7.5話 報告:お元気でございました。
「行ってらっしゃいませ」
「ええ、行ってくるわ。……貴方は来ないでね」
休日。お嬢様はファイツ様、ルーカス様と遊びに行かれました。そして、私には絶対について来るな、覗きもするなと命じられました。反抗期でしょうか。しかし、主に命じられたのならば、守るのが執事の決まり。本日は自由を満喫いたしましょう。
……しかし、何をしたものやら。お嬢様が街へ行かれるので、私も街へ出かけるとうっかり合流する可能性がございます。そう、うっかり。……うっかりならば、仕方がないのでは?
……いえ、さすがにここでリスクのある選択肢を取る訳にはいきませんね。まずは、掃除や備品の補充などを行いましょう。そして、午後には一度屋敷へ帰ることにいたしましょう。では。
「ただいま戻りました」
「ん、あっ!?アルディアーノ!!おまっ、帰ってくるなら先言えよ!今すっぴんなんだよっ!」
「……今日は私だけでございます、ハイム様」
屋敷に戻って初めに会ったのは、スノーガーデン家当主、ハイム=スノーガーデン様。お嬢様のお父様ですね。
「え?あっ、なんだ。お前だけか……」
私だけと分かると、あからさまにがっかりと肩を落とすハイム様。おやおや、そんな態度を取っていいのでしょうか。お嬢様のお話をさせていただこうと思っていたのに。
「申し訳ございません。お嬢様はご学友と遊びに行かれましたので」
「学友……。もう友達を作ったのか。へっ、さすがだな。で、そのお友達はどんな子なんだ?貴族学校なんだから、お淑やかなお嬢様って感じか?」
「活発な男の子と、危険な雰囲気をまとう男の子でございます」
「お前死にてぇのか?」
おやおや、ハイム様。その注射器は患者へ向けるものでございます。私は健康ですので不必要でございます。
「お前の仕事はなんだ?シイナちゃんにたかる蝿を叩き潰すことだろうよぉ!!」
違います。私の仕事はお嬢様の日頃のお世話と、魔王討伐に使える優秀な者を見つけることでございます。
「どうすんの?ねぇ、どうすんの?裏切られた俺の気持ちどうすんの?」
知りません。私は何も裏切っておりませんので。とりあえず、注射器を下ろしていただきたい。
「あら〜あなた何してるの?」
これをどうしようかと悩んでいた所へ、声が飛んでくる。この声は、
「ママッ!聞いてよ!こいつが仕事サボったせいで、シイナちゃんに男が!」
ユリア=スノーガーデン様。お嬢様のお母様ですね。
「男って、シイナちゃんいつも男の子とも遊んでいるじゃない」
「それは小さい子達だろう!?あの年齢ならまだギリ許せるよ!でも、今遊んでいるのは同い年の獣なんだよ!?」
「いいじゃない〜別に。シイナちゃんが選んだんだもの。きっと素敵な方なのよ〜」
「くっそおおおぉぉ!!パパはまだ許しませんよおぉぉ!!!」
いったい何のお話をされているのでしょうか。ただ遊びに行かれただけだというのに。しかも、半分以上別目的の為に。
「はいはい、パパは放っておいて。アルディアーノ、シイナちゃんのお話聞かせてくれる?」
「はっ!?ママだけずるい!俺も聞く!」
「かしこまりました。それでは、お茶を淹れましょう」
ようやく主目的が果たせそうでございますね。
それでは、お茶のご用意を。
「チッ。あのクソサイテはやっぱりシイナちゃんに迷惑かけてるのか。あのブンブンうるさい蝿ぶっ潰してやりてえ」
これまでのお嬢様のお話をすれば、口から出てくるのはサイテへの愚痴。お気持ちは分かります。私も気をつけていないと、プチッとしてしまいそうですので。
「あら、パパダメよ。そんな事言っちゃ。心の中だけにしておかないと。事故で何かあっても、疑われないようにしておかないと〜」
ユリア様は穏やかなお方ですが、少々過激な所もございます。それもまた、人間の魅力というものでしょうか。
「おや、お嬢様から連絡が。失礼いたします」
「えっ!?シイナちゃん!?ちょっと、後で俺に代わって!」
支給されている通信魔導具にお嬢様から着信が。また動物でも拾ったのでしょうか。
「はい、アルディアーノでございます。……はい。はい。かしこまりました。それでは、また。それと、お嬢様。ハイム様が代わって欲しいと……、切れました」
「ええっ!?」
私はお繋ぎしようとしましたが、綺麗にプツンと切られてしまいました。これは仕方がないですね。
「忙しかったのかなあ……」
「きっとそうでございます」
最近お嬢様がハイム様のことを、冷めた目で見ていることは伏せておきましょう。ご本人はまだお気づきではないようなので。
「では、そろそろ失礼いたします」
「あ?もう帰るのか?泊まってかないのか?」
「ええ、お嬢様のご夕食もありますので。それに、別件も」
「そうなの〜。じゃあ、シイナちゃんによろしくね〜」
「はい、ユリア様。それでは、失礼いたします」
さて、寮に戻ることとしましょう。大事な仕事が入ってきましたので。