30.急転 -SuddenTurn-
シオンの様子も落ち着いてからしばらくたった後、ステラが戻ってくるより先に、遠くから砂を走るバイクの音が近づいてきていることに三人は気付く。
音の方向を見ると、ジャックが乗っていたバイクが見えていた。
しかし、バイクに乗っているのはジャックだけではなく後ろに誰かが乗っていることが確認できる。
船の横を通り過ぎ、オアシスの近くにバイクを付ける。そしてジャックはすぐに周りを見渡しながら、シオンに駆け寄り尋ねる。
「エトワールとステラがいないみたいだが、何かあったのか?」
「ジャック!」
ジャックの姿を見て、感情が爆発したのかジャックに抱き着く。
ジャックはシオンの様子から何かがあったのは間違いないと察し、落ち着かせるように聞き返す。
「大丈夫か、ゆっくりでいいから説明してくれ」
「……うん、でも私もよくわかってなくて。最初はエトワールさんが何かに気付いたみたいで様子を見るって言って離れて……。
そのあと、遠くから近づいてくる人影が見えて、それがお兄ちゃんで、それを確認しにステラさんが向かっていったの」
シオンが早口で話した内容からは詳しくはわからなかったが、彼女たちが動かなければいけない状況だったことは察した。
「ありがとう……どうやらあんたに話を聞かなきゃいけないようだ。何か知ってるんだろ?」
ジャックはシオンに礼を言うと、バイクに乗せてきたシールウッドに話しかける。
「ああ、ピースメイカーがここにいると聞いて乗せてきてもらったが、どうやら思った以上に状況はややこしくなってるみたいだな」
シールウッドは周りを見渡しながら、ジャックたちに近づく。
「あっ、すいません、私、ピースメイカーです」
ピースメイカーの制服を脱いでいたため、ピースメイカーと認識されなかったアステルがおずおずと手を挙げて近づく。
「悪い、いたのか。……またずいぶんとお若いことで」
シールウッドは帽子の鍔を指先で少し上げて、じっくりとアステルの事を見る。
その視線にアステルは少しだけ引き気味になる。
「そんなことよりさっさと話せ、俺はまだあんたを完全に信用したわけじゃない」
「そうだな。その前に君たちピースメイカーに俺たちの命懸けの言伝だ。
『黒の王』。それが今回の敵の正体らしいが、あんたたちに心当たりはあるのか?」
その言葉に神妙な顔でアステルは頷き、ジャックは彼女たちが自分たちに詳細を伏せて探していた存在だと予想する。
「じゃあ、ここにいないエトワールたちはそいつを探しに行ったのか?」
ジャックの質問にアステルは少し考えてから返事をする。
「探しに行ったというよりは様子を見に行ったんだけど、さっきエト姉ちゃんが魔法を使ってたみたいだから戦ったんだと思う」
「あれと戦うって正気か?ジョーカーさえ負けたんだぞ」
「……えっ?」
アステルの言葉にシールウッドが信じられないと言った表情をするが、連鎖するようにジャックも反射的に声を上げる。
それぞれの反応のあとに少しの沈黙が流れる。
最初に沈黙を破ったのはジャックでシールウッドに静かだが詰め寄る。
「ジョーカーが負けたってどういうことだ?」
そのジャックにシールウッドは少し気圧されるが、ジャックの姿を見て思い出したように言葉を続ける。
「ジョーカーの弟子だったな。最初に『黒の王』に接触したのはジョーカーだ。
少しばかり戦闘もしたみたいだが、実際に何が起きたかは誰も見ていない。
通信機から聞こえた声からは助かったとは思えない」
ジャックはしばらくの間、神妙な面持ちで黙っていたが、そのあとにゆっくりと口を開く。
「……そうか」
「割とあっさりしているんだな」
「死んだのが確認できていないなら、生きてる可能性もある」
冷静なジャックの受け答えにシールウッドはこれ以上何かを言うことはしなかった。
しかし、ここで動揺し始めたのはシオンだった。
「ねえ、お兄ちゃんがさっき歩いてたの見たんだけど大丈夫なんだよね?」
「それは本当か?」
シールウッドの反応にシオンは双眼鏡を手渡し、ある方向を指さす。
シールウッドはそれを受け取り、その先を見てから小さく頷いた。そのあと、どこか安堵した様子でシオンに伝える。
「ああ、ピースメイカーも動いているなら大丈夫だろうぜ。敵から誰か一人でも逃げ切るためにバラバラになったんだが……本当、無事でよかった」
「じゃあ、お父さんも……お父さんも無事なんだよね?」
その言葉にシーウッドの表情は固まり、何かを告げようと口は開いてはいるが上手く言葉にならないようだった。
シールウッドのどこか罪悪感を抱えた表情から、再びシオンの顔が悪くなり、恐怖の表情が浮かび上がる。
「……何か言ってよ……、ねえ……」
言葉のない解答にシオンは立っていられず、その場に崩れ落ちようとするのをジャックが支える。
シオンの代わりにジャックがシールウッドに問い詰める。
「シオンの親父はどうしたんだ、あんたは知ってるんだろ」
「ああ、おやっさん……サルビアは俺やライラックを逃がすために囮になった。
最後まで……あの人はあんたたちの心配を、強い父親だった」
シールウッドは唇を噛みつぶしながら、ゆっくりと言葉をつないでいく。
近くに居たロザリアも支えようとするが、ロザリアは声も上げずにただ静かに大粒の涙を流していた。




