12.噂 -Gossip-(1)
話が決まった後はなぜか今日からシオンの家に向かうことになったらしく、全員が荷物を持って街を歩いていた。明後日の集合場所はシオンの家と決まり、全員がその道筋をたどっていた。
エトワールは前にも見た機械仕掛けの大剣と片手で十分運べるだけの荷物、もう片手にはロザリアの荷物を持っているだけと少ない。ステラはトランク一つを持ってきており、中には着替えや化粧道具など身だしなみに関するものがいろいろ入っているらしい。アステールに関しても大きく膨らんだリュックを背負っており、今日買った調味料や材料が入って料理をする気らしい。
ある程度まで歩いたところで盛り上がっている女性陣に対してジャックは告げる。
「俺はここから別方向だから分かれるが、シオンの事は任せていいよな?」
「えっ、ジャックも一緒に来ればいいのに、それに船はそっちじゃないよね」
シオンからの言葉にジャックはわざと困り顔を作る。
「準備で必要なことがある。それに俺がいたら邪魔だろ」
「そうだね。早く行っていいよ」
すぐに反応したステラはハンドシグナルで向こうに行けと伝えてくる。
「……うん、またね」
シオンは引き留めることはせずに少し寂しそうな顔を見せるがすぐに笑顔を作る。
「ああ」
ジャックは小さく返事をしてからその場から去る。そして振り向きはしないが手を振る。
再び彼女たちの喋り声が聞こえるがすぐに聞こえなくなっていく。
街にはたくさんの足音とあまりやる気のなさそうな売り子の声、遠くからは複数人で喧嘩をしているのか怒号と殴り合う音が聞こえる。普段なら気にもしない街の音がやけに大きく感じられ、一人で歩くことが久しぶりなことに気付く。
歩みを止めることなく周りを見渡すと誰もが活気のない表情で下を向く者ばかり、建物の陰にはボロボロの服を着た少年が大人たちに従い荷物を運んでいる。その姿はあり得たかもしれない別の自分を見ているようだった。
彼女たちといることで忘れていたこの街の姿を思い出し、嫌でも彼女たちと自分の世界の違いを思い知らされる。それはライラックとシオンも含まれている。それはきっと自分が過去にこの街の闇に触れ、家族を死なせてしまったことが影響しているのだろう。
だからと言ってライラックとシオンには自分と同じになって欲しいとは思っていない。むしろそうならないことを望んでいる。長い付き合いにはなるが彼らはこの街には似つかわしくないほど真っ当な性格をしている。
そのため、ウィズピースのピースメイカーとも壁一つなく対等の付き合いができているのだろう。
エトワールたちも話している限り、ライラックたちに対して好印象を抱いている。その関係が続けば彼らにとって悪いことはないだろう。ライラックが彼女たちに協力することでこの街から彼らを出してくれればきっと生活も良くなるはずだ。
考えれば考えるほどジャックはキングに言われたことを思い出す。
自分には彼らのような信念があるわけでも正義感や良心を持っているわけでもない。
狩人になったのもジョーカーの弟子入りしたのも元々は母親の仇を自らの手で殺すためだった。
しかし、ライラックたちに関わるようになっていつの間にその気持ちは薄らいでいた。
だが、憎しみや後悔がいつまでも自分に憑りついている、過去に縛られ続けていることは変わらなかった。
だが、ライラックやエトワールたちは未来を見て、その先の幸福を手に入れるために生きている。自分とは正反対の存在だ。
そして、彼らと関わっている自分が間違っているのではないかと思えた。
そんなことを考えているうちに目的地の雑貨屋にたどり着き、中へと入る。




