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そんな執念聞いてません。

 神族という種族を観察して感じたことの一つに〝強烈な選民思想〟がある。何しろ現在拠点としている異世界アリオンは人間種の男と神族の女神が契りを結んだことで発展し、住民も神族の血脈を持つものが大半である。にもかかわらず、アムちゃんを筆頭とした女神たち……純粋な神族はアリオンの民を【半人】と呼んで(はばか)らない。


 同じ神族の血を分けた民に対してこの扱いなのだから、他の人間種やエルフ族、ドワーフに亜人などをどのように考えているかなどここに記すまでもない。兎に角神族こそがこの世の頂点に君臨する存在であり、他の有象無象など神族に支配されるべき存在に過ぎないという傲慢さが透けて見える。


 ……では元人間のわたしを【主様】【導きし者】なんて大層な呼び方をして崇拝しているのは一体何故だ?その理由をアムちゃんに聞いてみることにした。


「わたくしは、聖地オリハルオンにおける聖墓の守護者アドヴォカトゥス・サンクティ・セプルクリの一族として生を受けました。他者よりも魔力量が多いのはそのためでしょう。わたしが生まれたときには既に神族は散り散りとなっておりましたが、父母より受けた使命と能力はわたしの中に生きております。」


 墓守を随分舌の嚙みそうな名前で呼ぶものだ。


「かつて神族を束ね、悪しき魔女に討たれながらも復活を約束された主様、最初は元人間であるという先入観から醜態を晒しましたが、今であれば見紛うはずもありません。貴方様は一族が護りし聖骸の力と同一なのです。すなわち主様の復活にほかなりません。」


 兎に角わたしには主様とやらの記憶もなければ自覚もない。正直ぶっちゃけてしまうと神族が聖地を取り戻すことに対して興味がない。わたしの興味は前世で行えなかった非科学的な事象、剣や魔法といったファンタジーに集約される。さらに言うならそれらを用いて冒険するのが最大の夢だ。そんな主様でいいのかお前らはと思う。


「そういえば神族とは不老長寿であるとアムちゃんは最初言っておりましたが、おおよそどれくらいの寿命なのですか?」


「神族はその魂が尽きるまで1000年とされております。」


「え?ということは、もう聖地に実際住んでいた方々は既に生きていないのですか?」


忸怩(じくじ)たる思いに御座いますが、我らの祖先は聖地に再び足を踏み入れること叶いませんでした。」


  だとすればすごい執念だ、神族にどんな教育が施されているか知らないが、2000年流浪しようが構わないという精神はどこから湧いてくるんだ?それほどまでに聖地とやらは素晴らしい場所なのか?


「その……聖地というのはそこまで素晴らしい場所なのですか?例えば魔力に満ちているだとか、金の岩間にワインの川が流れているだとか。」


「聖素・魔素に満ちた場所であることに間違いはありません。聖地オリハルオンは我ら神族の祖となる神が契りをなし我ら神族を生誕させた約束の場所なのです!!」


 なんか宗教的な話になってきたな、頭が痛いぞ。


「そ、そうですか。」


 アムちゃんと話している間に、転生の召喚門が光を放ちはじめた。


「久々のお仕事ですね。」


「はい、聖地奪還のため勇者には頑張ってもらいたいものです。」


 現れたのは20代前半の女性だった。名を笹本優海。死因は……病死か、この年で可哀そうに。


「あれ?ここが死後の世界?点滴もない、ガリガリだった身体が元に戻ってる。」


「いいえ、勇者ユウミよ。ここは死後の世界ではありません。貴女は選ばれし者としてこの場に君臨しております。」


「何あなた……女神様……?」


「そう言われておりますね。貴女には使命がございます。どうか悪しき魔女に虐げられし聖地をその力で奪還してほしいのです。」


「力といっても、わたしには何の力も……。」


「これから貴女には祝福(ギフト)を贈ります。その異能の能力で聖地を奪還してください。」


「ぎふと?」


「ええ、貴女に贈る祝福(ギフト)は……」


「【トルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界におけるフェルミ縮退(しゅくたい)の均衡を超越させる能力】です!」


 毎回のことだが二人の間に静寂が訪れる。何でわたしが与える祝福(ギフト)は一言で説明できないものばかりなんだ!


「ユウミ・ササモトよ、貴女は生前病魔と闘い、若くして命を落とした。聖地奪還は望むべきことだが、貴女は既に多くの戦いを生前にこなしている。……もう、ゆっくりとしてもよいのではないか?」


「えっと、はい。いきなり勇者になれなどと言われ、正直茫然としております。」


「過酷な旅になる。命を落とすことにもなるだろう。一目見て確信した、貴女の清廉な魂は必ずや天国へと導かれるであろう。ゆっくりと休むがいい。どうやらここに来てしまったのは何かの手違いのようだ。」


「天国……それはどのような場所なのですか?」


「少なくとも戦いの日々が続くような修羅道ではない。安寧の地でその魂を休ませることこそが、貴女には必要だと我は思う。」


「天国……こんなわたしが天国に行けるんだ……。」


 笹本優海の目からはボロボロと涙が零れ落ちている。それにしてもいつものアムちゃんらしくない。大体において死後の世界がどんな場所か神族でも知らないといっていたじゃないか。


「では貴女の魂を冥府へ戻そう。モリー様、それでよろしいですね?」


「ええ、もちろんです。貴女に良き安寧がございますように。」


 そうして笹本優海は光の粒子となって消えていった。アムちゃんが大粒の汗を流し、大きくため息を吐いた。


「モリー様。確かに魔女との戦いに際し、強力な力が必要なのは存じておりますが、あまりにも過剰ではございませんか?」


「そ、そうでしたかね。」


「惑星をブラックホールに変える能力なんて、魔女は討てても聖地が滅びてしまえば本末転倒です!」


 うわぁ、そんな能力だったの!?そら焦るわ。なんかアムちゃんちょっと怒ってるな、話題逸らすか。


「そういえば転生者は現代の……わたしにとってですが、日本人ばかりが目立ちますね。何か理由があるのですか?」


「はい、何故かは不明ですが世界を冒険する。魔法があるという知識に対し大きな抵抗がありません。異世界を旅することに対しても理解が早く、拒否されることも少ないので。」


 なるほど、かく言うわたしも異世界での大冒険を夢見ていた一人だ。いっそそっち側に回れればどれだけよかっただろう。あーあ。異世界を気楽に旅したい。もうやだ女神なんて。



 ●



「ケリドウェン様、ヘルム族が送ってきた異界の勇者ですが、四天王のべリア様が直接赴き抹殺いたしました。」


 玉座に座るのは耳の長い褐色肌の美麗な女性であった。


「ご苦労。奴らめ、小賢しい真似ばかりしていたと思っていたが、遂にオリハルオンへ直接兵を送ってきたか。」


「ヘルム族を堕落させる魔法の壁をどのように超えてきたのかは未だ不明です。」


「……Qが復活したか?」


「Q、2000年前ケリドウェン様がその命を絶った憎むべきヘルム族の指導者ですよね。」


「奴は確かにこの手で殺した。だがあれほどの力を持つヘルム族の頂点だった者……。復活を約束して冥府へ旅立ったとも聞く。」


「そんなことが……。どこまでも忌々しい奴らです。」


「ああ、ようやくヘルム族の支配から逃れ得た平和。乱すわけにはいかない。」



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