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三人の少女(?)達


 遥か昔この地には偉大なる技術者が居た。しかしその者の名は知らされておらず、その者が残した『遺産』は現代に多大な影響を与え人々の暮らしは次第に変化し始める。魔石は全ての原動力に、そして彼の作った道具は常識をも覆す物ばかり。


 この物語は『財宝』と言う名の『遺産』を探す三人のトレジャーハンターの活動記録である。






 大海原に浮かぶ一隻の帆船。二十五メートル程の船体に三本のマストがあり、帆は風を受け意気揚々と前へ進んでいた。そんな快適な船旅の中、赤いケープを羽織り、フリルやレースが施された白いノースリーブのドレスに身を包んだ者が一人マストに寄りかかりながら苦悶の表情を浮かべていた。


「あ゛ぁぁぁー。」


 まるでゾンビの様な声を上げつつ何かに耐えているようだ。すると膝が見える薄紫色のワンピースにフリルの付いた黒いエプロンを付けた子が近づき話しかけて来る。


「だから船内に居なって言ったのに。風に当たっても変わらないでしょ?アリスの場合は。」


 それに対しアリスと呼ばれた者はゾンビの様な声で返答する。


「変わらないならすぐ降りれる甲板が良いじゃん・・・」


 これには呆れて物が言えなくなる。するとそこへ水色のブラウスに紺色のロングスカートを履いた者が合流した。


「スミレちゃん、アリスの様子はどう?」


「あ、エミ。見ての通りよ。乗り物苦手なんだからウロチョロしなきゃいいのに。」


 スミレと呼ばれた子はエミと呼ばれた者に状況を伝えていると船の鐘が辺りに響き渡る。どうやら目的の港が見えたようで鐘の音を聞いた者は下船の準備を始めていた。


「さ、私達も降りる準備をしなきゃ。スミレちゃん何か荷物ある?」


「そこで伸びてるアリス。」


 そんなやり取りから十分程すると船にタラップが置かれ下船が始まる。荷物と言われただけもありアリスは二人に引きずられる様な状態で桟橋を歩く。


「綺麗な街ね。本当にここに財宝が?」


「勿論、この天才スミレ様に間違いはない!」


「船に乗った事が間違いだ・・・」


 二人の会話に割り込むアリスだが完全に無視され今日泊まる宿屋の探索から始める事にした。港町だけあって海産物を多く取り扱っており、屋台から香る焼き魚や貝の誘惑を振り切ってたどり着いたのは大きな広場の近くの宿。広場にある噴水も窓から見える絶好な部屋だった。


「部屋も取れたしどうしよう?魚買ってこようか?」


「それも良いわね。でも私ちょっと弾が気になるからそっちに行って来ても良い?」


 部屋に着くなりアリスをベッドへ放り投げ話を進める二人。勢い余って下半身しかベッドに乗っていないのだが船酔いで動く気にもなれないアリスは再びゾンビの様な声で自分の状態を教えようと声を上げる。


「エミ~?スミレ~?上半身も乗せてほしいんだけど・・・」


「スミレちゃん、何か聞こえた?」


「何も。この部屋にゾンビなんて居る訳ないしねぇ。」


「御免なさいスミレ様エミリア様どうかこの下僕めをベッドの上に乗せて頂けないでしょうか?」


「最初からそう言えばいいのに。」


 そう言いながらへり下った態度を取るアリスを起こすスミレ。同時にエミリアは靴を脱がせてベッドの脇へ添えており、二人の連携の良さが伺える。


「じゃあ私達出かけて来るから留守番よろしくね。部屋から出ちゃ駄目よ。」


「こんな状態で出れる訳ねぇだろ・・・」


 減らず口が止まらないアリスを無視しスミレは食材を、エミリアは弾薬の調達へと向かう。





「お、お嬢ちゃん可愛いね。一匹おまけするから買ってってよ。」


「え~一匹だけなの~?こ~んな可愛い子捕まえて~?」


「こりゃ参った。こっちのも付けるよ。」


 スミレと店主の会話から今日の夕飯は豪華になるかなと想像しながらエミリアはやや薄暗い路地へと向かって行く。昼間だと言うのに酒瓶片手に酔いつぶれている者や新聞を広げながら煙草を吹かしているサングラスの男等、到底女性一人で歩くには危険な場所なのだが、それでも近づいて来ないのはエミリアの腰に差している拳銃が原因だろう。


