2.狩人 -Hunter-(2)
狩人にとって情報も金になる。そのため聞かれたくない情報などは個室を使って伝えることが多い。ジョーカーの功績があるからこそスムーズに物事が運んでいるがジャックだけの場合はこうはいかない。
そのあたりで飲んでいる連中もただの飲んだくれではなく情報収集のためここに来ている。そのためかジョーカーたちが移動を始めた瞬間、彼らの視線が鋭くなる。
奥の扉に入るとすぐに階段がある。それを登ると細長い廊下に部屋番号が書かれたプレートと扉が続いている。
受付はすぐ近くの扉を開き、ジョーカーたちは案内のまま部屋に入る。内装は簡素だがそれでもこの辺りでは物珍しい装飾品が置かれている。中央にある円型のテーブルを囲むように座り、受付が切り出す。
「確認だが未探索の遺跡の確証は」
ジャックはその言葉に折りたたまれた紙を広げる。
「ここが見つけた遺跡の場所だけど過去の遺跡探索記録を見てもこの周辺はほとんど開拓されていなかった。それに内部にも入ったが人の痕跡もなく、動くゴーレムも健在だった」
それはリムレイの大まかな地図であり、一か所だけ赤丸でわかりやすく目印がある。
その場所を見ると受付は眉に皺を寄せた。
「ああ、その辺りは確かに遺物狩りも手を出していない。この周辺が砂漠化する前は低地だったため遺跡が砂に完全に埋まったからだ。だから入り口を見つけられない。また、無理やり入り口を作っても遺跡の崩壊の恐れがあったからだ。どうやって入口を見つけた?」
その言葉にジャックはどこかぎこちない笑みを作り、ジョーカーからはため息が聞こえる。
「えーえっと、……その賞金首を追いかけていた時、そいつがバイクで遺跡の壁に激突して、……できた穴から入りました」
受付はその言葉に興味を失ったように機械的に手続きの話を始めた。
「なるほど、わかった。状況的に遺跡の安全性のなさから位置に関しては無料での全体公開とさせてもらう。一応内部を探索したのならマッピングは行ったのか」
「それなら、これが。そこまで深くはないがゴーレムが警備している部屋までは道筋はわかる」
ジャックはさらにゴーレムのコアとその情報、遺跡内をマッピングした紙を提出する。
受付はそれを見るなり、感嘆の声を漏らす。
「これはゴーレムのコアだな。しかも状態がかなりいい。遺跡内に落ちてたのか?」
「倒してそこから取り外した」
「えっ?」
それ聞いて受付はよくわからなかったのか動きが一瞬止まる。自分で結論に至ったのか再び話を続ける。
「ジョーカーと一緒にやったのか、さすがだな」
「いや、ジョーカーはいなかった。ただちょうどいい餌がいたから楽はできたな」
「えっ、ああ。なるほど」
混乱を始めた受付は冷静を取り戻そうと何度か咳払いをする。
「ま、まあ、このコアは相当の値段が付けられるだろう。あとはこの遺跡内のマッピングだが……情報料は取ることはできないな」
「えっ?」
立場が交代したのかジャックの動きが止まる。
「マッピングとしては出来がいい、遺物狩りが作るものと同等レベルだがこの程度ならそもそもマッピングすら必要ない」
ジャックが作ったマップには入口からゴーレムと戦った部屋までしかされていなかった。それは紙一枚の半分も埋まっていない。
「残念だが遺跡の情報に関しては買い取るほどではない。ただこのゴーレムのコアはしっかりと鑑定したうえ言い値で買い取らせてもらう」
うなだれるジャックは一切の反応を示さないジョーカーに気が付く。
「……もしかしてこうなることがわかってた?」
「……何事も経験だ。時間を取らせてすまない」
ジョーカーは受付に頭を下げる。
「いや、納得だ。気にしていない」
その一連のやり取りに恥ずかしさを感じたジャックは立ち上がり、部屋の扉に向かう。
「船の整備をしておけよ」
何事もないようにジョーカーが呟く、ジャックは何も言わずに部屋を出るとわざと力強く扉を閉めた。
受付はその様子を少し気の抜けた表情で見送る。
「……はは、そういえばまだ十五だったか。それじゃあ賞金首の捕まえたときの状況を知りたいんだが」
「……すまない」
ジョーカーは仮面をつけているため表情はわからない。しかし、その声から仮面の奥の表情が想像できた。
部屋を出たジャックはそのまま階段を降りようとしたが、メインホールにいた狩人たちを思い出す。
いくらジョーカーの弟子とは一人で出ていけば絡まれ、情報を抜き出しに来てもおかしくないと考える。
通路の奥には窓があり、そこは建物裏側になっていたことを思い出す。ジャックはその場で体を反転させ窓を開く。窓のサイズ的に大人は通り抜けられないがジャックはすんなりと窓を抜け、下へ飛び降りる。
「やっぱりこっちから出てきたか」
その声にジャックは警戒することなく振り向く。
「ラックか」
そこにはジャックより一回り大きくフード付きの黒のジャケットを着た青年――ライラックが立っていた。
長年の付き合いになっているジャックやライラックの家族からはラックと呼ばれている。
「よっ、中で聞いたけどジョーカーが個室に上がって何か情報を渡してるって聞いてな」
「やっぱり探りを入れる気満々ってことね」
「俺としても聞きたいからな~、ジャックなら報告とか面倒くさいとか言って途中で抜けると思ったし」
そういってライラックはジャックの肩に腕を乗せる。この馴れ馴れしさはライラックの長所であり、先ほどの出来事で腹が立っていたジャックも払いのけることはしなかった。
「たいしたことじゃない、明日には全体に公開されてるだろうよ」
「そうなの?ジョーカーだからってみんなそわそわしてるぜ」
「ジョーカー曰く『何事も経験』だとさ」
「なるほど、だからちょっと不機嫌なのね」
「不機嫌だとわかっててぐいぐい来る奴がいるんだけどな」
「はは、悪かったって砂漠帰りだろ、なんか食い物おごるよ」
「じゃあ、遠慮なく」
ジャックとライラックは表通りにはすぐに行かず、細い裏道へと進み始めた。