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Ender Magia Chronicle  作者: 真夜
第一章 報復人 -BIRTH AVENGER-
2/28

1.日常 -Always-(2)

 遺跡内の通路はジャック以外の足音がせず、独特の形状のランプがよりこの場所の異質を際立たせた。

 しばらく歩き続けたところで血痕が消える。さらに通路が三方向に分岐し、十字路になっている。そしてどの方向にもランプは灯っていない。


 ターゲットもここまで来て、ランプと血痕に気が付いたのか痕跡を消して移動を始めたようだ。

 内部は思った以上に形が保たれており、完全に密閉された空間だったのか砂もそこまで溜まっていない。

 しかし、人がいた痕跡もないためこの遺跡は探索が全く行われていない場所と予想できる。そしてこのランプが反応しているということは遺跡自体がまだ生きていることにもなる。


 闇雲に追いかければ迷って出られなり、罠の餌食になる可能性もある。

 しかし、人の出入りもないこともあり、丁寧に痕跡を探せばターゲットを追いかけることもできる。だがリスクのほうが大きい。逃がす羽目になるが、ターゲット自身もここを生きて出られる保証はない。


 それよりも未探索の遺跡を発見できたのはむしろ運がいい。ある程度のマッピング、入口の確保と座標を記録、あとは簡単に運べる遺物を回収し、情報を売ればそこそこの金になるだろう。


 考えをまとめたジャックは来た道を戻ろうとする。同時に叫び声とかなりの揺れが発生し天井から砂が落ちる。すぐにジャックはその場を動かず、警戒体勢を取る。


 今の音でターゲットの行先は把握したが、この揺れはこのような遺跡の一部が崩壊してもおかしくはない。だがジャックは迷いなく十字路の一つを選び進む。


 その先にはそれなりの広さの部屋に岩でできた人型巨人のゴーレムとアランが向き合って、顔からは恐怖と絶望が滲み出ている。


 床とゴーレムの体にはかすかに赤くなっている箇所があり、先ほどの揺れの原因は火球を乱発したからのようだ。

 古い遺跡の中で魔法を使うことは遺跡の崩壊につながるとわかりそうなものだがターゲットにはその理性も残っていないらしい。


 すぐにジャックは近くの柱の陰に身を隠す。


 ゴーレムは遺跡内に配置されていることが多い、魔力で動く人工物。

 動体は正三角形の底辺を上、頂点を下にしたもので底辺からさらに小さな三角形が頭のように存在する。右と左の頂点から柱と言ったほうがいい腕が床に着くくらいに伸びており、足は非常に短足だ。動きも二足歩行ではなく腕と足を使った四足歩行でその見た目は少しアンバランスに感じられる。


 その表面装甲は魔力を帯びているため普通の岩より硬く、傷をつけるにはそれ相応の威力が必要になる。しかし、防御力があってもゴーレムには知能はない。行動は内部のコアに記録された命令によって決められている。そして、そのコアは過去の大戦以来製造法が失われているため、回収できれば大金になる。


 ターゲットは突如動いたゴーレムに対して慌てて魔法を使ったのだろう。

 その結果、あのゴーレムは敵対状態になった。その証拠にゴーレムの胴体の中心にある球体が赤く発光している。この状態のゴーレムは敵対者を鎮圧するまで止まることはない。


 ゴーレムの感知機能は優先順から動体、熱、魔力の三つが存在する。そしてその三つすべてがターゲットに向いている。ゴーレムの構造は知識としてあり、弱点もわかっているためこの状況を利用しようとジャックは考えていた。普通に相手をする場合、感知能力もあり、非常に面倒くさい敵だがこのまま囮になってもらえば勝機は存在する。


 ゴーレムはその質量が武器であり、剣や銃が付いていない、動きは遅く冷静になれば回避できない攻撃はない。寧ろ、行動パターンさえ理解すれば倒せずとも脅威にはならない。


 だが、アランにはそんな余裕はなく、向かってくるゴーレムへ効果のない火球で攻撃を行っている。

 何事もなく向かってくるゴーレムは敵対者に向け無慈悲に石柱にも見える腕を勢いよく振り下ろす。


 アランは慌ててその場から離れる、いた場所には石畳には大きくひびが入り、その破片が飛び散り、彼の頬をかすめる。


 恐怖から彼は両手を上げ降伏するが、ゴーレムはアランのほうを振り向くと同時に躊躇なく体を回転させながらその腕を横に振る。

 吹き飛ばされたアランは痛みのせいか、声も上げられず蹲っている。


 ジャックはポケットから装飾が施された藍色の銃弾を取り出し、シリンダーの銃弾と交換しつつ、ゴーレムの動きを観察する。

 完全に動きを止めたアランにとどめを刺すために、ゴーレムは両腕を高く掲げ、振り下ろそうとする。ジャックはその瞬間を見逃さずゴーレムに向け、冷静に引き金を引く。

 銃弾はゴーレムの腕が振り下ろされる前に胴体と足関節部分に命中し、ガラスが割れるような高音が空間に反響する。そしてゴーレムの体ごと腕を振り下ろそうとした方向に倒れた。


 ジャックはしばらくその場で銃を構えたままゴーレムの様子を見守る。倒れたゴーレムは立ち上がろうと試みて動いてはいるが上手くいかない。

 問題ないと判断したのかジャックは銃を構えたまま、ゴーレムのもとへ向かう。


 銃弾が命中した箇所からは白い煙が上がり、その関節は刺々しい氷塊が取り付いていた。

 関節を氷塊で固定された結果、両腕を上げていたゴーレムは自身の体を支えることができず、武器であるはずの重量で倒れたのだ。


 ゴーレムの傍まで近づくとジャックは運よくゴーレムに押し潰されずに済んだ賞金首のアランを見つける。

 アランは意識があっても痛みで立ち上がることができず、ジャックを見上げる。


 ジャックは抵抗できないアランに銃口を向ける。その銃身は人の腕くらいの長さがあり、鈍器のように扱える見た目だった。

 抵抗するにもできないアランは絞り出したかすれた声で助けを求める。

 ジャックはその哀れな姿のターゲットに無表情に吐き捨てた。


 「運が悪かったな」


ゴーレム(ゴリラのような見た目)

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