8話
叱られてすぐに図書室を利用するのもバツが悪いので、私たちは空き教室を探して2人で廊下を歩いていた。
「ねえ、筆記試験ってやっぱり難しいのかな〜」
「出題される項目こそ提示されてはいるが…お前みたいな家庭教師のいないやつは、基本独学しなければならないから苦労するだろうな」
うっ、やっぱり……?
貴族は基本的に家庭教師に、学園に入る前の予習のような感じで勉強を教えてもらうことが多い。
しかし、家庭教師を雇うにははお金がかかる上に家庭教師自体そんなに数が多くないため、貴族でない私みたいな一般家庭の出には、残念ながらついていないのだ。
まあ、一応商家の娘だからお金自体はそれなりにあるんだろうけど。つまりは需要に供給が追いついてないってやつ。
「まあ、筆記試験の結果で留年とかはないだろうし、今の授業内容が分からなくても多分なんとかなるはずだ」
「え、そうなの?」
てっきり、ノルマを達成しなかったら留年したりするのかと思ってた……。
「お前、まさかそんなことも知らなかったのか……」
「…え、えへへ……」
嘘だろコイツ…と言いたげな目でサミュエルが私を見る。なんせ細かいとこは気にせずに生きてきたオタクなので、学園の詳しいシステムなんぞ知ったこっちゃないのだ。ストーリーとかなら頭に入ってるんだけどな〜。
そういえば、この世界のヒロイン…もといミアは誰ルートに行くのだろうか。
真面目で爽やかな人格者のレオルートもいいし、無口で硬派な天然君のウィリアムルートも捨てがたい。ああ、ちょっと苦労人気質なチャラ男のアシェルルートもいいな……。もしかしたら逆ハーになっちゃったり??
とんでもない奇跡で、こんなただのモブがせっかくミアちゃんと友人になれたのだし、そこんとこは恋バナで詳しく知りたい所存である。推しカプは推せる時に推さねば。
「……ぃ、おい!聞いてるのか」
「へ、何?」
「ハァー……いいか?留年にはならないのであって、当たり前のことだが成績はいい方が身のためにはなるんだぞ?」
「はあ」と、思わず気の抜けた返事をしてしまう。急に優等生みたいなセリフを言い出したことに困惑が隠せない。今までのガキ大将みたいな態度はどこいった。
「そうだな…もし、お前がいちばん下のクラスにでも入ってみろ、お前んとこの商会の名前には間違いなく傷がつくだろうなあ……?」
私の腑抜けた態度が気に入らなかったのか、彼はまるで脅すような口振りでそんなことをのたまった。
なんでそんなに勉強に対してやる気なのかは知らないが、流石に父親の仕事を引き合いに出されては叶わない。
「します!勉強しますって!!」
「勿論、そうでないと。なあ?」
「うう…脅すなんて卑怯だ〜!」
「あっ、おい待て!そんな走るなって!」
「誰が待つもんですか〜」と、後ろを気にしながら走っていたせいだったのだろう。
偶然廊下の曲がり角から出てきた人とドンっとぶつかってしまった。
「いだっ!?あ、ごめんなさい!」
「わっ!ああ、すみません…お怪我はありませんか?」
「はい!大丈夫で……え」
顔を上げると、目に映るのはさらさらとした銀髪と透き通った緑色の瞳。
私は、この人をよく知っている。知らないわけがない。
チュプリの攻略対象のひとり、レオ・アベンチュリン。
___私の、前世のいちばんの推し。




