11.破棄 -Cancel-(1)
それなりの広さがあったはずの個室だが、九人もの人数がこの部屋に集まると狭く感じられた。
「で話ってなんだよ。こいつらにも関係あるのか?」
そう言ってライラックはエトワールたちに視線を向ける。サルビアは頭を抱える。
「……こいつらって、お前もう少し言葉使いはどうにかならないのか?相手が相手だぞ」
「いえ、私は気にしていませんので」
「ほら、大丈夫だって」
能天気なライラックに呆れながらもサルビアは切り替えて話を続ける。
「はあ、まあいい。本題に入るがラックを今回の契約獣討伐に参加させるために今の仕事から外して欲しいんだ」
「えっ?」
いきなりの話にライラックは声を上げ、エトワールも少し驚く。
「もちろん、こちらからの契約破棄だ、今まで働いた分の報酬はいらない。なんならこちらから違約金を払おう。ただこの討伐は、こいつに大きな経験になる部分が多い」
サルビアの言葉は息子を案じる親心が真っ直ぐに表れていた。それを理解したのかエトワールは特に不満を見せることなく答える。
「こちらとしては問題ありません。それに違約金を払う必要もない」
その言葉にサルビアから緊張の糸が解けたのを感じる。
しかし、次はエトワールが少し躊躇いながらも一つの提案をする。
「ただ一つ可能なら、その討伐隊に私たちを参加させていただけないでしょうか」
「その提案は……俺の一存で決まることはできない。この討伐はもうギルドが取り仕切ることになっているからな。ただ君たちウィズピース側がギルドに直接言えば……参加はできるだろう」
サルビアは喉に何かを詰まらせたかのように途切れ途切れに答えた。
「その様子だと何か問題があるんですか」
言葉に詰まるサルビアを見て、ジョーカーが近づき代わりに答える。
「君たちが入ってくることでこのギルドと狩人の間に大きな溝が生まれるからだ」
「それは私たちがピースメイカーだから?」
「ああ、君がこの討伐に参加したい理由が報酬目当てではないことはわかる。そこに善意があることもわかっている。だがその愚直すぎる善意はこの街では疑心しか生まない。
この話で儲けようと考える狩人は沢山いるだろう。そこにピースメイカーが参加し、参加できなかった人から見れば自分が参加できたかもしれない枠を奪われたと考えてもおかしくないだろう。
それをギルドが強行したとしれば狩人からのギルドの信用がなくなる」
「確かにそうですが、相手が契約獣なら強敵です。ウィズピースでもそれなりの準備を用意して討伐します。それなら私たちが参加したほうが戦力も上がり、被害も少なくなるのではないですか」
「ああ、君たちが言っていることは正論だろ。だがその正論が俺たちからすれば侮られているようにも聞こえるだろ。
それにここに住む連中はいつも死と隣り合わせで生きている。強敵だからと言って引く奴らはほとんどいない。選ばれるのは経験豊富な狩人になるはずだ。引き際の見極めにもたけている。それに情報だけでも金になる。
こちらで討伐ができないと判断すれば正式にウィズピースに討伐の依頼が送られるだろう。君が出るのはそれからでも問題はないはずだ。
それとも無理やりにでも参加して無駄な敵意を買うか?この街は君たちを歓迎していないのは気付いているはずだろ」
ジョーカーのはっきりとした物言いはエトワールも感じていたのかそれ以上は何も言い返さなかったがステラはわかりやすく不機嫌な顔になるが押さえているのか何も言わない。
「ありがとう、ジョーカー。エトワールさん、俺たちとしてはその気持ちは嬉しい。ただこの街の事情を察してくれ」
「いえ、こちらも少し配慮が足りていませんでした」
サルビア、エトワールはともに申し訳なさそうな顔をしながら喋る。
「一つ伝え忘れていたがジャックはここに残していく。ラックとの契約は切れるがこいつはこき使ってもらって構わない。報酬も必要ない」
「はあ?なんでだよ」
一番早く反応したのはジャックでジョーカーに食って掛かる。
「お前は狩人になってまだ半年だ。周りから見れば新人だ」
「確かにそうだが仕事はずっと前から手伝っている」
「そんなこと周りからすれば関係ない。それともお前は今の依頼を放棄するか?」
ジャックは睨み返すだけで特に言い返すことはしなかった。
「ねえ、お父さん。ラックがいない代わりに私が手伝うのはダメかな?」
シオンの提案にサルビアは少し心配な顔をしつつ確認する。
「体調は大丈夫なのか?」
「うん、調子はいいよ」
「それなら……エトワールさんはそれでも大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません」
特に嫌な顔をすることなくエトワールは頷き、その横でシオンとロザリアは顔を見合わせ嬉しそうな顔をする。
「だが、ラックが抜けるとなると今後どうするんだ?」
「ジャック、君が決めればいいんじゃないか?」
「確かにそれでもいいがそもそも俺は首狩りだから専門的道具はあまり持っていない。それに万が一のことがあった場合、俺一人では対処しきれるか怪しい」
「……なるほど」
エトワールは少し眉間にしわを寄せて考え始める。
「それなんだが今回討伐対象の契約獣がこの近辺にいるという情報がある。
だからできればこの街を出ないでもらいたいんだ」
ずっと辛抱していたステラがその言葉を聞いて痺れを切らしたのか声を上げる。
「さっきから黙って聞いていればこちらの行動を制限することばかり。なぜこちらがそっちの言うことを聞かないといけないの!」
ジャックにもステラの言い分も理解できたが、エトワールはステラを制止し、素直にその言葉に従う。
「ご忠告ありがとうございます。しばらくはこの街で待機しようと思います」
「本当にすまない。このお詫びは落ち着いたときに必ずさせてもらう。
俺たちはまた下に戻って状況の確認があるから今日は失礼する。
ラック、お前も来い。ジャック悪いがシオンを家まで送ってくれ」
そう言ってサルビアたち、契約獣討伐メンバーは部屋を出た。




