34.集合 -Meeting-
船で街へ戻る最中は誰もが口を閉ざしていた。
そんな中、最初に言葉を発したのは目を覚ましたライラックだった。
ずっとライラックの傍にいたシオンは目覚めた途端再び泣き始め、ライラックはどうすればいいのかわからず、対応をこまねいていた。
そんな二人の様子が張り詰めた雰囲気を和らげた。
「エトワール、あのときは助けてくれてありがとう」
ゆっくりと体を起こしたライラックは、エトワールの方を向いてから頭を下げる。
それを見たシオンも一緒に頭を下げた。
「いや、正直に言って君が生き残ったのは実力だよ。普通、近づいただけでも危険なのにそれと少しの間でも戦ったんだから」
「いや、ほとんど相手になっていなかった。それに親父まで……」
苦悶の表情を見せるライラックに対して、かける言葉も思いつかず、誰もが顔を伏せる。
そんな周りの反応を見て、ライラックはぎこちない笑みを作る。
「悪い、俺は大丈夫だから。狩人なんだから仕方がない。こうなる可能性はいつもあったんだ。それが……今回だったんだ」
周りを安心させようとしたのだろうが、空元気で喋っていたライラックだが最後の言葉は詰まりながらも絞り出していた。
そんな中、いち早く反応したのはシオンだった。
「お父さんが死んだのを仕方がないって考えないといけないの⁉」
「俺だってそんなことはっ……」
ライラックも心からはそう思っていないようだが、そうやって自分を納得させようとしていた。
その言葉を伝えようとしたが、それを遮るようにシオンの心からの叫びを続けた。
「もしお兄ちゃんが死んでも仕方がないって思わないといけないの?
狩人だからいつも死ぬかもしれないと思いながら待ってないといけないの?」
そんな言葉に誰も反応することは出来なかった。
取り乱したシオンにライラックは慣れた手つきでシオンの頭を撫でる。
言葉による返事はないが、ライラックはシオンの思いを受け止めるかのように穏やかかつ、絶対に一人にはしないと伝えるかのようにシオンを真っ直ぐに見つめていた。
ジャックにとっては狩人である限り、死は間近にあるものであり、仕方がないものだと思っていた。これは目の前で人の死を見てきたからこそかもしれない。
シオンやライラックはこの街では異端であるほど家族に愛し愛され育った人間だ。ゆえに彼女たちにとって死はとても重いもので仕方がないと考えることは、決してできないものだ。
だからこそこの兄妹は、こんな殺伐とした街に居ても優しさと正しさを失わず、誰からも慕われるのだろう。
そして、彼らと接していたジャックもその気持ちはわかるようになっていた。
二人の会話から二人の父親であるサルビアが死んだこと、そのことに向き合って今こうして悲しんでいる。
そんな二人の姿を見て、ジャックの中でジョーカーの存在を思い出す。
ジャックはジョーカーだから、誰もその最後を見ていないから生きているだろうと思考停止していたのかもしれない。
するとジャックの中でまるで塞き止められていた嫌な予想が頭の中でいくつも思い浮かびはじめ、冷や汗が流れる。
船の操作も疎かになり、その船内を大きく揺らしてしまう。
「どうした、ジャック?」
「なんでもない」
隣でサポートしていたシールウッドが確認を取るが、ジャックは表情をできるだけ崩さず答える。
「それより、もう街に着くがどうする?話の続きをしなきゃいけないが、船の中でするか?」
シールウッドが全員に聞こえるように尋ねる。
「……話ってなんだ?」
「ラックは気を失っていたから知らないのよね。話っていうのは君たちを襲った『黒の王』についてだよ」
ライラックの疑問に近くに居たエトワールが答える。
その言葉にライラックが少し考えた後に言う。
「それならギルドに行こう。報告もしに行かなきゃいけないし、今後どうするかも考えないと」
「まあ、報告はしに行かないといけないが、お前たち全員満身創痍だろ。体を休めてからでもいいんじゃないか?」
ライラックの提案にシールウッドが周りを見つつ確認する。
ライラックは回復したばかりでまだ体が少し重い、エトワールはいつも通りには見えるが魔法の反動で激しい動きは出来ない、ステラは魔法を使い続けたためか、ボロ椅子に座ったまま深く眠っていた。
「私は大丈夫、魔法の反動で少々体に節々が痛いけど、動けないわけじゃない」
「俺もだ、もう歩くことぐらいはできる。それにこういう報告はさぼるなって散々親父に言われてきたからな」
エトワールとライラックは交互に問題ないと発し、ゆっくりと立ち上がった。
シオンは心配、ジャックは不安の表情を浮かべたが、寝ているステラを除く全員はその提案を受け入れた。




