13.力量 -Ability-(2)
黙っているジャックに励ますように声をかけるがジャックはその言葉が耳に入っておらず、考えていた。
しかし、エトワールからの視線に気が付き、無表情のまま言う。
「そろそろ準備が終わるだろ。玄関に戻ろう」
「急に話を変える必要はないじゃない?さっきの戦い、君はどう考えてるか聞かせてよ」
何も言わずにその場を去ろうとするが、エトワールは楽しそうにジャックの行く手を遮る。
しばらく、ジャックとエトワールはその場で睨み合うが根負けしたジャックが言う。
「……はあ、結論から言えばどうやったかわからなかった。これで満足か?」
「結論から……ということはわかったこともあったってことだよね」
答えを知っているからかエトワールは楽しげに会話を続けるが、ジャックは気だるげに一つずつ話す。
「あの動きだが人間ができる動きじゃない。魔法が使われているのは間違いない。あんたの眼に光輪が現れてたからな」
一瞬見えた紫の閃光は彼女の眼に現れた光輪が正体だとジャックは考えていた。
「へえ、よく見ていたね。それに魔法を使うときに光輪が現れることも知ってたんだ」
「あんたらの街であぶれた魔法使いの相手をしなくちゃいけないからな。魔法陣を地形や体で隠して使うやつだっている」
魔法を使う場合、魔法陣が出現するのは誰もが知る常識だがもう一つだけ魔法を使っていると判断できる要素が眼に現れる光輪。瞳孔を囲むように属性に合わせた光の円が出現する。遠くからでは判別は不可能、近くで見てもじっくり見なければ気付かない。これは魔薬を使用した者にも表れる特徴だった。
「魔法を使っていたことはわかったがあの動きは風属性しかできない。だが、あんたは前に使う属性は雷属性だと言っていた。
雷属性は速射性と射程、そして精度に優れた属性だ。使い手は近接戦より後ろでの射撃戦、援護に向いている。馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込んでくるやつはいない」
「属性の性質の知識については百点満点の回答だね。でも私が実は風属性を使えると隠してたら?それに君は私が真正面から突っ込んでくると予測してたみたいだけど」
「ありえない。隠す行為は街に来た理由から考えてもデメリットしかない。それに隠していたとしてそれを今見せる理由もだ。それに眼に現れていた光輪から雷属性に間違いない。
あとは性格を考えれば小細工なんてしない」
「君は本当に頭が回るよね」
「それでもあんたの戦い方の秘密はわからなかった。魔法を使っているかはわかるがどう使っているのかがわからない。
あの動きができる方法が見つからない。
風魔法以外であんな動きをするには人間をやめるくらいしか……」
何かを思い出したのかジャックはしばらく考えた後に呟くように言う。
「あんた、もしかして精霊超律してるのか?」
「へえ、その言葉も知っているんだ。君、ほんとに狩人なの?」
「力だけで敵を殺すことが勝利じゃない。知略を持って生き残ることが勝利だ、……とジョーカーに教わった。それを実践しているだけだ。それよりどうなんだ」
「なるほど、いい師匠じゃないか。でも残念だけど私は精霊超律してないよ。
私の契約している精霊はそこまで強い精霊ではないし、例え強い精霊だとしてもウィズピースから精霊超律になった人間は滅多に出ないよ。
あれは人の精神にも影響を及ぼす。だから私たちは精霊と契約した後に契約陣を囲むように制御陣を付けることが決められてる」
「制御陣?確か魔法制御の精度をより高めるため契約陣を囲むようにピースメイカーは付けていると聞いたけど」
「表向きはね。ただし本当の理由は精霊超律になるのを防ぐために付けている。君は精霊超律についての認識は?」
「強力な精霊と契約した人間に起こる現象。
精霊からの魔力を間近で浴び続けた結果、肉体のその魔力が馴染み、本来の人間が発揮できる力以上のことができるようになる。魔法もいつも以上の操作が可能になってなかには特殊な異能に目覚める人間もいると聞く」
「ああ、それは全て正解だ。だけどデメリットもある。それが精神面の異常だ。
そうだね、君たちの知ってる魔薬の過剰摂取の症状と似てるかもね。
もちろん、すべての人がそうなるわけじゃない。過去の英雄には精霊超律した人がたくさんいる。
だが暴走した人も語られてはいないけどウィズピースの歴史では何人もいるんだよ。
ウィズピースの見解は精霊超律とは契約獣の突然変異と同じ現象の認識だよ」
「なるほどな、少し納得がいく。制御陣が生まれたのは約百年前。過去の記録に精霊超律の記録は多く残っているのにここ数年は三人しか記録がない。しかも、うち二人はウィズピースの人間じゃないし、残りの一人は死んでると聞いた」
「そういったことも知っているのか。君の博識ぶりには驚かされる」
「だがあんたの力の秘密はなおさらわからなくなる。雷属性であの動きは不可能だ」
「ふふ、まあそうだろうね。私の使った魔法を十年ちょっと前に作られた、科学の進歩により人間の体の構造が判明したからこそ生まれた魔法だ。君もまだその魔法については知らないみたいだし、それにこれを使えるのは今私しかいない」
語るエトワールの表情はいつも以上に誇らしげに見えた。
しかし、彼女の足は痺れているのか小さく痙攣しているのをジャックは見逃さなかった。
そして、ジャックはあることを思い出す。




