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姫を探して  作者: ブレイン
第1章:使命

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5/11

ふたたび

逃げ延びたレオンは、村で穏やかな日々を過ごしていた。

けれど、過去はいつまでも眠らない。

錆びた剣が、再び彼を運命に引きずり出そうとしていた――。

木々の合間を抜ける風が冷たい。

 帝国の斥候部隊が、森の中で足を止めていた。


「まだ、姫の行方は掴めないか」

「はい。王都から脱出したとの報告は確かですが、その後の足取りは不明。

 森の村をいくつか調べましたが、痕跡はなしです」


 副官が報告する声に、黒い鎧をまとった男――ガルドは眉をひそめた。

 帝国の軍服の中でもひときわ威圧的なその姿は、まるで夜の獣のようだった。


「姫は必ずどこかにいる。……見つけろ。生きていようが、死んでいようがな」

 低く響く声に、兵たちは背筋を伸ばす。


「王国の残党が身を隠している可能性もある。

 北の森の外れあの辺りも調べろ」


 命令とともに、蹄の音が響き、部隊は森の奥へと散っていった。


夜明け前の村は、まだ薄暗かった。

 煙突から細い煙が上がり、遠くで鶏が鳴く。

 レオンは軒先に腰を下ろし、古びた剣を磨いていた。


 刃の錆びは深く、磨いても光らない。

 もう何の役にも立たない鉄の塊。

 けれど、手放せなかった。

 かつて自分が“騎士”だった証だから。


「そんな剣、もう使えやしないだろう」

 背後から声がした。老女が、籠を抱えて立っていた。

「今日は狩りに行くんだろう? これを持っていきな」


 差し出されたのは、新しい剣だった。


「いいのか?」

「どうせ物置で眠ってたもんだよ。あんたが役に立ててくれるなら、それでいい」

鍛冶屋の息子が昔作ったものらしく、飾り気はないがしっかりしている。

 レオンは一瞬ためらったが、やがてうなずいた。

 古い剣を壁に立てかけ、新しい剣を腰に差す。軽かった。あまりに軽くて、頼りなかった。


 村を出ると、冷たい朝霧が森を包んでいた。

 罠を仕掛け、獣道を進む。

 耳を澄ませても、鳥の声ひとつしない。

 どこか、不気味な静けさだった。


 その頃、村の外れでは蹄の音が近づいていた。


 黒い鎧をまとった兵が数名、馬を降りる。

 先頭に立つのは、帝国軍の中佐ガルド。

 低く鋭い眼差しが村の家々を一瞥した。


「王国の残党がこの辺りを通ったという報告があった。

 少女と若い騎士だ。心当たりは?」


 村人たちは顔を見合わせ、首を振った。

 老女が前に出る。

「ここにはそんな者はおりませんよ、将軍さん」

「そうか……では、これは何だ?」


 ガルドは家の壁に立てかけられた一本の剣を指さした。

 錆びついてはいたが、鍔には確かに王国の紋章が刻まれていた。


 老女の顔から血の気が引く。

 周囲の村人たちも息を呑んだ。


「王国の剣だな。……誰のものだ?」

 返答がない。

 ガルドはため息をつき、部下に目配せした。


「全員、調べろ」


 その言葉を合図に、兵たちが家々に踏み込む。

 悲鳴が上がる。

 老女が前に出ようとした瞬間、兵の一人が彼女の腕を掴んだ。


「やめてください! あれは拾っただけで――!」

 老女の言葉は、刃の音にかき消された。

 空気が裂け、地面に血が散る。


 *


 その頃、森で獣の気配を追っていたレオンは、異様な音を聞いた。

 叫び。鉄の匂い。

 体が勝手に動いた。

 森を抜け、村が見えた瞬間――息が止まった。


 家が燃えていた。

 人が倒れていた。

 そして、あの老女が地面に横たわっていた。


 足がすくんだ。

 剣を握る手が震える。

 頭が真っ白になる。


 老女が、微かに顔を上げた。

 目が合う。

 震えた唇が動いた、声は出ていなかった。


「逃げなさい……」


 その瞬間、レオンは走り出していた。

 剣を握りしめながら、何も考えず、ただ森の奥へ。

 焚き火のように赤い夕陽が、背中を焼いた。


 “また逃げるのか”。

 その言葉が、心の奥で何度も響いた。

再び“逃げた”レオン。

彼は騎士でも英雄でもなく、ただの若者として弱さを抱えています。

けれど、この逃避の果てに何を掴むのか――。

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