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Ender Magia Chronicle  作者: 真夜
第一章 報復人 -BIRTH AVENGER-

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27.合流 -Switch-

 小型船からどんどん小さくなるサルビアの乗った船がついに視界から消え、ようやくライラックは前を向いた。

 その表情は悲しみも後悔も見当たらず、まっすぐ正面を見据えていた。

 その様子を見て、シールウッドはライラックを心配する必要がないと感じ、ラベンダーに声をかける。


「このままいけば逃げ切れそう……とはいかないよな」

「どういうこと?距離は十分稼いだはずだけど」


 シールウッドの言葉にラベンダーは疑問を返す。


「さっきも十分距離は稼いでいた。なのに追いつかれたんだ。今回も恐らく追いつかれるだろう。

 船の痕跡を追っているのか、それとも五感が鋭いのか。どちらにしろ、相手は追いかけるすべがある。

 ということで俺はここで降りるよ。少しは陽動できるでしょ」


 ラベンダーは疑いの視線をシールウッドに向ける


「なっ、ジョーカーすらやられた相手にお前がなんとかできるわけないだろ」

「まあ、そうなんだけど。ここまで犠牲を出して、失敗しましたなんてシャレにならないでしょ」


 間に入るようにライラックが提案する。


「だったら俺も下りる。そして、船だけを動き続けるようにして、俺たち三人で別々の方向から徒歩で向かえばいい。

 そうすればさらに誰か一人がたどり着ける可能性は上がるはず」


 その冷静な提案にシールウッドは微かにサルビアの面影を感じた。


「まあ、悪くはない。おやっさんからお前を任された身からすると同意はできないが最善だ。だが、一人は船に乗ったままにしよう。全員が歩いて追いつかれちゃ意味ないからな。

 ってことで一番船の操縦が上手いラベンダーに任せるってことで」

「私でいいのか?」


 ラベンダーは少し驚きつつ、二人に確認する。


「もちろん、リスクもあるさ。音や船の痕跡を追ってるなら狙われるのは心苦しいが君になってしまう」

「ああ、俺もそれでいい」


 シールウッドの軽い言葉とライラックの率直な返事を聞いて、ラベンダーも嫌味を言うように返す。


「ふん、お前と心中するより上等だな」

「まだ嫌われているのねぇ。まっ、決まったなら速攻で行きましょうか」


 ライラックとシールウッドが船から最低限の装備を身に着ける。


「じゃ、再会できることを祈るぜ」

「ああ、親父の事色々聞きたいしな」

「一足先に行かせてもらうよ」


 それぞれが別れの言葉を告げると同時にライラックとシールウッドは船から飛び降りる。


==================================


 ライラックが船を降りて走り出し、砂丘の丘を越えるとようやく街の近くのオアシスが目に入る。

 そこには古い船が停泊しているのが見え、誰かがいるかもしれないとライラックは思った。

 忠告に行こうと考えたとき、自分の後ろから爆発音が鳴り、その方向を振り向く。

 まだ距離はあるが漆黒の狼がこちらに来ていることがわかり、さっきの音は自分が走りながら撒いた地雷だった。


「どうやら、俺が当たりを引いたらしいな」


 ライラックは登った砂丘の丘を滑るように降り、街とは別方向へ駆け出す。

 ライラックには目の前の漆黒の狼を見ても、恐怖を抱くことはなかった。

 ジョーカーすら倒した相手なのに、むしろ体中に力が入り、いつもより頭の中がクリアになっていた。


「時間は稼がせてもらう、こっちに来いよ」


 漆黒の狼が近づくたびに、砂の中に仕掛けた地雷が起動し、傷は負っていないように見えるが一瞬だけ狼の動きを止める。

 その一瞬すらも今は重要だった。

 漆黒の狼は地雷を無視するようにその場で大きく跳躍する。

 その滞空時間は考えられないほど長かったが、ライラックには好都合だった。


 ライラックはゴーグルをつけ、一気に近づいてきた狼に向け、閃光弾を投げる。

 空中に飛んでくれたため、狼にはその閃光を見るしかない。

 狼は着地には成功するも、突然の閃光に両目を焼かれたのか、それとも苛立ちからか唸り声をあげながら、首を横に振る。

 それを見てライラックは再び距離を取る。


 しかし、ライラックにはもう小細工ができるほどの道具は手元に残っていなかった。

 すぐに視界が開けてきたのか、狼の瞳が再びライラックを捉える。

 漆黒の狼が地雷を警戒して、ライラックに右へ左へと動きながら助走をつけ、ライラックに飛び掛かる。


 ライラックは走るのを止め、腰から肉切り包丁のような片刃の剣を取り出し、一撃でも与えて一矢報いるため、その剣をしっかりと握り狼と睨み合う。

 ライラックにはその牙がゆっくりと自分に迫ってくるように見えた。耳から聞こえる音も消え、死の濁流が自分の思考を支配する。


 しかし、それは空間を震わすほどの雷鳴で破られた。同時に二者の間に白雷(びゃくらい)が落ちる。

 砂が落雷により、弾ける中、帯電した大剣が姿を現す。


 続いて、ライラックの前にエトワールが着地し、ライラックのほうに振り向く。


「大丈夫?」


 ライラックは自分の鼓動が急激に早くなると同時に理性が戻り、エトワールに必要なことだけ喋る。


「ジョーカーからの伝言だ、そいつは『黒の王』だって」

「ありがとう。ラックはすぐに離れて、こいつの近くにいるだけで毒を貰うようなものだから。

 オアシスに向かって、そこに私たちが乗ってきた船があるから」

「わかった。その前に一つ聞いていいか」

「何?」

「こいつを倒せるか?」


 その言葉とライラックの視線から重圧を感じた、エトワールは一呼吸おいて言葉を返す。


「今は倒せない。だけど約束はする。必ず倒すって」


 その言葉を聞いて、ライラックはオアシスの方へ走り出した。

 エトワールは地面に刺さった剣を引き抜いて、両手で構える。

 漆黒の狼は今まで見せたことのない警戒をエトワールに向けていた。


「様子見のつもりだったけど、……ここから先には進ませないよ」


 狼と向き合った、エトワールの瞳には白と紫の光輪が現れていた。

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