22.余韻 -Afterglow-
サンドワームは切られた後も、自分はまだ生きていると勘違いしているのか、うねうねとその長い体が動いていた。しかし、すぐにそれは止まった。
ジョーカーは小型船で回収されるまで、ライラックは言葉を一つも話さず、先ほどの戦闘を思い返していた。
「はは、なんだ、今の戦闘。ジョーカー、最近は前線に出なくなって衰えたとか言われてたが、全くそんなことないじゃねえか。
むしろ全盛期と変わらねぇだろ」
シールウッドの声にライラックも我に返り、彼に尋ねる。
「全盛期から変わらないって、昔からあんな動きを?」
「ああ、俺が最初に見たときは契約獣の大蛇だった。鱗は馬鹿みたいに固い、氷魔法で砂漠は凍らされて、船は動かなくなるわで、かなりの強敵だった。
その時は燃える大剣で蛇を何分割もの細切れにしていたぜ。それも今と同じ片手でだぞ。
ここに来る前から隻腕らしいが、ジョーカーほどの人間が隻腕になるって想像がつかないだろ」
シールウッドの声はいつもより興奮しているようで、ライラックもそれはよく理解できた。
そして、あそこまでの実力になれば、もはや嫉妬すら起きない。むしろ戦いが芸術のように感じ、誰もがうらやむのも理解ができる。
そして、ライラックは改めてジャックの強さの秘密に触れたような気がした。
「それにジョーカーはただ倒しただけじゃない。サンドワームの断面を見てみろよ」
ライラックはシールウッドの言葉で改めて、サンドワームの切断面を確認する。
そこには切断面は白い煙を上げ、一切の体液も漏らさず凍り付いていた。
「サンドワームの本来の倒し方は地表に出てからの火責めだ。そもそも真っ二つにできる人間なんてジョーカーしかいないと思うが、あいつらの体を傷つけると体中から大量の体液を吐き出して、砂がさらに沈みやすくなる。そうなると船も動かしづらくなる」
「あの人、一体何者なんだよ。明らかに一人だけ次元が違うじゃん」
「さあな、狩人になるには経歴とか一切聞かれないからな。でも、確かあの人は狩人の試験を合格してなった珍しいタイプだったはず。
街の外から来た人間なのは間違いない」
ライラックは試験という言葉を初めて聞き、声が少し大きくなる。
「狩人の試験なんてあるのかよ、俺そんなもの受けたことないぞ」
「そりゃ、街に住んでいる狩人のほとんどが受けたことないぜ。
狩人になる方法は二つあって、さっきの試験に合格すると師匠筋からの紹介。ほとんどが後者で狩人になってる」
「確かに俺も狩人になるとき、何かした記憶はないな。確か名前だけ教えて、このタグをもらっただけだな」
そう言って、ライラックは隠れたタグに服の上から触れる。
「ジョーカーが入った当初は威張り散らした先輩どもが突っかかって、全員が返り討ちに会うって噂もあったな」
「それは俺も聞いたな。でも自分で魔石を壊して風を起こして飛ぶってどうなってんだよ」
「普通に考えてありえないだろうな。あの大剣でも魔石を使って氷を発生させてるみたいだが、精霊と契約していない人間が魔法を制御することなんてほとんど不可能だ。
魔薬を使うことが推奨されてない理由だしな。魔力とどれだけ体に取り込んでも、俺たちの体はそれを使うすべを知らない。
だから自分で体を燃やしたり、凍り付いたりと事故も絶えないんだよ」
その言葉に、ライラックはジャックが昔に魔薬で失敗したことを思い出した。ただジョーカーはそれがまるでなり親しんでいるように使って見せた。
「だとしたらジョーカーはどうやって魔力を使ってるんだよ?」
「やっぱ、秘密があるとしたらあの大剣だろ。精霊契約者が魔法を使うとき、魔法陣が現れるだろ。あれは魔法の制御や形態を現しているらしくて、それを武器とかに刻んで魔石から魔力を取り出せば、模様に合った魔法を使える。
というか船に使われているエンジンも魔石で動かしてる、最近作られた魔導機銃も同じ技術だしな。
ウィズピースはその研究機関でもあるし、首都は魔法で水を生み出している、夜でも街は昼みたいに明るいらしいぞ」
普段オアシスから水を運び、夜は星空の光しか知らないライラックには想像できなかった。
「へえ……、つか、ウッディって結構博識なんだな」
「そりゃ、一応、おやっさんたちの次くらいには古参だからな。
というか俺とのんきに話していいのかよ。忠告されてんだろ」
そう言ってシールウッドはちらりとラベンダーの方へと視線を向ける。
ライラックもラベンダーを見るが、全く気にしていない様子で答える。
「確かに聞いたけど、あんたはその理由をちゃんと答えただろ。その時のその言葉は俺には本心だと感じたし……、話してて直感だけど悪い奴じゃないって気がする。
だから、気にしないことに決めた」
シールウッドはわざとらしく口角を上げて、ライラックの肩を組む。
「さすが、おやっさんの息子。懐が深いね」
「多分、ジャックと少し似てるんじゃないかな。あいつはウッディみたいに気安くなくて、ポーカーフェイスだけど、なんか芯がしっかり通って、真面目って感じ。
だから親父の招集に答えたんだろ」
ライラックの言葉に一瞬だけシールウッドはいつもと違う表情を見せたが、すぐに元に戻る。
「それはどうだろうな、実は……」
「お前らいつまで雑談している!」
ラベンダーが甲板で話し込んでいる二人を見て、叱りつける。
「すまない、今君の元に向かうよ」
シールウッドは完全にいつもの調子に戻り、ラベンダーの方へ向かっていたが、ライラックにはその足取りがどこか軽やかに思えた。




