騎士になれ
街の門が見えたとき、レオンはようやく息を吐いた。
荷馬車は傷だらけだったが、倒れることなく進んでいる。
商人も、雇われた護衛たちも、生きていた。
「……着いたか」
誰かがそう言い、張りつめていた空気がほどける。
レオンは剣を下ろした。
腕は重く、脚は震えている。
魔物と相対したときの恐怖は、まだ身体の奥に残っていた。
怖かった。
本当に、逃げ出したかった。
それでも、あの時。
逃げなかった。
理由は分からない。
守ると決めたからか。
それとも、もう逃げる自分に耐えられなかったからか。
「よくやった」
ダグが、軽くそう言った。
レオンは返事ができず、ただ曖昧にうなずく。
評価されるほどのことはしていない。
それでも――
逃げなかった。
その事実だけが、胸に残った。
報酬を受け取り、護衛任務は正式に終了した。
それぞれが次の仕事へ向かう中、レオンは一人、街の外れに立ち尽くしていた。
冒険者として、生きていくことはできるだろう。
護衛も、討伐も、依頼を選べば。
だが、胸の奥に沈んでいる言葉が、離れない。
――姫を探せ。
それは命令だ。
けれど今は、命令だけではなかった。
自分が生き残った理由。
剣を捨てなかった理由。
「……探しに行くか」
声は小さかったが、迷いはなかった。
「行くのか」
ダグが笑みを浮かべながら聞いてくる
「…はい、ありがとうございました。」
レオンは背負い袋を担ぎ直し、
街道とは逆の方角へ、歩き出した。
冒険者として剣を振るう日々は、ここで終わった。
これからは――騎士として、姫を探す。