 鼻を頼りに行き着いた先はガンショップ。自分の鼻が鈍っていない事を確信しつつエミリアは扉に手をかける。中は火気厳禁な為、明かりには魔石を使用しており、幾つ物拳銃やカートリッジがケースに飾られていた。


「ん?珍しいな、女の客とは。何を探してるんだ?」


「即燃パウダーと四十五のショートケースにプライマー。あとフルメタルジャケットはある?」


「銃に詳しいねお嬢さん。一ケースで良いのか?」


「三つ。」




 一時間後、買い物を済ませた二人は宿に戻り酔ったままのアリスへの食事を準備していた。


「リンゴって擦って出すのが良いんだっけ?」


「それは風邪をひいた時。」


 そんなやり取りの結果ウサギリンゴを持ってきた


スミレは一つアリスの口に押し込むと皿をベッドサイドテーブルに置き自分は買って来た魚を食し始める。買ってから時間が経っているにも拘らずほんのりと残った温かみと齧り付いた際に出てくる魚の脂の味に舌鼓を打つ。


「それより何か情報手に入ったのか?」


 押し込まれたリンゴを手で取り話し掛けるアリスに対し、スミレは一つだけ情報が手に入ったと目の前の魚を一匹食べ終えるまで何も言わす、満を持して情報を二人へ伝えた。


「この街には財宝への地図が隠されているが、それは手に取る事が出来ない。って事らしいよ。」


「地図が隠されているが手に入らない・・・。物じゃないって事なのかしら?」


 話を聞いたエミリアが頬に手を当て考えているとアリスが何か心当たりでもあるかの様に質問をする。

「この街で変わった建物とか目立つ建物は無かったか?」


「目立つと言えばやっぱりそこの噴水ね。結構広い広場になってるし。」


「そこから見て変な位置とか妙な位置に何かないか?」


「妙なって随分抽象的ね・・・しいて言えばベンチが丸い事かな?あとは一本だけの木とか・・・」


 窓を覗くスミレの回答に何やら自信が付いた様でアリスは「大体分かったから今日は寝る。」とベッドの毛布を被り即座に鼾を立て始めた。そんなアリスに溜息に近い呼吸をするとスミレは二匹目の魚を食べ始める。たったあれだけの情報で分かるアリス対し分からない自分を責めるのを半分、歯を磨かなかった事半分と言う微妙な感情がスミレの頭を駆け巡って居た。窓から見える時計塔の時間は午後五時半を指している、眠るには早すぎるのだが今のアリスには関係が無いのだろう。




 翌日、三人は各々準備をしていた。アリスは全身をストレッチするかの様に伸びると左右の後ろ腰に差してある双剣を引き抜き演舞の様な舞を始め、スミレは後ろ腰の鞄から本を取り出しては仕舞うを繰り返し、エミリアはガンベルトに収めた拳銃を素早く引き抜き構える。その姿や空気は到底昨夜ののんびりとした者達とは思えぬ程。


