5話 男子寮は賑やかでございます。
「それは昨日のことでした」
「い、いや、ちょっと待って。何故貴方が男子寮のことを知っているの?」
お手伝いで来た者は、その生徒と同じ寮内にある、関係者部屋で生活をすることとなる。
当然、わたしが居るのは女子寮なのだから、アルディアーノも、女子寮内にある関係者部屋が一部屋与えられている。
ちなみに、関係者と言えど、異性が寮内入るのは渋られていたが、何かあれば全てわたしの責任としてゴリ押した。何も起こらないと信じたい。
「男子生徒の一人に、私の分身を付けておりますので」
聞けば、新入男子の一人に、自分の分身を執事としてつけているとのこと。いつの間にそんなことしていたのだろう。というか、何故それを主に説明していない。
「聞かれませんでしたので」
「……はあ、いいわ。じゃあ、話の方を聞かせてちょうだい」
「ええ、お嬢様。それは昨日の夕食前のことでした」
本当、この執事は。主をなんだと思っているのかしら。もういいや。とりあえず話聞こう。
「サイテ様、ご夕食の準備ができました」
「ああ、分かった。ちっ、なんでいちいち食堂に行かなきゃいけないんだ」
「決まりですので」
「分かってる!」
私はサイテの夕食を用意し、食堂へ来るように呼びに来ました。すると、そこ
「いや、待って。あなたサイテの執事なの?」
「そうでございますが」
そんな重要なことをしれっと言うアルディアーノ。こ、こいつ……。
「いや、さすがにそれは言いなさいよ」
「申し訳ございません」
「…………はああぁ。……もういいわ、続きを」
「はい、かしこまりました。事件は食堂で起きました。時間はちょうど夕食時、他の生徒も続々と食堂に集まってきておりました」
もう咎めるのも面倒なので、スルーして話を聞くことにした。アルディアーノが話を進める。
「はあ、めんどくせ」
「まあ、いいじゃないですか〜。サイテ様〜。食前の軽い運動ですよ」
「こんなのサイテ様の運動になるわけないだろ。適当言うなロイ」
「うっせぇソイ」
取り巻きのロイとソイと共に、サイテが食堂に向かいました。私はサイテに声を掛けた後、先に食堂にて食事の準備をしておりました。そして、
「部屋でいいだろ……、ん?おいお前。なんで女がここにいる?」
「え?ボク?ボク女じゃないよ。男だよ」
食堂にて、ファイツ様と出会ったのです。
「あ?ああ、なんか昼間いたなそういや。ファ、ファイ、ファイアだっけ?」
「ファイツだよっ!!」
名前を間違えられ、怒るファイツ様。怒る様も可愛らしいですね。ですが、相手が悪かった。
「あ?なんだお前。誰に向かってそんな口聞いてんだ?」
相手はプライドの塊サイテ。普通なら笑って流すところも、きっちりキレてきます。
「えっ、いや、だって、そっちが名前間違えるから……」
「知るか。お前の名前なんてどうでもいいんだよ」
食堂内も二人に気付き始め、ざわつき出します。しかし、相手はあのサイテ=テルノ。誰も関わりに行こうとはしません。
「っていうか、お前本当に男なのか?試しに脱いでみろよ」
「…………は?」
そして、サイテは最低な発言をします。
「ほら、脱げよ。確かめてやるよ」
「お前さっさと脱げよ!サイテ様が言ってるんだぞ!」
「そうそう。ほら、脱ーげ、脱ーげ」
取り巻きも同調し、三人でファイツ様へ脱げの大合唱。寮は生徒自治の為、教職員はいません。他の生徒や執事は止めに入れば、自分の身が危うくなることから、止めにはいけません。
予期せぬ大合唱にオロオロと戸惑うファイツ様。周りに助けを求めようと見てみても、誰も目を合わそうとしません。
オロオロしているファイツ様は可愛らしく、見ていて飽きませんでした。しかし、調子に乗ったサイテ達の顔はムカつく為、私が止めに入ろうとしたその時、
「何やってんだお前ら」
ルーカス様が現れたのです。
「あ?なんだお前?」
「いや、お前等こそ何やってんだ。ファイツのこといじめてんのか?」
誰も関われなかったいじめへ、止めに入るルーカス様。素晴らしい行動でございます。
「お前に関係ねえだろ。さっさと消えろカス」
「そうだそうだ!サイテ様の言う通り消えろ!」
「消えーろ!消えーろ!」
今度は消えろの大合唱。ここは幼稚園だったのでしょうか。
「……はぁ。はいはい、分かった分かった、消える消える。ほら、ファイツ行くぞ」
話しても無駄と判断されたのか、ルーカス様はファイツ様と共に食堂から出て行こうとされます。
しかし、
「待てよお前!さっきからなんなんだその態度はよぉ!お前、俺が誰か分かってんのか?」
サイテが吠えます。「消えろ」と言って「待て」と言って、構ってちゃんでしょうか。
「サイテ=テルノだろ?それで?」
「分かってんだったら、その態度が間違いだと分かるだろ。ほら、謝れよ」
言葉というのは難しいものでございます。私には何が間違いで、何に対して謝罪するのかが分かりませんでした。
「……はいはい、ごめんごめん。これでいいか?」
「っ!てめぇはよぉー!?」
キレたサイテが殴りかかります。私からスローリーですが、平均から見れば上位に入る速さで殴りにかかりました。
しかし、それはルーカス様にとっても同じだったようで。
「……おい、暴力は駄目だろ」
がっちりとその拳を掴まれました。
「っ!?は、離せ!」
「消えろ」→「待て」→「離せ」。本当に何がしたいのでしょうこの男は。それでもお優しいルーカス様は、言われた通り離されていました。お嬢様ならきっと、握ったまま反対の拳で……おっと何でもございません。
「ぐっ、……てめぇ、後悔すんぞ。てめぇの行動のせいで、家族や友人達まで迷惑をかけること覚えとけよ」
そして、飛び出す名台詞でございます。本当に良くお似合いですね。
「あ?家族?友人?フッ、フフッ、ああ、覚えとくよ。ファイツ、行くぞ」
ルーカス様は名台詞に対して、軽く笑い流し、ファイツ様と共に食堂から出て行かれました。全てにおいて彼の方が上手ですね。
「と言うことが、昨日男子寮で起こりました。その為、ルーカス様とファイツ様に仲良くするのは、サイテに敵対する行為になるとして、皆様関わるのを避けたようでございます」
「……なるほどね。よく分かったわ。ありがとう」
アルディアーノの話を聞き終えて、ひとつ溜息が漏れる。
「あいつは本当に迷惑しか生み出さない奴ね」
迷惑製造機とでも改名した方がいいのでは?他に何か生み出すことがあるのかしら。
「でも、これはチャンスね」
迷惑しか生まないくせに、今回はそれがプラスに動いた。
「あいつの好感度を落としつつ、スカウトも出来るわ」
またと無い好機。逃す訳にはいかない。
明日から最良のタイミングを伺うとしましょう。