3.相対 -Encount-(1)
裏道は複雑かつ同じような建物が続いており、迷路のよう場所だが子供の頃からずっとここで暮らしてきた二人にとっては遊びつくした公園のような場所だ。
たわいもない会話をしながら軽快な足取りで進む途中、視線の端に三人の人影がジャックの目に映る。
「どうした?」
一瞬動きを止めたジャックに気付き、ライラックはジャックが見ていた方向を確認する。
そこには少し小汚ない男が二人、このあたりでは見ない綺麗な白い服を着た少女が強引に男たちから手を引かれていた。
「あいつらクロウか?」
クロウとはギルドより前から存在し、このリムレイに存在する自らを自警団と名乗っている組織。だが行っていることはこの街の暴力的な治安維持、そして裏では誘拐から魔薬、そして人身売買と悪党の手本のような組織である。
すぐさま駆けだしたライラックに対し、ジャックはため息をつく。
「そこでなにしてる!」
ライラックは二人の男の前に立ちはだかり、その行く手を阻む。
それを男たちはライラックのほうを向くと一人が少女の首に腕を回し、両手をもう片手で固定する。もう一人がボロのナイフを取り出し、ライラックに向ける。
「邪魔だ、ガキ」
しかし、ライラックはそれを見ても取り乱すことなく、戦闘態勢を作る。
「悪いけどそんなもので怯えるほどやわじゃないんだけどなー」
狩人にとってはナイフなんて日常的によく見ている。脅しにもならないのは常識だった。
「くそ、だったら……」
そういってナイフを少女のほうに向ける。
「……最低だな」
ナイフを向けられた少女は目に涙を浮かべ、ライラックは構えを解く。
「うるさい!お前らに何がわかるんだ!」
「知らねえよ」
その言葉と同時に少女を拘束していた男がその場で崩れ落ちる。
後ろの声にナイフを持った男が振り返るが、ジャックはすでに少女を抱き寄せるように自身の背後に回し、間髪入れずにみぞおちに拳を打つ。
男は痛みに立っていることができず、地に膝を付ける。
「不意打ちとか……卑怯だぞ」
その言葉にジャックは虫を見るような視線で男の顔面に膝蹴りを入れる。
ぐちゃっと鈍い音とともに男は糸の切れた人形のように倒れる。その鼻は曲がり、嫌でも見る人に痛みを想像させる。
ライラックはジャックに駆け寄り、倒れた二人を見て、憐れむように言う。
「うわー、さすがだけどちょっとやりすぎじゃない?」
「命があるだけ感謝してほしいね」
ジャックは倒れた男を仰向けにし、その顔を確認する。
「……手配書にはない奴らか」
「クロウのメンバーならそうだろ」
「いや、こいつらの誘拐の手口は素人すぎる。それに身に着けている服もボロボロだし、武器もナイフだけはありえない。まあ目的としてさっきの子を人売りに渡して金に換えてからそれを賄賂にしてクロウへの加入だろうけどな」
「なるほどね……。って忘れてた」
状況が理解できずにジャックとライラックを交互に見る少女にライラックは近づく。
「怖い思いさせてごめんな、大丈夫だったか」
少女は小さく頷く。ライラックはその顔を見て、思わず声を上げる。
「うん?むむ、ジャック!この子めっちゃかわいい、すごい美人」
少女は驚き、少し後ろに下がる。
ジャックは倒れている男から金目のものがないか漁っていたが諦めたのかライラックのほうを向き、少女を見る。
ジャックより少し年下に見える少女はこの街には似合わないほど真っ白で清潔感がある服を身に着けており、髪も服と同じく透き通るような白でどこか神聖さを感じだ。顔は少し幼く見えるが可愛いと美しいを両立させたものだった。
ジャックもその姿に少し驚くがライラックの興奮した様子から我に返り、適当にあしらう。
「ああ、そうだな」
ジャックの冷めたように返答にライラックは飽きれつつ、すぐに落ち着きを取り戻しできるだけ明るい声で少女に尋ねる。
「君はどこから……」
「その人から離れろ!」