「よし、行くか。まずは噴水を調べる。」


 そう言ってアリスを先頭に三人は噴水の前まで移動をする。その間もエミリアは髪が気になる様で手櫛で濃い灰色の髪を梳いていた。


「どうしたのエミ?」


「なんか髪が絡んじゃって・・・」


 質問をしたスミレも自分の黒髪に触れ指がスムーズに通らない事を確認する。それに対しアリスは何やら勝ち誇った様な顔つきで説明を始める。


「やっぱりな、ここの噴水は海水が混じってる。髪が痛んでるのも原因の一つだ。最も、昨日船で散々潮風を食らったのが一番の原因だろうが。」


 意味が分からない二人は顔を見合わせ取り合えずアリスの話の続きを聞く殊に。


「噴水が海水、つまり海を表してる。で、あっちの椅子が昨日スミレの言ってた奴だな。」


 そう言ってアリスの指さす方向には円型になった石製のベンチが配置されていた。


「まさにこれが地図だ。噴水は港、一本の木は時計塔。ならば円形の椅子が財宝の場所。」


 そんな単純な謎ならばとっくに取られてもおかしくはない。だが、アリスの説明通りならば噴水と木の位置が正反対の位置にある為、推理が間違えてるのではと指摘するが、それは『地図』を左右上下全てを反転すれば一致するとの事。この地に来て最初と言う事もあり駄目は元々で街の東を進む事にした一行。噴水からベンチまでの距離を歩幅等から大体の予想を付け、数キロ歩いていると休憩するには持って来ないな日陰を作る木を発見する。


「この辺りって事はこれが目印かな?」


 高さ十五メートル程もある太めの木が目印になるとして問題はこの木の何処に財宝があるかと言うもの。埋めたとしても根に覆われ取り出す事も不可能なレベルなのか、それとも木の幹の中なのか。そんな話をしていると背後からカチャリと言う金属音が聞こえた。


「ごくろうさん。」


 声のする方を振り返ればそこには拳銃を構えた四人の男達。銃を突き付けられ怯えるもなくスミレはその中の一人に見覚えのあり声をかける。


「あ、昨日情報くれた人じゃん。」


 どうやらスミレの情報源はこの者達だったらしい。つまりは情報を流し人に探させ横取りをすると言う『ヴァルチャー』と呼ばれる存在であった。しかしそんな彼らも今自分に起きている事が理解できておらず、自分達が優位に立っていると勘違いしている。何故ならば彼らの背後二十メートル程の位置に狼に似た九匹の魔物『ウルフ』達が迫っているからだ。


 アリス達の視線からその事に気づいたヴァルチャー達だが、焦りからか発射した弾は掠りすらせずウルフの接近を許してしまう。もう後が無い、その瞬間である。


「エミ!」


 アリスの声に反応したエミリアは右手で銃を引き抜くとそのまま腰の位置で発砲する。弾丸は口を開けたウルフの口腔内に入りそのまま脊髄を損傷させる。二発三発と発射する度確実に数が減っていく。


 エミリアが撃たなかった個体は素早く彼らの前に立ったアリスが双剣で一刀両断。返り血を浴びる事なく次の獲物へと切りかかる。その一方スミレは慌てて転んだヴァルチャーに怪我はないかと声をかけていた。そんなスミレの優しさに一瞬何が起きているのか理解できないヴァルチャーだが、一つだけ理解出来る事があった。それはスミレの背後にもう一匹ウルフが居る事。


「スミレ!」


 アリスの声から自分に危機が迫っている事を察したスミレは振り向くとそこには既に口を開いて今にも噛みつく状態のウルフ。とっさに右腕を嚙ませるとヴァルチャーから離れた位置に移動を始めた。すると六発撃ち尽くしたエミリアが再装填を終えウルフの胴体に次々と弾丸をお見舞いする。口が離れた所でアリスが剣を喉に突き立てとどめを刺した。


