8.境界 -Boundary-(2)
少し暗い雰囲気になり、シオンは話題を変えようとマーザに尋ねる。
「マーザさん、ジャックのお母さんってどんな人だったんですか?」
マーザは何かを思い出したのか笑みを作る。そして懐かしむように語りだす。
「彼女は私とチームを組んでた狩人さ。そして私にとっては娘であり弟子と言った存在だった。
ここで育ったには馬鹿みたいに真っ直ぐだが芯の通ったいい子だったよ。
もともとは知り合いの子供だったんだがその二人が死んでしまって私が引き取ったのさ」
「ジャックのお母さんってやっぱりジャックと同じで優秀な狩人だったんですか?」
するとマーザは思い出したように声を出して笑う。
「あっはっは、あの子はてんで狩人としての才能はなかったよ。失敗ばかりでよく迷惑をかけられたものさ」
「へえ、でも話を聞くとまるでジャックとジョーカーみたいだな」
その言葉にマーザは少し嫌な顔を見せる。
「あの男と一緒にされるのは心外だが、そうだね。ここで生きるには強くなければいけない。嫌でもそうなってしまった」
「ジャックとはずっと会ってないんですか?」
「母親が死んでからは一度もね。思い出すからか知らないが坊主が避けてるんだろう。まあ、今では街のうわさで名前も聞くことがあるし元気なら別にいい」
しかし、マーザのその表情はどこか寂しそうに見えた。
「やっぱりジャック呼んでくる。マーザさん待っててください」
「いや、そんなことしなくていいよ」
シオンはマーザの制止も聞かずに店の外へと出た。
ライラックはマーザに向け頭を下げる。
「悪い、マーザさん。シオンも良かれと思ってやってるんだ」
「わかってるよ。坊主をあれだけ心配してくれてるんだ。こっちとしても安心して任せられる」
「そっか、あっ、ちょっと聞きたいんだけどさ。マーザってもしかしてクイーンマーザ?」
「その呼び名はやめな。周りが勝手につけたあだ名だし、気持ち悪いんだよ」
「ごめん、親父たちの話で聞いたことがあったから確認したかったんだ」
「どうしてそんなあだ名が付けられたんですか」
エトワールが疑問に思いマーザに聞くが面倒くさそうに話す。
「単純な話さ。狩人内で最も稼いでいたから周りから勝手にそう呼ばれたんだよ」
「ジョーカーが来る前だよな。確か親父たちより前の世代だから見た目の割に結構年が」
「おいクソガキ、そういう詮索をすると……」
マーザはそのまま握りこぶしを作る。ライラックはすぐに謝り言い訳する。
「いや、見た目がすごく若くってびっくりしたってこと」
マーザの眼光は歴戦の狩人を想起させ、ライラックは冷や汗をかく。
緊張感のある雰囲気が周りにも伝わりほかのメンバーも黙り込む。
そこに何も知らないシオンが焦ったように戻ってくる。
「ジャックが外にいない!」
「えっ」
ライラックはジャックと最後に話した時のことを思い出す。そして理由はわからないがその姿がどこか遠くへ行ってしまうのではないかと連想させた。
「探しに行こう、嫌な予感がする」
飛び出していったライラックに続いて、シオンもマーザのほうに向き直りお礼を言って後に続く。
エトワールたちもそのあとに続いて行こうとしたときマーザは彼女らを呼び止める。
「あいつらを変なことに巻き込むなよ」
しかし、エトワールはその言葉にマーザに負けないような強い視線を向ける。
「それを決めるのは彼らです」
そう言って彼女たちはライラックの後を追いかけた。
「決める……ね」
マーザは棚に飾ってあった布を外し、写真立てを手に取る。
そこにはマーザとジャックと同じ赤い髪の女性が移っていた。
「ほんとあんたもロゼ坊も勝手に決めてどっかに行く。……こっちの身にもなって欲しいよ」




