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Ender Magia Chronicle  作者: 真夜
第一章 報復人 -BIRTH AVENGER-

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24.圧倒 -Defeated-

 ジョーカーが小型船を言われた方角へ進めると砂の中からサンドワームの顔が出ていることがわかる。

 船の速度を落としながら慎重にそのサンドワームに近寄る。


 そのときの周りの砂の動きからサンドワームの体液による変質はなくなり、死んでからそれなりの時間がたっているのがわかる。


 さらに死体に近寄り、確認すると先ほどのサンドワームより小さく、まだ成長途中の個体だとわかる。

 しかし、この死体には外傷が一切見当たらず、周りの砂の痕跡を見ても暴れた様子、争った痕跡もない。例えるならまるで眠るように寿命を迎えたかのような、静かな死体だった。


 もし、この死体がサンドワームの生息域に存在したなら、弱い個体だったということで気にも留めない。


 倒したサンドワームは三体、そしてここにある死体は恐らく同じ群れであり、一緒に移動していたのだろう。ただその移動の最中にこの成体になりきれていない個体が死んだ。


 ここで力尽きたのはその移動に耐えられなかっただけなのかもしれない。それであればいいのだが、まず根本的な部分で解き明かさなければいけないことがある。


 どうしてサンドワームが自身の生息域を離れ、自分たちに適切な場所ではないここに移動したのか。

 その手掛かりがあればいいと考えたが、ここにはそれらしいものが一つもなかった。


「仕方がない、戻るか」


 そう考えたとき、砂漠の中で動く影を見つける。

 ジョーカーとは距離が大きく離れているが、今まで気づかなかったことに違和感を覚えるほどの巨体の狼が、突き出た岩の上でジョーカーを見ていた。


 体長は大人の成人男性の二倍近く、その毛皮は砂狼の砂漠と同系色の茶色とは違い、まるで暗闇からやってきたかのような漆黒、その瞳も同じだった。そして、報告にあった通り、身体に模様があり、それはエトワールたちの契約陣に似ていた。


 いつもなら、すぐに信号弾を送り、サルビアたちとの連携を取るはずのジョーカーの動きが一瞬止まる。

 なぜなら、ジョーカーの眼に映るその存在に大きな矛盾を感じたからだ。


 その一瞬を見逃さなかったのか、目の前の狼はジョーカーの存在を無視して一直線に走り出した。その速度はジョーカーの乗ってきた船よりは数段速かった。

 反応が遅れたジョーカーはすぐに思考を切り替え、信号弾を飛ばす。

 ジョーカーはその狼の行動の意図を瞬時に理解し、本来送るはずだった、発見の信号弾を危険と警戒に変更していた。


 そして、すぐに大剣を砂漠に突き刺すと、中央に開いた窪みに魔石を加工して詰められた緑のボトルを取り出しはめ込む。


 柄をその片手でしっかりと掴むと大剣の表面に少しばかり体を小さくしながら乗り、柄のすぐ横に平行に伸びたバイクのブレーキによく似たレバーを引き続ける。

 すると大剣の内部から複数のギアが動き始めたようなカチカチという音とともに鍔の近くにあるマフラーから蒸気が出る。


 同時に砂が大きく巻き上がり、ジョーカーはまるでボードに乗って大ジャンプを決めたかのように上空に飛び上がる。

 その速度はサンドワームのときとは比較にならないほど速く、普通の人ならその風圧に耐えることは不可能だろう。だが、ジョーカーの体幹は一切ぶれず、すぐに漆黒の狼の上空を飛び越え、その前へと躍り出る。


 片腕で器用に大剣の向きを変え、砂漠に突き刺す形で着地すると同時に中央の無色になったボトルが薬莢のように飛び出し、次に赤いボトルを装填し、先ほどのレバーの引き続けるのではなく、連続して二回握る。

