1.日常 -Always-(3)
赤いマフラーを巻いた少年ジャックは砂漠の大海に浮かぶ、先ほど後ろを追っていた中型船へ上がる。
その船はいたるところに継ぎ足したかのように補修の跡が見られるが、荒廃した砂漠の中では奇妙な威厳を感じられた。
甲板に上ると拡声器から落ち着いた男性の声が流れる。
『……首はどうなった?』
「気絶させてバイクと縛って乗せてあるよ」
拡声器の男は気にすることなく、呟く。
『オーケー、戻るぞ。アンカーあげて、エンジン起動させろ』
「ここの座標は記録済みか、おそらく未探索の遺跡がある」
ジャックは喋りながらも作業を始める。その動きに迷いは一つもなく熟練されていた。
『そいつはお前の仕事だ』
簡素な返事をかき消すようにエンジンから轟音が鳴り、黒い煙が上がる。
慣れない人間ならここで驚くだろうが、ジャックは気にも留めずにゴーグルをつけ、マスク替わりにマフラー口元を隠し、作業を進める。
「そろそろ新しいのに買い替えなきゃな」
ジャックは服についた煤を払いながら、操舵室に入る。
操舵室は明らかに場違いな私物がいくつも置かれており、普段からここで生活しているのが一瞬でわかる。
そこにフードを被り、機械の髑髏のようなマスクを付けた隻腕の男がいる。
「準備終ったぞ」
ジャックがフード付けた男に声をかけると拡声器から聞こえていた声の主――ジョーカーが返事をする。
「わかった、お前は報告書を作っておけ」
「はいはい、人使いが荒いことで」
ジャックは身に着けていた装備を乱雑にソファーに置く。
小さな船は大きな砂埃を上げながら砂漠の海の航海を始めた。