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7話

ミアと途中で別れて、なんとか図書室についた。

サミュエルはすぐに見つかったが、どうやら何人かの女子生徒に囲まれているみたいだった。話しかけようか迷っていると、サミュエルがその女子生徒の輪から出できてこちらにずんずんと近づいてくる。


「おいおい、随分遅かったじゃないか?なあ?」


若干引きつった笑顔のまま彼がそう言う。笑顔のくせに目が笑ってないんだよなあ……。


「ちょーっと遅刻しちゃって……へへへ……」


「なーにが『へへへ』だ、このぉ…」


流石にそこを突っつかれるとこちらの分が悪いので、彼の意識の矛先を別のものに向けようと、なけなしの記憶力を振り絞って半ば強引に話題を変えた。


「そ、そういえばさっき話してた人はもういいの?」


「ん?ああ、あれは…ただのお誘いだ。お近づきになりませんか、とかそんなやつ」


「オサソイ……?オチカヅキ……?」


「まあ、オレはまだ婚約者がいないからな」


つまり、モテてるということ……!?

ちょっとこれは衝撃的かもしれない。例えるならば友達に知らない間に恋人が出来てたときぐらいの驚き。あんな生意気坊ちゃんだったくせに、そこまで人気だとは……。もしかして、ゲームでのサミュエルより性格が丸くなったからモテだしたのかな?

まあ、だからといってどうという訳でもないが。


「サミュエルってそこまでモテるんだ。へー…知らなかった」


「何だ、そのわざわざ聞いておいて興味の欠片もないような反応は…………」


そう言われましても、逆にどういう反応をしろと。


「ふんっ。オレのこの有能さがわからないなんて、残念なやつだなお前は…ハ、ハハ…」


誰が残念なやつだオイ。

その言い草にムッときて、ちょっとした意趣返しをしてやろうと、彼の顔をずいっと覗き込んで私は口を開いた。


「『確かにサミュエルって、ほんとーにかっこよくってとっても素敵だよね』」


「ッ!?」


「…って言って欲しかった?」


にやりとからかい半分でそう告げると、調子を崩したサミュエルは口をはくはくさせていた。

どうやら意趣返しは成功したようだ。

こういうひねくれたヤツは逆に褒めると機能停止するんだよ。フハハ、どうだ恐れ入ったか!

そうやって勝ちを噛み締めていると、サミュエルはフリーズから復活したようで、若干震えた声で言い放った。


「は……だっ、誰もそんなこと言ってないだろッ!自惚れんじゃねーよバーカ!!」


「はいいい??誰が馬鹿じゃ、だ れ が !」


「お前以外に誰がいるんだよ!」


「これでも簿記はできますー!!」


売り言葉に買い言葉。まるで火に油を注ぐように、口喧嘩はヒートアップしていく。アンガーマネジメント?知らない子ですね。6秒も待ってられるかこんなん。


「はん。オレに泣きついて勉強教わりにきたくせによく言うよ」


「泣きついてない!言ったとしても『わかんないから教えて』って頼んだだけでしょ」


「いーや、絶対そんな淡々とした言い方じゃなかったね!『もうわかんない〜教えてよぉ〜』って言ってた!!」


「そんな言い方してないってば!もういい、あんたみたいな紳士のしの字もないやつとは口聞かないから!」


「あっそ!好きにすれば」


「そこのお二方?」


ぞっとするような冷たい声が、私の耳に届く。

背後にまるで鬼でもいるかのような気配を感じて振り返ると、そこには笑顔の(ただしドス黒いオーラを放っている)図書室の先生が仁王立ちしていた。


「盛り上がっているところすみませんが、ここは図書室ですので。静かにご利用できないようであれば本日は他所でどうぞ?」


「「ハ、ハイ……」」


まさか、せっかく図書室に来てものの十数分で追い出されてしまうとは……。

蚊の鳴くような声で返事をした私たちは、2人仲良く図書室の外の廊下に出ることになったのだった。


●○●○


あーもう、ほんと可愛くないやつ。

こいつのせいで図書室を追い出されてしまったじゃないか。一体なんのためにここまで来たんだか。

隣にいたクレアはしょんぼりした様子でため息をついている。


先程の女子生徒との会話がふと脳裏をよぎる。


『あら、つれないお方……まだ決めてかねているのは、もしかして意中の方がいらっしゃるからなのかしら?』


ツイてないなあ、と口をすぼめて彼女は愚痴をこぼした。

……意中の方、ねえ…………いや、ないない。絶対に、ない。断じて。こんな生意気なやつなんか。


「……口聞かないって言ったでしょ。何でついてくるの」


「そういうお前こそ口聞いてるだろ。オレは口聞かないなんて一言も言ってねーし」


「大体誰がついて行くかよ、たまたま進む方向が一緒だったってだけ!自意識過剰にもほどがあるね!」


ふん、と鼻を鳴らすと彼女は呆れたような口振りで告げる。


「ああもう、聞いた私が馬鹿だった…。はいはいわかりました!自意識過剰な私はさっさと退散し__っぉわ!?」


怒りに任せて一歩を踏み出した彼女だったが、足元への注意が疎かになっていたのだろう。

急に何も無いところでつまづきそのまま転びそうになったのを、腕を掴んですんでのところで支えてやった。


「__っ、たく。もう少しで転けるところだったぞ、お前」


本当に、目が離せないったらありゃしない。危なっかしすぎる。


「あ、ごめ…ありがとう、サミュエル。助かった」


先程までとはうってかわって、彼女は眉を下げて「へへ…」と申し訳なさそうに笑う。

なんで、なんでこういうときに限って、いつもみたいに憎まれ口をたたかないんだよ。


とくん、と左胸の奥の方で何かがせわしなく動き出す。

やめろ、頼むからさっさと静かになってくれ。

思わずきゅっと奥歯を噛み締めた。


認めたくない。絶対に認めてたまるか。

だって、これを、こんなものを認めてしまったら、オレは……。

嫌、嫌だ。たまったもんじゃない。自分がどんどん自分じゃなくなってしまう。弱くなってしまう。

こんなの、違う。


「っひとの心を弄びやがって、この……」


「え、何?何か言った?」


「うるさい鈍感バカ」


「ほんと失礼すぎない??」


オレが、こんなやつを好きなわけないだろ!


そう叫び出したくなったのをグッとこらえて、今まで培ってきた腹芸で都合の悪い言葉はスルーした。


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