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3話 自己紹介は土と共に

「簡単でいいから自己紹介ねー」


 突如始まった自己紹介。いつかはあるだろうと思っていたけれど、こんなに突然始まるだなんて。


「あっ、言うの忘れてた。学園規則が生徒手帳に書いてあるから読んどいてね。机の上にある配布物も見といて。なんか分からなかったら聞いてね。じゃあ、そっち列から自己紹介」


 なんかサラッと色々説明を受けた気がするけど、そんなことより今は自己紹介ね。


「ふっ、僕が一番とは分かっているじゃないか。素晴らしい審美眼をお持ちだ!このアース=コルグの担任になるに相応しい!!」

「はい、ありがとうー。じゃ、次ー」

「ま、待ちたまえ!?まだだから!!」


 トップバッターにも臆することなく発言した男子生徒。腰以上に伸びる長い金髪が特徴的。男子でここまで長いのは中々いないわね。それにすごくきれいに手入れがされている。性格はなんか、面倒くさそう。


「あ、そうなの。じゃ続きどうぞー」

「……コホン。改めて、アース=コルグだ。見れば分かると思うが僕は世界一美しい!この美しい僕と同じクラスになれたことを光栄に思いながら、日々を過ごすといい。僕もみんなと同じクラスになれたことに感謝しながら日々を過ごそう。ぼ……、」

「はい、ありがとうー」

「だから、待ちたまえよ!!」

「え、なにまだ続くの?なんかいい感じに締めてたじゃん」


 確かにいい感じに締めてたわね。偉そうなことだけじゃなく、謙虚なことも言って意外といい人ね。それより、この先生は大丈夫かしら?


「あんた一人で時間も使えないからね。じゃあ、あと一つだけ紹介する時間あげる。趣味でも特技でも一つだけね。はい、スタート」

「ぐ、ぐぅうううっ、か、語るべきはなんだ!?まだ僕の美しさを語りきれていないのに趣味!?いや、ここはきっちり美しさを完結させるべきか!?それなら目か!?鼻か!?口か!?いや、手も足も全て美しい僕!…………ひ、一つに絞れない……」

「じゃあ、次ー」

「ああっ!?」


 え?漫才?自己紹介だと思ったけど、漫才する時間だったの?


「ファイツ=アスコットです!特技は歌とか踊ったりとかです!」


 元気よく挨拶した生徒。ファイツ=アスコット。

 ものすごく可愛い。幼めの顔に華奢な身体。クリクリの目にプニプニしてそうなほっぺ。短めの銀髪はサラサラ感満載。天使というのはこういう見た目なのかも、と思うほどに可愛らしい。

 でも、気になるのはその着ている制服。


「あっ、一応男です!でも、性別なんてどうでもいいよね!みんな、仲良くしてね!よろしくおねがいします!」


 そう、彼が着ているのは男子の制服。この学園の制服は上は共通だが、下が男子はズボン、女子はスカートとなっている。

 男子らしいけど、どの女子よりも可愛い容姿。声も高く、男というのが信じられないというのが正直な感想。


「ユウヤ=ヨルトノです。特技は、うーん、極大魔法とか?いや、それじゃ大した特技にならないか。まあ、よろしく」


 サラッと極大魔法とか言っていたけれど、この人はなんだろう。なんだが掴みどころが無いというか、まあ、まだ自己紹介だけだしね。これから色々知ればいいわ。


「イ、……ルーカス=ウィルだ。特技はしゃ……、あー、えーと、運動、です。……よろしくお願いします」


 ルーカス=ウィル。顔が怖い。なんか裏社会にいそうな目つきをしている。眼鏡をしているけど、目つきの悪さを隠すどころか、インテリマフィアみたいになっている。いや、見た目で人を判断してはダメ。良い人かもしれないわ。……変に詰まった自己紹介が、色々推測させてしまうけれど。


「サイテ=テルノだ。お前らも知っての通り、テルノ家の人間だ。我がテルノ家はこれからも更なる繁栄を極める。俺に尽くしておいて損はないぞ?」


 どんな自己紹介だ。お前には家しか取り柄が無いのか。無かったな。


 その後も自己紹介が進み、遂にわたしの番が来た。


 よし、見せてやろう。わたしの最高の自己紹介を。


「わたしはシイナ=スノーガーデン。趣味は畑作業ですわ。好きな食べ物はお芋。最近楽しかった事は、近所の子供達と泥遊びをしたことです。仲良くしてください。よろしくお願いいたします」


 どう?わたしの自己紹介は?あらあらサイテ。そんなにポカンと間抜け面して。いつも以上に間抜けだわ。やっぱりそうなのね。


 人間関係は初対面でほぼ決まると言う。人間は、最初に得た情報を真実と思い込みやすいらしい。

 サイテとは初対面ではないけど、以前会った時はわたしは一言も話さなかったから、実質初対面ね。

 だから、この自己紹介は非常に重要。嫌われる為の第一歩。何が嫌いなのか分かったわ。


「はい、ありがとー。あっ、丁度休み時間になるね。じゃ、休憩ねー」


 クラスで一番後ろの席であるわたしの自己紹介が終われば、丁度休み時間となった。


 そして、


「ちょっと来い!馬鹿が!!」


 わたしはサイテに連れ出された。



「なんだあの自己紹介は!?ふざけてんのか!?」


 階段の踊り場に連れ出され、サイテに詰め寄られる。こんなに近くで顔を見たのは初めてだけど、やっぱり間抜け面ね。駄々をこねる子供みたい。


「別にふざけてなどいませんわ。ただ、わたしの自己紹介をしただけです」


 事実、わたしは嘘をついていない。畑作業は好きだし、自分で収穫したお芋はひときわ美味しくて好き。子供達と遊ぶのはいつものこと。何一つ嘘はついていない。


「それがふざけてるって言ってんだよ!!お前、自分の立場分かってんのか?」


 立場。そう、立場。こういう人達はそういうのが大好き。自分は貴族という偉い立場なんだぞって、馬鹿みたいにふんぞり返っている。

 そして、こういう人達が嫌いなのは平民。自分より下の立場の人間が大嫌い。同じ人間となんか欠片も思っていない。

 だから、自分の婚約者が平民みたい、なんて耐えられないよね?あの自己紹介でどんな反応するか見ていたけど、やっぱりその通りだったわね。


「お前は俺の婚約者なんだ。俺に相応しい振る舞いをしろよ。俺に恥をかかせるな」


 そう言い終わると、サイテはひとつ舌打ちをし、わたしへ背を向け戻っていった。


「……はあ。予想通り過ぎて、なんだか悲しくなるわね」


 サイテと会うのは、これで二回目。前回は去年、婚約を決させられた時の顔合わせ。その時から嫌いだったけど、やっぱり嫌い。少しは成長して、マトモになっているかもなんて、欠片でも期待したわたしが馬鹿に思えてくる。


「さ、頑張って嫌われようかしら」


 改めて認識をしたわたしは、教室へ向けて歩き出した。


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