「大丈夫?スミレちゃん。」


「悪い、手が回らなかった。」


「大丈夫。ちょっとびっくりしたけど。」


 心配する二人に動かなくなった右手を見せながら答えるスミレ。だが心配していたのはこの二人だけではなかった様。


「でもお嬢ちゃん噛まれただろ?!」


 スミレに情報を流した一人のヴァルチャーである。しかしその右腕を見た彼は何故平気そうな顔をしているのかすぐに理解した。


「義肢か・・・?」


 腕の傷から見える金属やワイヤーから義肢であると判断したのだが、安堵の溜息を付くヴァルチャーに対しアリスが目の前まで来ると、


「何か他に言う事ない?」


 とドスの利いた声がで質問をする。するとヴァルチャー達は畏まって「すまない、助かった。」等の言葉を述べた。


「財宝は私達の物で良いよね?」


「勿論だ、お前ら掘るぞ!」


 ヴァルチャー達はエミに返答するとすぐさま持っている手頃な道具で木の周りを掘り始めた。命の恩人である三人に対する彼らなりの感謝からか、掘り始めて数十分で財宝の入った箱らしき物を発見する。


「なんだこれ?」


「眼鏡だね。」


 箱の中には細いフレームの眼鏡が一つ入っていただけ。拍子抜けだと興味が薄くなるアリス。そんなアリスから眼鏡を受け取り一通り見た後掛けてみるエミリアだが、視界が変わる等の変化は一切起きなかった。その為周りから自分が変わったのかと尋ねるが、


「知的度が上がった。」


「可愛さが上がった。」


「可憐さが上がった。」


「優雅さが上がった。」


 と四人のヴァルチャーからはは全く有意義な意見は出なかった。


「試しに空き缶でも撃ってみたら?」


 そう言ってスミレは近くに落ちていた缶を投げエミリアの十メートル程手前に転がした。どんな効果があるか分からない為とりあえず撃つかと引き金を引いた瞬間、エミリアは違和感を覚える。


「命中。まぁエミならこの位の距離外す方が難しいか。」


 何も変わらない事で完全に興味を失ったアリスはやる気の無い声でエミリアに報告するのだが、当のエミリアは疑問をぶつけた。


「・・・ねぇ、今撃つ前に缶動いた?」


「撃ったから動いたんだよ?」


 スミレの返答に納得出来ないエミリアは再び缶に向けて発砲。何をしているだとより一層興味のない顔で見ているアリスに対し眼鏡の秘密を話す。


「この眼鏡、多分急速に変わる物が先に見えるんだと思う。私の目には発射する前に缶が飛んだように見えたの。」


「急激に・・・?じゃあこれはどうだ?」


 そう言ってアリスは剣を素早く降るのだが、エミリアには多少ブレて見える程度にしかならなかった。

「なら要らないや、エミに上げる。」


「私も良いかな、銃使わないし。」


 アリスとスミレは所有権を放棄し、あって困る物でもない為エミリアが貰う事にした。その一方で置いてけぼりを食らっているヴァルチャー達だが、三人から「もう悪い事しないでよ。」と言われそそくさと街へ戻って行った。


「私達も帰ろうか。」





「う~ん。骨格が曲がってる・・・ワイヤーも結構切れてるしスキンの張替えもあるし、これはもう一日かかるかな。」


 右腕を取り外し義肢を確認しながらスミレが呟く。


「予備は?」


「あるけどこの腕が一番使いやすいからねぇ。」


「ならまだ昼間だし俺とエミで情報集めて来るよ。」


 そう言って椅子から立ち上がったアリスは部屋を出て行き、それに続いてエミリアもスミレに「アリスが暴走しない様に見とくから。」と言い追いかけて行く。


 誰が言ったか情報と言えば酒場。と言う事で街にある酒場を訪ねてみる事にした二人、中に入れば場違い感丸出しである為昼間から酒を食らう者が全員注目してくる。そんな事はお構いなしにアリスはカウンター席へ座ると店主へ話し掛け始めた。


