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Ender Magia Chronicle  作者: 真夜
第一章 報復人 -BIRTH AVENGER-

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29.不安 -Uneasiness-

 遠くからでもわかる落雷の音を聞き、オアシスに残っていたロザリア以外の全員が不安な表情を浮かべる。

 エトワールが立ち去って以降、ロザリアは瞳を閉じて両手を組み、祈りを捧げるようにして動かずにいたが、ゆっくりとその瞳を開き、立ち上がる。

 ずっと傍で見守っていたシオンも同様に立ち上がり、ステラとアステルも駆け寄り、尋ねる。


「エト姉さんに何かあったの?」


 ステラの質問にロザリアは首を横に振り、答える。


「大丈夫だと思う。力を使うのをやめたみたい。でもエトワールが生きてるのは感じる」


 その言葉に全員の表情が少しだけだが緩くなる。

 エトワールが向かった方向にアステルが目を向けると、砂漠の中に黒い点が現れているのが見えた。


「もしかして、あれってエト姉ちゃん?」


 アステルの言葉にステラは走り出して、荷物がまとめてある場所から双眼鏡を取り出してその方向を覗く。


「……いや、姉さんじゃない。……もしかしてライラック?」

「本当ですか?」


 シオンはすぐに反応してステラに駆け寄る。

 ステラは察してシオンに双眼鏡を渡すとすぐにそれを覗く。


「間違いなくお兄ちゃんだ。でも……なんで、砂漠を歩いてるの」


 シオンの声は震えており、嫌な想像をしているようだった。

 アステルとステラは顔を見合わせて、ステラはシオンに向けて優しく告げる。


「私が迎えに行ってあげるわ、姉さんの様子も確認しておきたいし。風魔法ならすぐよ」

「あっ……ありがとうございます!」


 その言葉にシオンは深く頭を下げてお礼を言う。

 ステラは少し震えているシオンの背中を優しく叩いた後、アステルに近づき小声で告げる。


「ここは任せるわ、もしものときは頼んだわよ」

「うぅ……、頑張ります」

「はあ、もう少し自信持ちなさいよね。あなたは私たちの中で魔法の威力だけは一番強いんだから」


 ステラの足元に、片手が丁度収まるくらいのサイズの緑の魔法陣が現れる。

 ステラが地面を蹴ると小さく砂が舞い、自分の身長と同じくらいの高さまで飛ぶ。

 その一歩でシオンから見えるステラはすぐに小さくなっていた。

 ステラが確認に向かったものの、シオンの表情には不安が現れ、手は震えていた。

 それに気付いたロザリアはステラの手を握りしめ、アステルは力強くそして安心させるようにシオンに言う。


「きっと大丈夫ですよ。リアさん曰くエト姉ちゃんは無事みたいですし、スーちゃんも向かいました。


 彼女の風魔法ならすぐにこちらまで送り届けてくれます」

 その言葉にシオンは何とか笑みを作ろうとするが、ライラックが一人だということ、他の者たちが見えないことに、最悪な考えが次々と思い浮かんでしまう。そして、額からは冷たい汗が流れ、自分の動悸が早くなっていくのを感じる。

 顔色が悪くなっていくシオンを見て、ロザリアは握っていた手を再び祈るように両手で握り直し、力を籠める。


 シオンは握られた手から暖かい何かが流れ込むような感覚を覚え、ロザリアのほうを見る。

 ロザリアの眼には白い光輪が現れており、シオンが自分を見ていることに気付くとその光輪が消える。


「こうすると少しだけだけど気持ちが落ち着くと思って」

「うん、落ち着いた。ありがとう。……それより、リアちゃんさっきのって」


 ロザリアはアステルに聞こえないくらい小さな声で言う。


「エトワールにはむやみに使うなって言われてるの。だから……」


 シオンはその先の言葉を察して、ロザリアと同じくらいの声で答える。


「うん、皆には黙ってるよ。……本当にありがとね」


 シオンはロザリアの手を握り返す。

 シオンは先ほどまでの激しい動悸や汗はまるでなかったかのように収まり、思考もどこかクリアになっていることに気付く。そして、いつもより体が軽く感じられた。

 すこし落ち着いてからシオンは小さく呟く。


「……お父さんも、無事だよね?」


===================================


 街から出たジャックは現状最悪な状況を考えつつ、砂漠の中をバイクで移動していた。

 オアシスとの距離は近いためすぐに船の影が見えるが、ジャックの眼は別の何かを見ていた。


 服装は砂漠の背景に限りなく溶け込んでいるが、その動きは大胆でまるで隠れる様子がない何者かが動いている。

 大胆な動きからして、こちらの敵である可能性は低そうだが、現状で砂漠に出ているということは何かしらの事情があると予想できる。


 念のために確認しようとバイクの向きを変え、少しだけ近づく。

 手持ちの小さな望遠鏡を取り出し、その方向を確認する。


 望遠鏡の先には、カウボーイハットをかぶり、砂漠に合わせた茶色のマントを着た男の姿が見えた。

 望遠鏡から見えた相手もこちらに気付いたのか、一直線に手を振りながらこちらに向かって走り出す。


 その様子からこちらに敵意がないように思えるが、ジャックは警戒を怠らずにゆっくりとバイクを走らせる。

 お互いの姿がよく見えるまで近づくとジャックはバイクを止め、跨ったまま銃を引き抜き相手に向ける。


「待った待った、怪しい奴じゃない!」


 カウボーイの男は両手を上げて降伏の意を見せるようにこちらに近づく。

 ジャックは警戒を解かずにカウボーイの男に尋ねる。


「あんたは誰だ?街では見かけない顔だが」

「それはこっちのセリフだ。……ってお前、もしかしてジョーカーの弟子のジャックか」

「ジョーカーを知っているってことは討伐隊のメンバーか?」

「ああ、それより、ジャックは確かピースメイカーと行動を共にしていたよな?急ぎで伝えなきゃいけないことがあるんだ、合わせてくれないか?」


 カウボーイの男――シールウッドはジャックが構えている銃も気にせずに近づいてくる。

 その様子からジャックはただ事ではないことが起きているのだと予想する。


「何があった?」

「悪いけどのんきに説明している暇はない。ここも危険になるかもしれない。説明は移動しながら簡単に伝える」


 ジャックの質問をシールウッドは強引に打ち切り、移動を促す。

 シールウッドの見た目からして熟練の狩人に見えるが、そんな人物がここまで焦っているのは本当に何かあったのではないかと感じた。しかし、街の様子を思い出し、これが罠の可能性を捨てきれない。


「あんたの名前は?」

「シールウッドだ」


 ジャックにはその名前に関して、先日、ジョーカーの持っていた資料から確認したことを思い出す。

 彼が討伐隊のメンバーなのは恐らく間違いはないだろう。

 それが船ではなく、徒歩でここまで来ているのはかなりまずい状況だと考えた。


「わかった。ピースメイカーはすぐ近くにいる。そこでしっかりと説明してもらう」

「どうしてここの周辺にいるかは少々引っかかるが助かる」


 そう言ってジャックの後ろにシールウッドが跨り、船の方向へと移動を開始した。

 出発前にジャックは小さく呟く。


「……無事でいろよな」

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