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Ender Magia Chronicle  作者: 真夜
第一章 報復人 -BIRTH AVENGER-

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36.野心 -Treachery-

 ジャックたちはギルドの外で待ち続けていたが、ライラックが戻ってくる気配はせず、太陽が地平線に隠れ始めていた。

 日が落ちれば街は暗がりに沈み、移動に時間が掛かってしまう。


 さすがに心配なのか、エトワールはギルドのほうをじっと見つめ、他のメンバーはそわそわと体を動かし始める。

 全員がライラックの戻りを気にし始めたとき、まるでタイミングを合わせたようにギルドの中から大きな物音が鳴り響く。

 ジャックとエトワールはいち早く反応し、ギルドへ向かおうとするが、エトワールはまだ体調が万全ではないのか、足がすくみ、体勢を崩す。


「俺が行く。あんたたちはここで待ってろ」


 そう言ってジャックは一人でギルドの扉を勢いよく開く。

 そこには椅子や机がいくつも、そしてギルド職員も倒れていた。そして狩人の一人がライラックを拘束し、この事態の中心と思われる狩人と向き合っていた。

 扉が開かれた音を聞いて、ギルド内に居た全員がジャックのほうを見る。

 ジャックはその光景を見て、殺気を込めた一言を放つ。


「……何やってる?」


 それを聞いた若い狩人の一人がジャックも拘束しようと向かってくる。

 ジャックは接触する寸前に最小限の動作でその場で体を半回転して躱す。そしてジャックに躱された狩人の背中に足を乗せると同時に力強く蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた狩人は思い切り、地面に叩きつけられる形で倒れるが、血が上ったのか懐からダガーを取り出す。

 しかし、取り出したダガーをジャックに向けようとしたときには、ジャックは腰から銃を振り上げるように引き抜く。その引き抜く動作の間に長い銃身はそのダガーを持った手に打撃を加え、鈍い音とともにダガーがその手から落ちる。

