21.圧倒 -Absolute-
ジョーカーとサルビアを先頭に砂漠を進んでいる船だが、かなり進み、風景も砂漠だけの景色から多くの岩肌が突き出ている場所だった。
「ジャックの心配はしなくていいのか?」
サルビアが甲板で両足を肩幅ほど広げ、不動に佇んでいたジョーカーに話しかける。
「あいつがミスってもピースメイカーが何とかするだろ」
「そうか、でもピースメイカーのお嬢ちゃん達には少し悪いことしちゃったかな」
「彼女たちもそれは覚悟のうえでここには来ているはずだ。それに奴らは公に動くことはしないはずだ」
「それもそうか、それより見えたか?」
「ああ、指揮系統はお前に任せる」
二人の視線の先には砂が列車の汽笛のように一瞬だけ吹き上がっていた。
「本来なら時間が掛かるが、ジョーカーは一人で行けるだろ」
「足場は必要だ」
「了解、準備させる。後ろの船に伝えろ。陣形を維持しつつ警戒、低速で走行を続けろ。絶対止まるなよ。砂煙が上がったらすぐにその位置を連絡。
小型船を二隻、運転はおめえらに任せる。その一隻にはジョーカーも付いて行く。」
サルビアの言葉に全員がすぐに動き出す。
「これが本命だと思うか?」
ジョーカーが片手で機械仕掛けの大剣を背負ったところでサルビアが訪ねる。
「時間稼ぎとしては有効だろうな、うかつに船を動かせない。帰るにも時間が掛かる」
「やっぱりそうか。とりあえず今はあれを片付けるか」
そう言ってサルビアは船室に戻り、ジョーカーは準備のできた小型船に乗る。
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サルビアの指示で船を止め、甲板で周りの警戒を始めていたシールウッドはいつもの軽口でライラックに話しかける。
「おっ、ジョーカーが前に出るみたいだぞ」
その言葉にライラックも先頭の船に目を向けるが、その姿は小さく背負っている大剣を見て、ジョーカーと認識できた。
「魔獣の姿が見えないな。砂煙って言ってたけど」
ジョーカーの乗った小型船の辺りを見渡しても、敵がいないことにジャックは気付く。
その言葉にシールウッドは指をさす。そこには特徴的な砂煙が上がっていた。
「あれはサンドワームの呼吸のあとか。でもここは生息域じゃない。ましてや岩肌が突き出ているこの環境じゃ、あいつらも動きにくいはずだ」
「本来サンドワームは砂の中に障害物のない場所を拠点にしているからな。もしかして引っ越しの際中だったりして」
「それはありえないだろ、サンドワームが引越しをする生体なんて聞いたことがない」
「冗談に本気になるなよ。まあ、ジョーカーが出るんだからすぐ終わるだろ。とりあえず俺は砂煙が出た位置を連絡してくるよ」
シールウッドが甲板から離れる。ライラックは周りを注意深く観察する。
サンドワームは体から特殊な体液を出して、砂の性質を変えながら地中を進む。
体液が染みた砂漠は船なしで踏み込めば、沼のように足を取られて沈むのを待つだけ。
船も動かし続けないと同じ末路になる。
また、長時間にわたって砂に潜み続けるから、倒すにもまず地上に引きずり出さなければ攻撃も加えられない。
ゆえに本来なら船のアンカーのような釣り針を大砲で飛ばして、突き刺してから砂から引きずり出す必要がある。
だが、最初の伝令ではその準備までは指示はおりていなかった。
そこにまるでタイミングを見計らったようなサルビアの伝令が船に届く。
『標的はサンドワーム三体、今回は熱によるあぶり出しを行う。大砲の球と火属性の魔石を樽に詰めて、各自に送る指定の場所に投げ捨て、一定距離を置いたら爆破させろ』
その伝令でライラックはサンドワームの生態に忘れていた特徴があることを思い出す。
サンドワームは夜行性であり、地中で過ごすのは暑さが苦手だということだ。砂にしみ込ませる体液にも冷却機能があり、どれだけ日差しが強くても、サンドワームが住む砂は非常に冷たくなっている。
ライラックは作戦用の樽を準備して、砂漠に放り捨てる。複数の船が同時に同じことを行っているため、短い時間で火によるあぶり出しができるが、一隻では不可能な作戦だろうと思った。
全体の動きを見る限り、砂の中の熱がこもりやすいように調整をしているようだ。
それに魔石で火をつければ、その火は砂上だろうが暫くは燃え続ける。
結果、砂の中の熱が地中より暑くなれば、サンドワームが地中のほうに自ら出てくるということだ。
しばらくして砂の上に魔石で生まれた、真っ赤な炎が灯り始める。
ただここでライラックはこの作戦の欠陥に気付く。サンドワームの出現位置だ。
砂の中から出てくるにしても位置がバラバラだと、それぞれが地表に留めるために対応しなければいけない。
ジョーカーが一体ずつ倒しても、時間をかければ砂の中に戻っていくかもしれない。
それにこの場所は今、魔石の炎の障害物もあり、小回りが利かない。
そのようなことを心配しながらジョーカーがいる船の陣形の中心地に目をやる。
そこにはジョーカーが砂漠の上に大剣を突き刺し立っていた。
サンドワームが潜っている砂場は他とは違い人が踏み込めば、沈んでしまう。
そのためライラックの見間違いかと思い、より注意深く確認すると大剣から霜ができており、ジョーカーの立っている足場は完全に凍っていた。
まるで特上の餌を見つけたかのように砂煙がジョーカーの元へ動き出す。
そしてほとんど同時に三体のサンドワームがジョーカーのいる地中から姿を現した。
砂漠から現したその体は約五十メートル近くあるが、まだ蛇腹状の体は砂漠に埋まっているため全長はさらに長いともいえる。
また、サンドワームは出現した位置にいたジョーカーの姿が消えたことに気付き、ライラックはサンドワームの周辺を見渡し、自分の目を疑う。
ジョーカーはサンドワームより高い空中にまるで飛んでいるかのように存在していた。
その手に持つ大剣は刀身を氷で二倍近く伸ばしており、人が振り回せる代物ではないように見える。
ジョーカーは抵抗することもなく大剣を構え、自由落下を始める。それは生理的に嫌悪を催す様子、サンドワームの無数の触覚が映えた口に自ら飛び込んでいく。
だが、ジョーカーは空中で踏み込みすら出来ない状態で体を捻り、サンドワームの飲み込まれるのを回避して、一体目のサンドワームの胴体を氷でコーティングした大剣で輪切りにする。
すぐに切り落とされたサンドワームの胴体を足場に跳躍し、二体目のサンドワームの体も真っ二つにする。
しかし、次に足場になるようなものはなく、三体目のサンドワームまでは距離がある。氷で伸ばした大剣でも届きそうになかった。
だが、ジョーカーは流れるような動作で懐から手のひらサイズの緑色のボトルの形をしたものを取り出す。そして、自分の前にそれを投げると同時に足を使ってそれを壊す。
壊れると同時に強風が吹き、狩りを行う鳥のように三体目のサンドワームに一直線に吹き飛ぶ。
ライラックはそれが風属性の魔石を使ったことに気付くが、あのような芸当ができる人間は今まで見たことがなかった。
ジョーカーがサンドワームを通り過ぎると崩れ落ちるようにサンドワームの胴体がわかれ、三体同時に砂漠になだれ、大きな砂埃を発生させる。
ライラックは再び、見たジョーカーの姿は氷の剣で砂漠を突き刺し、大剣の柄に乗り、砂漠に沈むことを回避している姿だった。




