12.噂 -Gossip-(3)
日が完全に地平線に隠れる前に着いたジャックはすぐに魔獣狩り用の道具を入れた箱を船の倉庫に置き、その辺りに置いてあった布で隠す。
もう一つの箱は弾薬と普段からよく使う道具を入れてデッキへと上がる。
操舵室は明かりがついており、すでにジョーカーが帰ってきていることがわかった。
ジャックは箱を持ったまま操舵室に入る。
「戻った」
ジャックが入ってきたことにジョーカーは特に振り向きもせずに「ああ」と小さく返事をするだけで、机に広げた武器の整備をしていた。
その武器は手入れをしていることは見たことあるが使っていることは見たことがない機械仕掛けの剣だった。
そして、それに似た剣をエトワールが持っていたことをジャックは思い出した。
「その剣、ただの観賞用だと思ったが使うのか?」
「状況次第ではな。今回の魔獣はウルフ種らしい。それなら銃より剣のほうが有効なのはわかるだろ」
素早い魔獣には銃を急所に当てることが難しく、相手の攻撃を防ぎつつ一撃で首を落とせるような剣を使うことが多い。ジャック自身も何度か使ったことはあるがそれは刃の横幅が広く頑丈でサイズをかなり大きくした鉈と肉切り包丁を足したようなものだが、ジョーカーが整備しているのはそれとは全く違うものだった。
「知ってる。だけどあんたが整備してるのはいつもの剣とは違うだろ」
「さっきも言ったが状況次第だ」
「その武器に似たものをピースメイカーが持っていた。その武器はどういったものなんだ」
その言葉にジョーカーの手が一瞬止まる。すぐに整備に戻るが何かしら思うことがあったらしい。
「これはもともとウィズピースで作られた武器だからな。
ただ使うにはそれなりの知識と技量が必要だが……、あのピースメイカーのリーダーなら属性との相性もいい。
こいつの機能は簡潔だ。魔弾を装填してトリガーを引くことでその属性を刀身に一時的に纏わせる」
ジョーカーの過去については謎が多いが魔法について街一番と言っていいほど詳しい。そして魔法について異様な目利きを持っている。今もジャックはエトワールの使える属性を一言も言っていないのに彼はわかっているようだった。この魔法への認識の深さからピースメイカーとの知り合いがいてもおかしくない。
それよりも剣の能力のほうがジャックは気になった。
「それだけ?見た目の割にしょぼくないか。それを扱えるだけの筋力あれば使えそうだけど」
「属性相殺を知っているだろ。この剣はそれに秀でた武器だ」
ジャックも属性相殺は躱し切れない魔法攻撃に対して使う技術の一つで魔力はその属性によって通しやすい属性と通しにくい属性、相性がある。
相手の魔法の属性がわかればその属性に対して通しにくい属性の魔弾を使うことで魔法を防ぐもしくは貫通させる。魔法を使う相手と戦う場合は大いに役に立つ技術。
確かに銃の場合は魔法攻撃に銃弾を当てなければいけないが、この剣の大きさなら属性を纏ったうえで盾としての活用が出来る。魔弾のように属性を自分で切り替えられるのは便利ではあるだろう。
「もちろん防御だけではなく攻撃にもこの剣は使える。その威力は刃に属性を集中させている分、魔弾のように接触した瞬間拡散せずに一撃必殺にもなる。今回の相手は情報が少ない分、可能なら一撃で決めるのが最も被害が少なくなる可能性がある」
ジョーカーはどんな依頼も準備を怠ることはないがその様子を見る限りいつも以上に準備をしているように見えた。
「今回の魔獣は手ごわいのか?」
「恐らくな、討伐に出た人間が誰一人帰ってきていない。魔獣狩りの基本はお前も知っているだろ」
魔獣狩りは大体四、五人のチームを組み、前衛に二人、中継に一人から二人、そして周辺の警戒と遠距離からの後方支援を一人から二人と役割を決めて行う。
前衛は一人が獣を挑発しつつ自らへの攻撃を向けそれを捌く、隙があれば仕留めてもいいが基本的には防御、回避に専念しつつ匂い袋や行動で獣の敵対心をとり誘導する。もう一人が隙を見て獣を仕留める、もしくは罠の配置などを行う。群れで行動する獣などは人数が増える。
中継には司令塔兼遊撃手が多い。肉眼で見える範囲の状況を見て前衛に指示を行う。場合によっては前衛に出ることもあり、臨機応変な対応が求められる。
そして後方支援は狙撃手兼船からの周辺環境の観測を行い、他の魔獣がいないか。危険なときは救難信号を送るなど、地味だが味方が危険に陥った時などの命綱と言ってもいい。
そのため、前衛、中継が最悪の場合に陥っても後方支援のメンバーが撤退すれば魔獣の情報程度は持ち帰ることが可能なのだ。
全滅したということはそれができなかった。そして船ごと沈めた相手かもしれないということになる。
考えられる原因は超広範囲の強力な魔法を使うことができる、もしくはかなりの速度での移動ができる魔獣となるが誰も逃げ切れなかったことを考えると間違いなく普通の魔獣より知能を持っている。
今回は大規模な作戦だから恐らく三、四チームの合同で行うとは思うがそれでもかなり危険な戦いになるだろう。
「今回の魔獣討伐だが恐らくピースメイカーのお嬢さんが言っていた通りかなり危険だと考えている」
「そんなにか?」
「今動いているのは魔獣だけじゃないから」
その言葉にジャックはクロウのことを思い出す。どうやらジョーカーもクロウの様子がおかしいことに気付いており、魔獣にも関わっているかもしれないと少なからず考えているようだ。
「俺は明日からこの船を空ける。何か用があるときはギルドの受付に伝えろ」
「わかった、そういえば魔獣の捜索範囲の順序は決まったのか」
ジョーカーは会話の中で初めてジャックのほうを振り返る。
ジャックは得意のポーカーフェイスで表情を崩さないがジョーカーの顔は仮面によって隠れているためわからない。
「……セオリー通り餌や水が豊富なオアシス方面からの探索になるだろうな。痕跡を見つければそこから行動範囲を割り出していく予定だ」
「まあ、そうなるか」
ジャックの想定通りの航路になるとわかったところで、腹の音が鳴る。
「飯なら昨日の残りが奥にある」
「へいへい」
そう言ってジャックは操舵室を出る。ジョーカーに何か勘づかれたかと思ったが特に何も言わないということは問題ないと判断した。
ジョーカーは黙々と大剣の整備を続けていた。




