表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

7話 ファイツ君は謎いっぱい?ね、ルー君?

「……あっ!おはよう!シイナさん!」

「おはようございます。ファイツ君、ルーカス君」


 次の日、十分前に男子寮へ行くと既に二人が待っていた。


「今日は誘ってくれてありがとう!シイナさ、あっ!……シイナ様」

「え?」


 え、突然なに?シイナ様?


「あの、その、ボク、貴族の人と話したことがなくて……。あの、無礼な話し方しちゃってごめんなさい……」


 ああ、そういうこと。敬語じゃないからわたしが怒るなんて思われたのかしら。


「そんなこと気にしなくていいですわ。だって、わたし達はクラスメイトなのですよ。上も下もない。普通に話してくれていいし、様なんて要らないわ」

「ほ、ホントに?」


 パッとファイツ君の顔が明るくなる。これだけでこの笑顔が見れるなら、いくらでも好きに話してくれていいわ。


「じゃ、じゃあ、なんて呼べばいいかな。シイナさん?は、ちょっと他人行儀かな?呼び捨てはあれだし……、……シーちゃん?」

「シーちゃん?」

 

 シーちゃん?わたし?……わたしのあだ名?


「あっ、ダメなら別の……」

「全然、全然いいっ!それでいいの!」

「え、いいの?じゃあ、シーちゃん!」


 いい!むしろ、一回聞いたら、もうシーちゃん以外考えられない。


「じゃあ、わたしも、ファイ君……、ファー君、……ファイツ君ね」

「そのままだった」


 ファイツ君ってなんか他の言い方呼び辛いわね。いえ、ファイツ君で既に完成しているということね。


「全然いいけどねっ!あ、じゃあ、ルーカス君はルー君でいい?」

「え、俺?」


 ル、ルー君……。いえ、笑ってはダメよ。そんな可愛いの似合わないとか、そんなのじゃないわ。


「……まあ、いいけど」


 いいの!?駄目って言うと思ったのに。


「んふふ、じゃあ、ルー君ね!二人とも、よろしくね!」

「ええ!」

「はいはい」


 それぞれの呼び名も決まり、街巡りへと歩き出した。



「すごいよね、この街って。山みたいだよね」


 この街の作りは少し特殊。大きく分けて上中下と分かれる。一番上に学園や寮があり、真ん中辺りは学生向けの店があり、麓には住宅街や一般的な商店が並ぶ。本当に山の様に街が作られている。


