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そんな軋轢聞いていません。

「ケリドウェンの魔女とアムちゃんたちが呼ぶ存在ですが……。今も存命ということは、神族よりも長寿なのですか?」


「いえ、モリー様。奴らは魔素を糧とする魔族と呼ばれる種族。他種族よりも長寿ではございますが、その寿命は300年~400年と我ら神族よりも短いものです。」


「え?では主様……2000年前、復活する前のわたしだという存在を倒した魔女の本体は既に死んでいるのですね。」


「はい、しかし【ケリドウェンの魔女】はその能力を後世に引き継ぐ邪術を使っており、我々の調べでは既に8代目となっております。どのような術式で意識と能力を引き継いでいるか我々の力を以てしても解明できておらず、忌々しいことに魔女の死によって聖地オリハルオンへ結集できるという一縷の望みも絶たれてしまいました。」


「では現在神族の敵というのはケリドウェン8世と呼ぶべき存在なのですね。」


「さようでございます。しかしモリー様が復活なされた今、【ケリドウェンの魔女】が血脈を継ぐことは永劫無いでしょう。」


 ふぅ、とわたしはため息を吐く。つまり2000年前の当事者は誰一人としてこの世に存在しないということではないか。どちらかが歩み寄るような平和的な解決をこの2000年で誰もしなかったのか。そこまでに相容れない存在として対立しつづける神族と魔族の軋轢とは一体何なのか。……すべてを理解しようとするには元人間であるわたしと神族とでは思考基盤も価値観も倫理観も違いすぎる。


 そんなわたしが【神族を導きし者】なんて祀り上げられているのだからため息しか出てこない。本当にわたしは必要とされているのか?送り出した勇者と同じように駒として良いように利用されているだけではないか。だとすればこんな馬鹿馬鹿しい話があるものか。


 そもそもこの異世界に転生し、勇者に仕立て上げる行為を『ケリドウェンの眷属の撲滅、魔素の回収に大変有用』といって憚らない。そんな夢も希望も無い異世界転生があってたまるものか。もっとなんかこう……言葉では言い表せないが、エンジョイするのが異世界ライフというものだろう。


 しかし不思議と怒りは湧いてこず、モヤモヤとした気持ちだけを持て余してしまうのは、転生によって自分も【神族】になってしまったからだろうか。


「そういえばオリハルオン奪還のため送り込んだ勇者は結局10日で討ち取られてしまいましたね。……一つ提案なのですが、わたしが直接オリハルオンの地へ降り立つことは出来ますか?」


「非常に危険かと愚考いたします。如何に主様とはいえ、魔素に充満された地へ降り立ち万が一にでも汚染されその御力が在らぬ方向へ暴走されたならば、我々神族の光は完全に途切れてしまいます。」


 なるほどなるほど、ではこんな妄想はどうだろう。わたしがオリハルオンに降り立って魔族とも神族ともつかない謎のバケモノと化しオリハルオンを破壊せんばかりに暴れまわったならば……そのときこそ魔族と神族は手を取り合い呉越同舟でわたしを討ち取り、大団円のハッピーエンドというのは。


 ……戯言ですね。そんなことで2000年の(わだかま)りが解けるとも思えませんし、そもそも討ち取られるために転生してきたなんて、悲しいにもほどがあるでしょう。しかし共通の敵を作るというのは一考に値するかもしれません。何も勇者が魔女を倒してはいおしまいだけが物語ではないでしょう。多側面からアプローチするのは悪くない。


「アムちゃん、たしかシュテルネッカーなる神族からの脱却を掲げたレジスタンス活動をしている集団がありましたね。」


「ええ、人間や半人たちを幾人かを投獄しております。とはいえ彼らの活動といえば酒場で活動という名の愚痴を吐き出し、決起集会モドキを行っているにすぎませんが。」


「その活動ですがしばらく放置してください。投獄している者も解放の準備を。」


「はい、かしこまりました。」


「……?何故と聞かないのです?」


「何を仰りますか、モリー様は神族を導きし者。その言を疑うなどあってはなりません。」


 さっきオリハルオンに降り立つことを提案したら反対したじゃないか。なんてことを内心で考えながらアムちゃんの矛盾した言動に目をつぶる。わたしの身の安全さえ保障されればある程度の命令は受諾されるらしい。雑多なレジスタンス活動など意にも介していないのだろう。しかし倒錯した活動に身を置いた人間(正確にいえば人間と神様のハーフもだが)の執念を侮るなかれ。2000年聖地を思い奪還を試みる精神には敵わないかもしれないが、うまくいけば勇者や眷属と呼ばれる存在以上に厄介な代物と成り上がる。


 魔族でも神族でもない敵、その種を撒くくらいはしておこう。


「モリー様、そろそろ召喚の儀式に御座います。」


 ああ、また勇者を〝作る〟仕事が始まるのか。一切合切全ての事情を話したうえで冒険に臨んでもらうことが本当の対価ではないかと考えてしまう。しかし、それはあまりにも残酷で、あまりにも夢のない話だ。わたしが頑張って良いチート能力を与えるので、精々異世界を長く楽しんでほしい。だからこそわたしは魔法陣から現れ狼狽する男性に優しく微笑んだ。


「ようこそお越しくださいました勇者様。あなたに与える祝福(ギフト)は……。相関関係と因果関係の誤謬(ごびょう)含意(がんい)させる能力です!」


 はい、自分で何言っているかわかりません。アムちゃん!頼んだ!


「あ~、えっと……。とある2つの海水浴場がある。1つはかき氷が沢山売れていた。一方は全く売れていなかった。海で溺死した者を調べたところかき氷が沢山売れていた海水浴場の方が多いと解った。さて、かき氷は人を溺死させる効果がある……。この理論に間違いはないか?」


「そんなはずはありません。人が多いからかき氷が売れていて、人が多いから溺死者が多いのでは?」


「お主が与えられたのはその【因果】と【結果】をデタラメにしてしまう能力だ。ある意味で運命を操る、いや改竄してしまう能力ともいえる……。何ともまた主様は危険な能力を……。」


 しょうがないね。自分で決められないんだもん!


「勇者カズユキ、これから異世界に赴き、悪しき魔王を倒すのです。期待しておりますよ。」


 わたしがそういうと、勇者は淡い光となってオリハルオンではない異界へ飛んで行った。それにしても運命を操る能力か……欲しい。



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