「マスター、『遺産』の情報は?」


「聞かないな。」


 するとアリスはカウンターへ金貨を数枚積み上げる。


「広場以外で何か聞いた事は?」


「ここから東に町がある。風が脈打ち川が黄金色に輝く時、標が現れると聞いた事がある。」


「謎を解いた人は?」


「居るもんか、居たら噂にでもなってる。」


 今の話についてどうするか二人で相談していると、店内の奥からガラの悪い典型的な輩が二人の前に出てきて声をかける。


「よぅお嬢さん達、俺の相手をしてくれよ。」


「財宝の話があるならね」


 酔っ払いを態々相手にする必要も無く追い払おうとするアリスだが、輩は一笑いするとさっきより近い距離まで近づき絡んでくる。


「財宝だぁ?トレジャーハンター気取りかよ。」


「知らないなら用はないわよ。あっちで一人寂しく飲んでなさい。」


 エミリアの言葉に腹を立てた輩は「生意気な小娘が。」と銃を抜く。だが二人は落ち着いた声色でそっと輩を注意する。


「悪いけどあんたの弾は私には当たらないわよ。」


「しかも撃てばお前は牢獄行き。」


「銃は脅しの道具でも見栄を張る道具でも無いのよ。」


 そんな二人の注意を無視し輩は「面白れぇ事いうじゃねぇか。」と発砲する。しかし前言の通り弾は避けた際に翻ったエミリアのスカートを貫通しカウンターに直撃する。


「穴が開いたな、修理代上乗せしとくぜ。」


 店内で発砲されても微動だにせずマスターは輩へ修理代を請求。同時に「私のスカート代も。」と更に追加。


「んでこいつは突き出せば良いのか?」


「ま、そいつはあんたらに任せる。」


 アリスの問にそっけない態度な店主。そこでアリスは発砲した事で注目が自分達に集まっている為誰か財宝の噂を知らないかと尋ねれば、奥の客が「東の町の中央にあるって話を聞いたぜ。だがいくら探しても見つからないからもう取られたかもしれないがな。」と返答があった。


