9.勧誘 -Blackmail- (2)
その言葉にジャックは大きく表情を乱す。そして今までに憎しみが宿った瞳でキングを見る。
「……あんたたちが、あんたたちが母さんを襲ったのかっ!」
「へえ、そんな表情もできるんだ」
「答えろ……、できないなら無理やり口を開かせる!」
「あのさ、殺したのは僕らじゃないし、ちゃんと答えるから怒らないでよ」
銃を手に取るジャックに対し護衛の一人が前に出ようとするがキングはそれを止める。
キングは銃を向けられているにもかかわらず、怯える様子もなく、調子を変えずに話す。
「君の母親を殺したのは間違いなく僕たちの組織の人間だ。だが、彼らは先代クロウの方針で入ったただのゴロツキ。そしてそいつらが粋がり僕らの名前を使って暴れていた」
「だから自分たちは関係ないというのか!」
「あのね、勝手に熱くならないでもらえる。進む話も進まなくなるからさ。もうそのゴロツキは殺したよ。何なら首を揃えて持ってこようか」
キングの様子が一瞬にして変わり、ジャックにはその場の空気が凍り付いたように感じた。しかし、すぐに再び笑顔を作る。
「まあ、さすがに首を揃えて持ってくることなんで気はないけどね。汚いしすぐに捨てちゃった。
で最初の話に戻るんだけどまとめると今のクロウは統制しきれていないバカが勝手にうちの名前を使って暴れているような状態なんだよね。
こっちでも処理はしているけど数は多いし、中にはなかなかの実力者もいる。
そこで前々から目を付け、そして首狩りとして実績を出し始めた君をスカウトする話になる」
ジャックはキングがスカウトに来た目的がその無法者の処刑ということここで理解した。
銃を向けたままジャックはできるだけ怒りを抑えているがその表情はいつものポーカーフェイスではなかった。
「どうして俺だ。俺よりジョーカーのほうが優秀だろ。取り込みやすいとでも思ったのか」
「もちろん、ジョーカーをスカウトできればよかったんだけど先代がいろいろやっちゃってね。
でも僕としてはジャック君、君も負けてないよ。その若さその実力、成長性を考えればここで味方にできるのは大きい」
「ジョーカーが相手にしないのに俺がそっちに行くとでも」
「君はジョーカーの弟子であってジョーカーの言いなりではないだろ。それに君のその行き場のない憎しみ、怒り。僕はその復讐心を果たせる場所を提供してあげよう。
もちろん、狩人を続けたいならそうできるように仕向けよう。
それにこのまま馬鹿がのさばれば無関係の一般人が、君の母親のような悲劇がまた生まれることになるよ」
「俺がそんな言葉に惑わされるとでも」
「あはは、そうだよね。君が求めるものはそんなものじゃない」
キングの雰囲気が急に変わり、その視線にジャックは後ずさる。
「……君が求めるものは力さ。
どうして君はジョーカーの弟子になった?どうして君は狩人になった?
母親を失った君の人生はひたすらに強さを求めている。まるで何か追われるように何かから逃げるように。
君は誰かを守るために誰かを救うために強くなったんじゃない。
弱い自分は隠すために弱い自分を守るために自分自身のために力を求めている。
そして僕は君に更なる力を与えることができる。
……ついでに今の大切な人もクロウの力があれば守ることも簡単だ」
「俺は……」
「そんなに悩むことはないさ。この世で変わらない価値ってなんだと思う?
君が求めるその力そのものだよ。お金があっても地位があっても大きな力の前では無価値だ。
君が力を求めるのは正しい価値観だよ」
キングのその凍てつくような視線、そして心を見透かしているようなキングの物言いにジャックは嫌でも考えさせられ、動揺する。
ジャックにはライラックのような他人を助ける、エトワールのように差別をなくすような信念すらない。
それでもジャックは力を求め続けた。きっかけは復讐だったかもしれない。しかし、その気持ちすら忘れていた。だが今でも血まみれの母親と守れることしかできなかった自分の弱さと後悔、そしてその恐怖だけ忘れることができなかった。
ただ、自分が強くなると一時的だがその恐怖心が薄らいだ。だがすぐにその恐怖心が血まみれの幼い自分が追いかけてきた。
言葉に詰まるジャックをキングは何も言わずに眺めていたが、護衛の一人が家に入ってきてキングに耳打ちをする。
「どうやら、君がいなくなったことに気付いたらしい。いつでも返答を待っているよ」
キングはそう言い残してその場から姿を消した。




