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42話

急な出来事に私が呆然と立ち尽くしていると、苦しそうに呻く声で現実に引き戻された。

戦っていた皆の顔や腕にツタが巻きついていたり、皮膚のところどころに火傷や鱗ができている。

ここまで化け物の体力をなんとか削ってきた彼らだけれど、流石に限界が近いようで、魔法を使いすぎた反動で身体が悲鳴をあげているようだった。


守りたいのに、ただのモブでしかない自分が憎くてたまらない。爪の跡がついてしまいそうなほど、強く拳を握りしめる。

もし、私が神様みたいに何でもできる主人公なら、特別な力をもって生まれた聖女のような人間なら……こんな今みたいに足でまといのモブなんかじゃなくて、皆を、大切な人を、真正面から守れたのに。


……いや、違うな。

結局、モブであることを言い訳にして行動していないのは、他でもない私自身だ。

もしもなんて考えている暇があるのなら、今の自分ができることを考えろ、私。

例えば、少しでも彼らが体力を回復することのできる時間を稼ぐのはどうだろうか。連続して魔法を使い続けている今の状況よりも、少なからず身体への負担は減るはず。

こんな(モブ)だって…1度だけでいい、この世界(モノガタリ)の主人公になりたい!


いや…なれるんだって、証明してみせる!


気づかれないように化け物の背後に回り込む。この位置からでは化け物の背に隠れて皆の姿は見えないが、魔法を詠唱する声と放った魔法そのものは感じ取れる。


「ッ…『澄の神の名のもとに』っ!!」


私の放った魔法は、ぺしっと地面に水が当たるような音を立ててその化け物の背中にヒットした。それでも化け物はまだこちらを向かない。私は化け物の気をそらせるまで、何度も何度も魔法を当て続けた。

私の地味な嫌がらせに煩わしいと感じたのか、ようやく化け物が私の方へゆっくり振り返った。


いざその圧倒的な威圧感を目の前にすると、恐怖が全身を駆け巡り、膝や腕がガクガク震える。冷や汗がたらりと額から流れ、心臓が、脳みそが、身体全体が、警告を鳴らす。


「狙うんなら…強いやつじゃなくて、まず弱いやつから狙いなよ!」


それを誤魔化すように声を張り上げて、化け物を挑発した。


「クレアッ!お前何して……!!」


化け物が振り向いたことによって、私が危険な場所に飛び込んだことに気づいたサミュエルが、焦った顔でそう叫ぶ。魔法の使いすぎで、既に額や指先にまで火傷の跡が広がっている。プリズムの皆も同じような様子で、立つのもやっとなくらい満身創痍なようだった。


悪役としてのサミュエルなら、代わりはいくらでもいるのかもしれない。だけど、私の『大切な人』としてのサミュエルはひとりしかいないからさ。


だから……私は、あなたのためなら何だってできるの。


「それとも、私みたいなのも倒せないくらい、あなたは弱いのかなッ!」


放った魔法が、狙い通り化け物の頭のような部分にぶち当たる。威力としては水バケツくらいのものだったけれど、それでも憤らせるには十分だったようで、私の方にその大きな岩のような足を動かして近づいてくる。


「ほら、こっちにきなよ亀さん!」


半ばやけくそになってそんなことを言い放ちながら、私はサミュエルやプリズムの皆んながいる場所とは逆方向に全力で突っ走った。


・・・


森の方へ行けば、障害物も多いから多少は足止めくらいにはなるはず。それからどうするかは全く考えていないが、とにかく皆の体力が少しでも回復するまで逃げまくるしかない。


なんとか森の中に滑り込み、ひたすら逃げ回るが、化け物は力技で道を作り、私を追いかけてくる。

次第に逃げ場がなくなっていく。


「あ……」


気づいた時には、目の前に自分の力じゃ到底越えられないような崖があって、私の死はすぐ後ろまで迫っていた。……モブなりに、もう、充分がんばったかなあ…。

自分の呼吸する音が、やけに大きく聞こえる。


大切な人を守れるのなら、何だっていい。


化け物が腕を振り上げるのを見て、私は静かにまぶたを閉じた。


●○●○


「ほら、こっちにきなよ亀さん!」


そう言い放って、彼女は化け物を引き連れて森へ入っていった。彼女の姿がだんだんと遠ざかっていく。

魔法の反動の火傷や戦闘でついた怪我が痛むのも、もうどうだってよかった。


「っ…くれあ……っクレア、クレア、クレア…ッ!」


「待てサミュエル、それ以上動けば君も……!」


オレの身体を心配してか、自分の魔法の反動で現れたツタのせいで顔や足が半分以上覆われ簡単には身動きが取れなくなったアシェルが必死に止めようとするが、「いま行かないと、ぜったいこの先一生後悔する。お願いだから…行かせてくれ」とオレはその制止を振り切った。


・・・


足がもつれて転けそうになりながらも、ボロボロの身体に鞭打って、死ぬ気で足を動かす。酸欠や貧血で、既に目の前が朦朧としていた。

彼女の姿が見えてきた頃にはもう、文字通り彼女は崖っぷちで。


いやだ、失いたくない。

大切な人を守れるのなら、何だっていい。

間に合え、間に合え、間に合え!!


そう願って手を伸ばした時だった。

彼女の周辺が一瞬雷のように眩く光ったかと思うと、次の瞬間には化け物と対峙するように、この国の四神獣を彷彿とさせる白銀の毛並みをした虎がそこにはいた。


化け物は途中まで振り上げていたのをやめ、光から身を守るように腕でガードする。

「にゃあ」と聞きなれた鳴き声が、微かに耳元で聞こえたような気がした。


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