ギルド
罪悪感と疲労を抱えてたどり着いたのは、鉄と喧騒の街。
誰もが剣を持ち、誰もが戦う「冒険者の国」。
ここで、レオンはひとりの男と出会う。
レオンは、行商人の荷馬車の上で揺られながら、
ずっと眠ったふりをしていた。
村の光景が脳裏にこびりついて離れない。
老女の最後の声も、鉄の匂いも。
気づけば馬車は街の門をくぐっていた。
門の上には、黒鉄で刻まれた文字――「バルド」。
それが冒険者の国の名だった。
「着いたぜ。ここなら帝国も手ぇ出せねぇさ」
行商人の男が笑う。
気づかれていた。
レオンはうまく笑い返せなかったが、
震える声で礼を言って馬車を降りた。
街の空気はざらついている。
どこを見ても剣と鎧。
酒場では喧嘩、路地裏では賭け、
笑いと怒号が同時に響いていた。
何も持たない少年に、視線は冷たかった。
レオンはふらふらと歩き、
「ギルド」と書かれた古びた建物に入る。
木の扉を押すと、酒と汗の匂いが鼻を刺した。
受付の女はちらりとレオンを見て、鼻で笑う。
「登録希望?」
「い、いえ……その……」
何も言えずに立ち尽くしていると、
奥の席から野太い声が響いた。
「ナラちゃん、そいつ放っとけ。ガキだ」
声の主は、分厚い腕をした男。
片目に傷、髪は乱れ、
背中には使い込まれた大剣を背負っている。
「おい、坊主。座れ」
レオンはびくっと肩を震わせた。
レオンは言われるまま腰を下ろした。
男は酒を一口あおり、「名前は?」と聞く。
「……レオン」
「ダグだ。冒険者だ。お前、剣を持ってるか?」
レオンは背の剣を見下ろした。
錆びた刃の代わりに、村人にもらった新しい剣。
けれどその柄を握る手は、まだ震えている。
「持ってるけど……戦うのは、あんまり」
「だろうな」
ダグは笑いもせずに酒を置くと、
静かにレオンの目を見た。
「戦いたくねぇなら、せめて生き残れ。
それが、負けたやつの唯一の義務だ」
レオンの胸の奥がずきりと痛む。
逃げ続けてきた自分に、
その言葉が刃のように刺さった。
それでも――レオンは小さく頷いた。
逃げることしかできない少年にとって、
初めて向けられた“生きろ”という言葉だった。
やっと逃げ切ったと思った先で出会うのが、
戦うことを知っている男。
レオンの小さな変化が、
ここから少しずつ始まります。




