1.日常 -Always-(1)
目に映るのは文明が滅んだのかと思わせる、砂漠の世界。
いくつか建造物が見えるが風化が進んでいるため、原形はほとんどわからない。
水平線上には砂漠仕様の中型の船、その先に同じ仕様の二台のバイクが砂を巻き上げながら追われる魚のように走っている。その光景はまさに砂漠を大海と思わせる。
先頭のバイクはボロの布切れをマントのように纏い、フードとゴーグルによって顔はわからない。だが頻繁に後ろを確認し、運転に集中できていない。動きは右往左往とふらついている。
後続のバイクの人物もゴーグルをつけているため顔はわからないが体つきは前を走る人物より小柄で少年に見える。マスクのように口元を覆う赤のマフラーが特徴的だが、長さが足りずに見た目は襟巻に近い。その少年――ジャックの運転には迷いがなく、付かず離れずの状態のバイクの後を追う。
前を走るターゲットの賞金首――アランは後ろに手を向ける。すると空中に赤い線が浮かび上がり奇妙な魔法陣のような模様が形成される。ジャックはその模様を見ると同時にバイクを急減速させ、距離を広げる。
ジャックの反応に一秒程遅れて、顔くらいの大きいさの火の球が現れる。
しかし、火球はジャックの目の前から少し離れた位置に落ち砂埃を上げる。
何事もなかったかのように砂埃の中から目立つ赤いマフラーが見える。
距離は離したが、追従するジャックにアランは苛立ちを隠せていない様子だった。再び手を後ろに向けると同じ魔方陣が複数空中に現れ、火球を連続で繰り出す。
しかし、距離が離れたおかげか、ジャックは危なげなく最低限の動作で火球を躱す。
一方的な攻撃が続く中、急にジャックは大げさに横に逸れ、進路を変える。
アランは自分を追うのをやめたバイクを見てようやく前を向く。しかし、その眼前には砂に埋もれた建造物が回避不能な距離にあった。急ブレーキをかけるも砂にタイヤの操作が奪われたのかバイクは転倒し、慣性に従って建造物の壁と衝突する。瓦礫が崩れる音と砂埃が巻き上がり視界が遮られる。
ジャックはバイクを止め、砂埃が舞う建造物のほうへ向かう。
砂煙が消えると、建造物の壁に大きな穴が空いており、砂が滝のように中に流れている。穴をのぞき込むとバイクの残骸が目に入る。だがターゲットの姿は見つからなかった。
大胆に穴に飛び込み周辺を見渡す。内部には人を感知して発動する遺物のランプがあるらしく、ある方向に道標のように灯っていた。
よく見ると床には血痕も続いており、ターゲットは負傷していることがわかる。
腰のホルスターからグリップと銃身のバランスが歪な回転式拳銃を取り出す。
その銃身は改良が加えられ、普通とはサイズが大きく異なっている。
ライトで先を照らしながら、銃口を前に構えた状態で道標に沿って歩き出す。