逃亡の姫
帝国の急襲によって、王国は一夜にして崩壊の危機を迎える。
王女リリアは、わずかな護衛と共に密かに城を離れることになるが――
その決断は、幼い頃から守られてきた「姫」としての殻を打ち破る始まりでもあった。
――王都が、燃えていた。
夜の空は真っ赤に染まり、城の塔が崩れ落ちていく。
炎の粉が風に乗って舞い上がり、まるで空そのものが泣いているようだった。
「姫様、急がねば!」
護衛の兵が叫ぶ。
リリアは長いドレスの裾をつかみ、転びそうになりながら走った。
息が苦しい。けれど止まれば、すべてが終わる気がした。
「……お父さまは?」
問いかけに、兵士は顔を歪めた。
「陛下は玉座をお守りです。姫様をお逃がしするよう命じられました」
喉が詰まる。
それが“最期の命令”だと、わかってしまったから。
地下への扉が開く。
湿った風が顔にかかり、背後では崩れる音が響く。
見慣れた廊下が、光に呑まれていった。
「神よ……この国を、どうかお守りください」
リリアはそっと祈り、暗闇の通路に足を踏み入れた。
涙はもう出なかった。
恐怖よりも、冷たい決意のほうが強かったから。
――たとえ国が滅びても、希望だけは失わない。
その想いを胸に、姫は長い闇の中へと歩き出した。
読んでくださってありがとうございます!
今回は姫リリアの脱出シーンを中心に描きました。
彼女はまだ「逃げる」だけの存在ですが、
やがてこの夜が、彼女自身を変えるきっかけになります。
次回からはレオン側の物語が動き始めます。
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