「ありがとう、あの人に免じてスカート代だけで勘弁してあげる。」


 奥の客に例を言うとエミリアは輩から財布と銃を取り上げ弾を抜きカウンターへ置き、手頃な銀貨を数枚手にし酒場を後にした。




「しっかしなぁ、一日に二回も絡まれるのかよ。」


 外へ出るなり愚痴を零すアリス。


「今日は厄日かもね。」


「と言うかエミ、よく避けれたな。」


「さっきの眼鏡のお陰よ。撃つ瞬間が分かるから先に動いただけ。まぁ初めてだったから賭けだったけど。」


 やった事も無いのにあれだけ堂々といられ、実際に成功してしまうというエミリアの行動と度胸に関心するアリスだが、その足で向かった服屋では先程の関心を失ってしまう。


「ねぇどうこのスカート。」


「何だって良いだろ。」


「この生地凄いわよ。表面は一見硬そうに見えるのに柔らかくてなめらかなの。」


「聞いてねぇよ。」





 宿に戻ると次の財宝までの行動を会議する事に。


「とりあえず次は東の街だな。」


「地図で見ると真ん中に川が流れてるのね。」


 アリスの言う東の街の地図を取り出し川の部分を指さすスミレ。次は移動手段について。


「距離は?」


「結構あるよ。馬車で行くのが一番かも。」


「酔うからやだ。」


 まるで子供の様な言い分をするアリスだが、歩きだと丸一日以上かかると言われ手の平を返した。


「出発は明日だね、今日はもうすぐ日が暮れるし。って言うか朝から何も食べてないからお腹空いた!何か食べに行こう。」


「食べに行こうたって、お前右腕は?」


「この通り、天才スミレ様は半日で直しちゃったのだ。」


 そう言ってアリスに見せつけたスミレの義肢は先程の傷が跡形もなく消えており張りなおしたスキンもスミレの肌と綺麗に同化していた。流石天才を自称するだけの事はある。


 しかし食事中になるとスミレは屡々右手を動かしその挙動を凝視し「う~ん。小指の動きがちょっと良くないかも・・・」と零していた。




「あ、この宿お風呂あったんだ。」


 食事から帰ると昨日は気づかなかった風呂場が設置されている事に気づいたスミレは二人へ報告するのだが、アリスは乗り気じゃないようだ。


「俺はパス。」


「臭くなるから入りなさい。」


 エミリアに引っ張られるような形で風呂場へ連行される事となったアリスは終始不貞腐れた顔付でスミレに髪を洗われていた。


「ちゃんと洗わないとせっかく綺麗な金髪が台無しじゃない。」


「綺麗である必要が無い。」


「髪が綺麗じゃないと美人が台無しだよ。」


「誰も美人になんかなりたくない。」


 何を言っても否定するアリスに桶の水を乱暴に頭からかけるスミレのやり取りを微笑みながら見つめるエミリア。その空気は仲の言い友達と言うより家族に近く、全員が自分の背を預けられる程信頼している。


「まぁ風呂と寝る時は髪解くからそれだけは良いかもな。」


 普段ツインテールにしている為たまに腕に髪が当たる感触を苦手としている様で、ドラム缶風呂の様な縦長の湯舟に入る際も湯に浸からない様タオルで縛っているのが唯一の救いらしい。


 本来リラックスをする場所である風呂。しかしそれは同時に一番油断している時とも言える。


「エミ、スミレ。」


 何かの気配に気づいたアリスは小さな声で二人へ合図する。


「まさか三回目?」


「え?二回目いつあったの?」


 酒場での絡みの事を聞いていないスミレは戸惑うものの、いつでも飛び出せるようアリスの支持を待つ。


 全員の会話が止まり不審に思ったのか、気配の根源である存在は少しばかりその場から動いた。その瞬間に三人は湯船から飛び出し一気に距離を詰める。アリスは近くにあった木の枝を折り、その者を押し倒し首元へ突き付ける。


「・・・お前昼間の。」


 気配の正体は昼間三人に助けられ、スミレに情報を流したヴァルチャーの一人だった。


「いやいやいや違うんですよ姉さん!」


「誰が姉さんだコラァ!」


「いや、俺は姉さん達に協力がしたくて。」


「その協力が覗きかこの野郎。」


「だからそうじゃなくて。」


「じゃあどう言う訳だ。」


「やっと姉さん達見つけて後を付けたら風呂に行ったもんで、コレだ!と。」


 何も違くないじゃないかとそのまま顔面へパンチをお見舞いするアリスにタオルをかけるスミレ。


「とりあえず話だけでも聞いてあげないと。落とし前はそのあと。」


「何か二言目が怖いんですが・・・。いやまぁ俺は昼間助けて貰って心を入れ替えたんですよ。姉さん達の為ならこの命も惜しくないって思って。俺、精一杯情報集めますんで弟子、いや配下にしてください!」


 改めて事情を説明するヴァルチャーに対し財宝の情報が手に入るならそれでも良いかと思うのだが、覗きをした者が配下にしろと言うのは聊か変態臭があり引き気味の三人。しかし次の街に行けばこいつも何処かに行くだろうと一応は認める事に。


「で、何か情報は?」


「東の街にあるみたいで。」


「町の中央にってやつ?」


「何で知ってるんですか・・・?」


 どうやらこのヴァルチャーの情報は古いらしくすでに知っている情報しかなかったのだが、ここで見放されまいと男は更にもう一つの情報を提示した。


「じゃあ北の街のは?」


「お、それは知らないな。どんな話だ?」


「俺も知りません。」


 いい加減な情報にたまらず脳天へかかと落としを決めるアリス。やっぱり配下にするのは止めだと言うのだが、男は見捨てないで姉さんと縋ってくる。


「と言うか、お前は重大な勘違いしてる。俺達は男だ。」


「ははぁん、ひょっとして姉さん。俺が姉さん達の興味を無くそうと嘘をついていますね?こんな可愛い子が男の訳ないでしょう!じゃ、俺は情報集めてきますんで!」


 そう言って男は風呂場から逃げるように立ち去って行った。何を言っても無駄だと諦めと言っていいレベルで呆れ三人は冷えた体を再び湯で温める事にした。




 訂正しよう。この物語は見た目だけは美少女な男達の活動記録である。




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