「いえ、自分の使いやすい分量にしてるだけなので。」
ガンショップにて普段から使っている弾の材料一式を買い込むエミリア。そんなエミリアを見て感化されたのかガンショップの店員が一つ話を持ち掛ける。
「実は今朝届いたばかりの銃があるんだ。見てくか?」
「銃があるの?是非見せて。」
すると店員は何処か自慢げに戸棚の中から一丁の銃を取り出しカウンターの前へと置いた。
「パーカッションロックね。」
「流石詳しいな。金属薬莢は使ってないが十分現役だぞ。」
「試射出来る?」
「いやぁ、新品をそのまま欲しいって人もいるからなぁ。」
「そう?なら良いわ、ありがとう。」
「あぁ!待った。俺も見てみたいし、やっぱ撃って良いぞ。」
帰るエミリアを引き留め試射させる事にした店員は店の裏にある射撃場へと案内する。最も、射撃場と言っても巻き藁が積んであるだけなのだが。
因みにパーカッションロックと言うのは銃の仕組みの一種で金属製の薬莢を使用せず銃本体、又はシリンダーに直接火薬と弾を装填し、雷管による火花で着火する仕組みであり、現在エミリアが使用している物より古い世代の代物なのだが、この世界では未だに主流である。
「はいよ、ゴーグルとイヤープロテクター。」
「ありがとう、パーカッションロックは火薬カスも凄いから助かるわ。」
そう言って装填後の銃を置き受け取るエミリア。眼鏡を外しゴーグルを装着し、プロテクターも耳に付けいつでも発射可能の状態になる。
巻き藁の前にはテーブルに乗せられた六つの瓶。エミリアは十メートル程離れた場所で銃を構え一発、また一発と発射していく。すると瓶は発砲音と共に同じ数だけ割れ、最後の一つになった所で違う所が割れた。
シリンダーの破損。強度が足りず発砲と共に砕け散り辺りに破片が飛び交う。更にシリンダーの固定も甘かった様で発射された弾が銃身の根本に当たり、こちらも辺り一面へと砕け散った。
幸いにも破片はゴーグルに一か所だけ辺り顔は無事で済んだエミリア。問題は撃った右腕なのだが、指から手の甲への激しい断裂に加え前腕部にも複数の破片が直撃。その右手は持って居られず暴発した銃をその場に落としてしまう。
「うわぁ!大丈夫か?!」
急いで駆け寄る店主だがに対し「大丈夫。」と答えるエミリア。そんな訳がないだろと彼女の右手を見るのだが確かに血が一滴も出ていない。
「ん?・・・あ、もしかして義肢なのか?」
「そう、駄目になったのは義手だけだから私は平気。」
「畜生!あの問屋、財宝産とか言ってモグラ掴ませやがったな!」
エミリアへの心配の次は銃を卸した問屋に怒り出す店員。結局迷惑をかけたと言う事で弾代は無料にしてくれたのでエミリアからすればちょっと嬉しい。しかし、義手を壊してしまった事には酷く落ち込んでいた。
「エミ!大丈夫!?」
宿に戻るなり素っ頓狂な声でエミリアに近づくスミレ。
「私は平気。でもごめんね、暴発して手壊しちゃった。」
「いくらでも直すよ!無事で良かった・・・」
そう言ってエミリアの右腕を取り外すスミレ。傷口を広げ中の様子を外部から確認し始める。
「肘は平気そうね、手の方はダンパーもワイヤーも駄目そう。」
「人差し指?」
「そう、動かなかったでしょ?」
続いてスキンを剥がし内部のパーツ交換や調整を進めていくスミレ。そんな彼女の作業を見ているのも好きなエミリアは待っている間は退屈とも思わなかった。
「出来た、右腕出して。」
エミリアは修繕した義手をスミレに取り付けて貰い早速動かしてみる事に。グーとパーを繰り返し、手を捻り肘を曲げ、銃を取り出すと排莢し再びガンベルトへ差し込みクイックドロー。その際撃鉄がカチンと音を立て人差し指も問題なく動いてい事が分かる。
「パーフェクト。ありがとうスミレちゃん。」
「どういたしまして。また何かあったら言ってね。」
「やっぱり分からないな。」
「街の中心って言ったらこの辺りよね?」
「小さな時計塔だけ。」
復活したアリスを含めた三人は財宝の在りかと思われる街の中心へとやって来たのだが、時計塔等はとうに調べ終わっているだろう。その上地面のタイルが変わっている事から掘り返したとも考えられる。
「あとは黄金の川?」
「でもここの川は至って普通だし・・・」
時計塔の近くを流れる川まで来た三人は黄金色をした川出ない事を確認するのだが、アリスは大体見当が付いて居る様だった。
「川は分かるが風が脈打つってのがなぁ・・・」
その言葉を発した瞬間、時計塔の鐘が五つ鳴り響く。
「え?まさかコレ?」
「流石に簡単すぎじゃ・・・」
拍子抜けする様な気持ちになったスミレとエミリアに対し構わず地図を広げもう一度確認するアリスはある事に気づいた。
「待てよ、あの時計塔街の中心じゃないぞ。」
「でも目印になる物なんてあの時計塔しか無くない?」
「目印も目立たせる必要も無いんだ。この街の中心はこの川だ。」
川と言われてもと疑問を浮かべる二人。そこで先程アリスが言っていた『分かる』を思い出したスミレはその事を追求する。
「あぁ、黄金色の川ってのは夕日に照らされた川の事だ。」
「って事はつまり財宝は・・・川の中?」
そうと決まればと言わんばかりにスミレは本から義肢一式を取り出した。
「はい潜水用。」
「箱ね。」
「箱だね。」
「お前等まず流されない様にって大量の重りを付けたから浮上出来ずに居た俺に何か言う事なのか?」
命からがら勢一杯の力で川から上がって来たアリスの持って来た箱に興味津々の二人からはアリスへの罪悪感等は微塵も感じられない。
「でもこの鍵穴見た事ない形してるし、壊すのも多分無理ね。中身も壊れちゃう可能性あるし。」
無視され腹の立ったアリスはその場へ寝そべると視線は徐々に上へと向かって行き、最終的にはある一点に注目した。
「なぁ、もしかして。」
アリスが見ていたのは時計塔の鐘。この金が川から反射された陽の光に反応し一部分だけが妙な光り方をしていたのだ。その事を伝えると三人は急いで鐘の下へと移動しその光る部分を調査する。
「あぁ、なんか小さい穴がある。」
エミリアが針一本分とも取れる程小さな穴を発見。しかしこの穴をどうすればいいのか分からずスミレへバトンタッチ。するとスミレは義肢に使用するワイヤーを差し込み弄っていると光っていた部分がまるで蓋でもされていたかの様にパカっと開き鍵がその場へ落ちた。
「この鍵でさっきの箱を?」
「そんな簡単な事が今までバレなかったとは到底思えないが。」
そう言うスミレとアリスを尻目に鍵を差し込み回すエミリアは報告する。
「でもそんな事があったみたいよ?」
拍子抜けと唖然を混ぜた様な表情をしながら箱の中を確認するアリスだが、中を見て早々に興味を失う。
「あぁ、確かにアリスは興味無いよねぇ。でもエミは違うでしょ?」
箱の中に入っていたのは今現在エミリアが欲しいと思っていた物。まるで話をしていたから手に入ると言う都合の良い展開には二人も少しばかり戸惑っていた。
「新しい銃・・・」