 狩人は手の痛みを耐えてジャックを見上げながら痛みのない手で握りこぶしを作るが、その時にはジャックの銃口がその狩人の頭を捉えていた。


「やめろ!」


 一瞬の二人のやり取りを止めるように、ライラックと向き合っていた狩人が声を上げる。


「アゾべさん!」

「おめえじゃそいつに敵わねえよ、変に手え出すんじゃねえよ」


 アゾべと呼ばれたこの中のリーダーのように若い狩人に言いつけた。

 ジャックはアゾべと呼ばれた男とは仕事を一緒にしたことはないが、狩人の中ではそこそこの有名人だった。

 性格や気性は荒くトラブルを起こすことも多いが、気に入った奴の面倒見はいい中堅の狩人であり、ジョーカーやサルビアが居なければかなり上位の実力を持つ狩人だ。


「とんでもない実力だな、ジョーカーとこのガキ。悪いがお前もライラックの説得に協力してくれないか?」


 大げさに褒め称える態度でジャックに話しかけるアゾべはどこか挑発しているようにも見える。

 しかし、ジャックは挑発に乗ることなく、極めて冷静に返答をする。


「説得?俺には拷問しようとしているように見えるんだが?それにそこに倒れているのは受付のおっさんだろ」

「ギルドの連中は仕方がない。ライラックについては悪いな、話も聞かずにここを出ようとしたんでついな。離してやれ」


 拘束を解かれたライラックはゆっくりとおぼつかない足取りでジャックに近づく、それを見たジャックはライラックに肩を貸す。

 そしてジャックはギルドの出口を目指そうとするが、扉はアゾべの配下と思われる狩人に防がれていた。


「どいてくれないか?人を待たせてるんだ」

「ウィズピースの連中だろ。んなもん待たせておけ。悪いが話は聞いてもらわないとな」


 ジャックが周囲を見渡す限り、狩人はアゾべを合わせて十人以上はいる。

 ライラックが万全な状態なら二人で何とか切り抜けられるかもしれないが、今の状態のライラックではそれも不可能だろうとジャックは考えた。


「話って?」

「さすが、ジョーカーの弟子だ。判断が早くて助かる。話は単純だ。

 あのウィズピースの奴らを協力してぶっ潰そうぜ」

「はっ?何言ってるんだ、お前!」


 ライラックが珍しく怒りの籠った声を上げる。

 それに対してジャックは冷たい視線でアゾべを見て尋ねる。


「急にどうしてそんな話を?今、俺たちがあいつらと組んでいるのは知ってるだろ?」


 アゾべはわざとらしく笑うとゆっくりと語り始める。


「俺はお前らがあいつらに騙されていないか心配なんだよ。

 ウィズピースだぞ。俺たち、精霊契約者以外をすべて見下し、こんな砂漠に追いやった連中だ。

 今はいい顔してるかもしれないが何か企んでいるに決まっている。俺はそれを阻止したいんだよ」


 ジャックは今のアゾべの言葉で彼が根っからの精霊契約者嫌いなのを確信した。


「あんたたちがそう思いたいならそう思えばいい。今のところあいつらが何か企んでいる様子はないし、実害もない。俺たちは外させてもらうよ」

 そう言って、再びその場を去ろうとするジャックたちにアゾべは不可解な言葉を投げかける。

「実害なら出ているだろ?」

「なんだって?」


 ジャックの疑問にアゾべはなぜか上機嫌に笑いながら答える。


「ライラックのギルドへの報告だが裏で聞かせてもらった。

 サルビアとジョーカーがやられたんだってな。それに討伐隊に参加したほとんどのメンバーが戻ってきていない」


 そのまま、嬉しそうに語るアゾべを見て、彼がギルドにジョーカーとサルビアがいないときに「奴らが居なければ自分がトップになれる」と酔っている勢いで豪語していたのを思い出す。

 それが叶い、喜んでいるのではないかと思うとジャックは苛立ちを覚える。

 そんなジャックをよそにアゾべは機嫌よく言葉を続ける。


「で次はウィズピースの連中と協力するって話だろ。それってさ、あの連中に嵌められてやられたんじゃないか?

 あいつらがここを掌握するために手を回し始めたんだよ。

 俺たちはそれを止めたいわけ」


「親父たちがそんなふざけた理由で死んだわけないだろ!」


 嬉々として語るアゾべにライラックが憤怒の形相で叫ぶ。

 その声に周りにいた何人かの狩人は気圧され、身体を震わせる。

 しかし、アゾべは表情から笑みを消すとライラックとジャックに見下すように視線を向ける。


「ふん、死んだ人間の事なんてどうでもいい。

 俺たちは確かな情報筋から聞いてるんだよ。今、お前たちが相手にしている魔獣の事。それをウィズピースが隠してるんじゃないかってことを。

 あと倒す鍵がウィズピースの連れてるガキってことも」

「はあ、なんでお前たちがそんなことを?」

「その反応からして本当の事らしいな。ガキが鍵ってのは半信半疑だったが……」


 ライラックの反応からアゾべは確信を得たのか、再び、勝ち誇ったように小さく口角を上げる。


「あいつらに手柄をやる必要なんてない。俺たちで魔獣を倒すんだよ。

 そしてライラックにジョーカーの弟子、俺はお前たちにも期待してるんだ。

 だから、俺の元につけ。そうすればここから先ずっと優遇してやる」


 その問いにライラックはジャックに肩を借りるのをやめ、アゾべの目の前まで歩き、真正面に立つ。


「悪いがお前らにつく気はこれっぽちもねえよ!」


 そのライラックの気迫にアゾべは一瞬眉間にしわを寄せ、苛立ちの表情を見せて聞き返す。


「……その理由を聞いても」

「気に入らねえからだよ!あいつらの事勝手に決めつけ、人の死を笑いながら語るところが!あと、裏でこっそり盗み聞きするところもな!」


 堂々としてライラックに、周りは何も言わずにただライラックに視線が釘付けになった。

 アゾベはため息をつくと、ジャックのほうを見る。


「お前は?」

「ラックと同じだ、あんたにつくことはない」


 ライラックとは反対にジャックは静かに、そしてその視線と言葉には鋭さがあった。


「そうかい、残念だ。だが俺に賛同する連中はここ以外にもいる」


 その言葉にジャックはいち早く察し、ライラックに向かって叫ぶ。


「ラック、すぐにここを出てあいつらのとこに戻るぞ!」

「……っああ」


 ライラックも察したのかジャックの後に続く。

 ギルドの扉に立ちふさがる二人の狩人を見て、ジャックは拳銃を引き抜くがその前にアゾべが言う。


「通してやれ、今回は若気の至りということでその態度も気にしないでおいてやる。

 気が変わればいつでも俺のところに来い」


 扉の前に立っていた狩人が横に移動するのを確認すると二人は振り向きもせずに一直線にギルドの外に出た。

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