 すると大剣は再び機械音とともに蒸気を噴き出す。そして同時に真紅の炎を纏う。


 目の前に現れたジョーカーに対して漆黒の狼は全く速度を落とす気配もなく、ジョーカーも大剣を砂漠に引きずるようにして狼の方向へ向かう。

 徐々に距離が縮まる中、まだ互いの攻撃が届かない射程でジョーカーは大剣を振りかぶる。同時に大剣のレバーを強く引く。

 すると大剣の炎は一気に伸びあがり、氷の時と同じようにその刀身が伸びたように錯覚させる。

 しかし、漆黒の狼は全くその剣に臆さず進み、直撃すると思われたその瞬間、炎は一瞬にして萎み、大剣は何も斬らずにジョーカーの前の砂漠に叩きつけられた。


 狼はその隙をついて突進してくるが、大剣を盾に衝撃と合わせて後ろに飛びながら、大剣からボトルを吐き出す。

 着地に足が砂漠に少し捕らわれるが、すぐさま紫のボトルを大剣に装填し、漆黒の狼に向かって真っ直ぐ向ける。

 狼は減速を忘れたかのようにジョーカーへ向かってくる。


 距離は先ほどより大きく開いているが、ジョーカーは剣先を一切揺らさずに狼に向けたままトリガーを引く。

 大剣が紫の帯電を始めると同時に、目で追うことすら難しい雷撃が一直線に砂漠の上を走る。

 しかし、紫の閃光は狼に近づくと徐々に細くなり、狼の眼の前で儚く消えた。


 二度の魔法攻撃を行ったジョーカーは狼から一切目をそらしてはいなかった。しかし、狼の周辺で魔法陣も、その瞳の光輪も現れておらず、狼自身が魔法を一切使っている様子はなかった。

 もし上手く隠しているのだとしても、()()()()()()()()()は決して魔法の痕跡を見逃すはずがなかった。


 だから、ジョーカーはこの漆黒の狼に異常、そして矛盾を感じた。契約陣のような紋章に、魔法によって強化されたような肉体なのにその体からは一切の魔法の痕跡が見えなかった。


 漆黒の狼が眼前に迫り、再び大剣を盾のように構え、防御姿勢をとる。

 狼の巨腕の振りかざしを大剣で受け止めることができたが、ジョーカーの体は踏ん張りがきかず、後ろに吹き飛ばされる。


 それでもジョーカーは受け身を取ろうとするが、いつものように上手くいかずに砂の上に転がるように落ちる。

 なんとか立ち上がり大剣を再び構えようとするが、大剣がいつも以上に重く感じる。

 それだけではなく、あの程度の攻撃なら本来ここまで吹き飛ばされることも着地に失敗することもないはずなのに明らかにジョーカー自身の体に異変が起きていることを察する。


 ジョーカーはすぐに撤退信号を飛ばす。この狼では正攻法で戦っても倒すことができないと理解したからだ。


 狼はまるで先ほどまでの動きが嘘のようにゆっくりとジョーカーに近づく。

 まるで、ここまでが作戦だったかのようにその狼には笑っているような表情が垣間見えた。

 ジョーカーはここで漆黒の狼の行動によって自分の行動の選択肢が絞られていたことに気付く。

 この狼は気配でジョーカーを警戒したからこそ、観察する時間を与えず、自らのテリトリーに誘い込み確実にとどめを刺す。

 その狡猾さはまるで人間と同等のものだ。


 狼が近づくにつれ、身体の違和感が改めて強くなる。

 大剣を持ち上げることもできずに砂の上に落とし、体の力が急激に抜けていくのを実感する。

 そして、傷のないサンドワームの死骸の意味を知る。

 この漆黒の狼に近づくことは自身の体力を、そして魔力すら弱らせる力を持っている。

 その力は恐らく生命が死ぬまで効果が続くのだろう。周り全ての生命を喪失させる能力に、一つの心当たりがあった。


 それは実際に見なければ誰も信じない。なぜなら、その存在は、誰もがよく知り、誰もが存在するとは思っていなかったからだ。

 だからこそ、こいつには人を欺くほどの知恵があり、すべてを滅ぼす力がある。

 そして、どうしてピースメイカーたちがこの内容を伏せたかも理解した。


 砂に膝をつき、意識を保つことすら難しくなったジョーカーにトランシーバー型の無線機から通信が聞こえる。サルビアの船がさっきの信号を見てこちらに進んできて、通信圏内に入ったのだと知る。


『何があった、ジョーカー!大丈夫なのか?』


 ジョーカーは最後の力を振り絞りながらかすれた声で答える。


「……にげ……ろ、絶対に……相手をするな」

『おい!どういうことだ。何があった?』


 通信機越しでもサルビアの焦りが伝わる。ジョーカー自身、もう限界が近いと感じていた。発せる言葉は一言だけだと感じたジョーカーは、ここで言うべきことを伝える。


「ピース……メイカーを……頼れ、そして伝えろ。相手は黒の……王だ」


 漆黒の狼はもうジョーカーの眼前まで来ていた。そして、まるで相手をあざ笑うかのようにその腕でジョーカーの体を空中へ吹き飛ばした。

 飛んだジョーカーの体は漆黒の狼から大きく離れた位置に落ちて、大きな砂埃を上げる。

 そして、漆黒の狼は船の方向へと再び、歩みを進み始めた。

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