「あっ、すごい!お店がいっぱいあるよ」


 寮から綺麗に舗装された石畳の坂道を歩くこと数分、お店が並ぶ通りに出てきた。白を基調とする建物が並び、どこも上品な感じのする店構えね。


「なんかいい匂いするね。あ、あれかなー?」


 漂う甘い匂いの先には、一軒のお菓子屋があった。どうやらクレープを売っているみたいね。甘い匂いはクリームやフルーツなどの匂いかしら。


「へーおいしそー。ひとつく……5000ルピー!?」


 ひとつくださいと言いかけたファイツ君が、途中で驚愕の声をあげる。クレープひとつ5000ルピー。


「え、あれ、こういうのってなんか500ルピーぐらいじゃないの?」

「一般的にはそうですわね。……材料が、最高級メロン、希少小麦の生地、最高金賞受賞の牛乳。どれもこれも高そうね」


 材料の説明が書いてあったけれど、少し見ただけで全部高い材料を使っているんだと推測できる。あの学園の人はそういうのうるさいからね。


「ええ……、そんなの買えないよ……」

「この辺りの店は学生向けなんだよ。下の方行ったら、俺達向けの店がある。クレープ屋も確かあったぞ」

「そうなの?よし!じゃあ、下の方へ向けて出発!」


 がっかりするファイツ君へルーカス君が声を掛ける。下に行けば、安いクレープ屋があると。それを聞いて、わたし達の行き先も決まった。


「詳しいのですね」

「あー、親が学園関係の仕事してたからな。よく付いて来てた」

「ふーん、そうなのですね」


 ルーカス君の親が学園関係の仕事をね。それに付いて来てたから、この街にも詳しい。筋は通ってるわね。筋は。


「そう言えば、お二人はどうしてこの学園へ来られたのですか?」


 三人で下へ向かって歩く。下へ行くほど生徒はいなくなるから、こういう話だって話しやすい。


「俺はし……けんに受かったから来た」

「試験?一般入試ですか」


 この学園に来る生徒のほとんどは推薦枠。推薦と言うより貴族枠だけど。わたしもこの枠で来た。


 それとは違い、誰でも受けられる入学試験を合格して来るのが一般枠。一般枠というが、実際はほとんど居ない。学年に数人いるかどうかぐらい。それに受かるぐらいなんだから、相当優秀なのだろう。アルディアーノの侵入にも気づいていたのだから。


「ボクはねー、誘われたから」

「誘われた?どなたにですか?」

「学園長」

「学園長に!?」


 学園長直々に推薦を?それってすごいことなんじゃないかしら。この学園の学園長と言えば、イリアス=ノヴァと共に前魔王を撃退した英雄。そんな人から直々に推薦って、ファイツ君はとんでもない存在なんじゃ。


「へー、学園長から直々になんてすげぇなファイツ」

「……それがねー、よく分からないんだ」

「よく分からない?何が?」

「なんで誘われたのか」


 腕組みをして、うーんと頭を揺らすファイツ君。自分でもよく分かっていないの?


「君にはすごい力があるから、是非うちの学園へ来てくれって言われたんだけどね。結局、何の力があるか教えてくれなかったんだ」

「ええ……。では、スカウトされた時の状況はどんな感じだったのですか?」


 謎を紐解くのなら、当時の状況を知れば分かるかもしれない。思い出してみて。


「うーんと、水を汲みに行く途中で、一匹の猫が数匹の犬に襲われてるのに遭遇したんだ。それで、助けようとしたんだけど、ボク弱っちくてさ、全然追い払えなかったんだ」


 ファイツ君は思い出す様に語りだす。当時の状況、猫の救出劇を。


「空のバケツ振り回しても犬達は全然逃げてくれないし、猫は弱っていたから逃げれないしで、すごいピンチでね。なんとか猫に逃げてもらいたかったんだけど、怪我してるのか動けなさそうで。もう、頑張れって励ますことしか出来なくてね」


 バケツを振り回し退治を試みるファイツ君を想像する。……失礼だけど、弱そう。わあーって言いながら困り顔で振り回してそう。弱いって、犬も多分分かっていたんでしょうね。


「でもね、突然猫がすんごい元気になってね。あっと言う間に犬達を追い払っちゃたんだ」

「突然?」

「うん、突然。それまでは、動くのも大変そうだったのにね。ちょっと休んで元気になったのかな?ニャーッってすごい速さで動いてさ。引っ掻いたりして追い払っちゃった」


 ニャー!と当時の猫の様子を体で表現するファイツ君。やだっ、カワイイ。こんな子なら捕まえたい、じゃなくて。話を聞かないと。


「すごーい、でも、怪我してるし手当てしてあげないと、なんて思ってたらね。そしたらね、これまた突然、声を掛けられてね。それが学園長だったんだ。で、さっきの話の学園来てって言われたけど、ボクの家そんな裕福じゃなくてお金無いからって断ったんだ。じゃあ、全額免除でいいよって言われて。それじゃあ、行くって感じで決まったの」


 緩い感じの説明を受けたけど、結局よく分からなかったわ。ファイツ君が何故、学費全額免除までされるスカウトを受けたのか。猫が関係あるのかしら?


「……ふーん。よく分かんねえけど、あのジジイがそこまで言うぐらいなら、何かあるんだろうな」

「そーなのかなぁ?でも、ボク運動も魔法もそんな得意じゃないよ」


 なんか謎が深まっただけのような。でも、ファイツ君には学園長お墨付きの力があることは分かったわ。


 早速良い収穫になった。さて、メインも収穫をしたいところね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