40話
学園の創立記念日である今日は一応祝日となっており、委員会などがある生徒以外はあまり校舎に立ち寄ることはない。
つまり、本来プリズムなどの特定の生徒に恨みを持つ人間にとっては、人目につかない上にターゲットはすぐそばにいるといううってつけのタイミングなわけだ。
今回は私とサミュエルが報告したから原作よりかは厳重体制だけどね!
この前侵入してきた魔獣は誰かに召喚されない限りは現れない。その召喚してきた誰かが、今回も仕掛けてくるはずだ。きっと、この学園内に必ずいる。
できれば、相手に化け物を召喚される前に捕獲したいところだが、相手も必死なのか中々しっぽを掴ませてくれない。
不安な気持ちをを落ち着かせるように、ポケットにある媒体代わりの石を手で触る。
とうとう、調査する場所は残り1つとなった。
学園裏、1年の実技試験の時に使った森のフィールド近く。
原作で、サミュエルとプリズムのみんなが戦った場所。
「ここら辺りに怪しい人影が向かうのを見たんだったかな?」
レオが私たちにそう問いかける。サミュエルが真剣な顔をして、「ええ、そうです」と首を縦に振った。
化け物と戦う可能性があるとは言える訳もなく、一応、不審者が侵入していたというていで彼らと教員には報告したため、この場には報告した私とサミュエル、プリズムのメンバーと1人の先生しかいない。もう少し人員を増やしてくれたら安心だったのだが、この際先生がいるだけ良しとしよう。
「今のところ、誰もいないようだけれど……」
アシェルが、少し大袈裟な身振りで宝物を探す海賊みたいに周りを見渡す。
確かに、今のところは人影どころか生き物の気配も感じない。
「…しかし、ここまで生き物がいないのは変だ」
ウィリアムは静かにそう呟きながら首を捻った。
木の葉のざわめく音だけがあるのが、この場所の不気味さをいっそう際立たせている。
「……?あそこ、何だかおかしくないですか?」
ミアちゃんが、ある一点を見つめ指をさす。
みるみるうちにその場所には黒い霧が漂い始めた。その場所の空間が水面みたいに不自然に歪み、バグったようなエフェクトが人の形を成していく。
その場にいた全員が、信じられないものでもみたかのように固まっていた。
「……」
人の形をしたそれは、何を発するわけでもなく読み取れない表情でただそこにいた。
小学校低学年くらいの子供のような姿。くせ毛気味の黒に近い濃い紫色の髪で、薔薇のように紅い瞳は、まるで幼少期のサミュエルの2Pカラーみたいな雰囲気をしている。
不意に、その瞳と目が合った気がした。
その子の口元が動いたが、風にさらわれてしまいそうな小さな声だったため、何を言ったのか聞き取れない。
「ッ避けなさい!!」
傍に控えていた先生の鋭い声が響く。
隣にいたサミュエルに腕を引かれて反射的にそれに従うと、先程まで自分がいた場所に火柱が立っていた。
それを見て、あの時その子が言っていたのは呪文だったのだとようやく気づく。
再びその子供が私たちに向かって魔法を放とうとした隙をついて、先生が子供を捕縛しようとする。しかし、それにいち早く気づいた子供は魔法を唱え、向かってくる先生の前に行く手を阻むように炎の壁を作った。
「あっぶな……」
サミュエルがそう呟くが、あまりの状況が変わる速さに彼の表情が追いついておらずぽかんとしている。
というか待って?一体何ださっきの状況は。
あんな幼い子…?が出していい火力じゃない。
「また何か仕掛けてくるぞ!皆、構えろ!」
レオが大声で警告する。
子供の口が動いて、言葉として聞き取れない音を呟いたかと思うと、場の空気がずんと重たくなった。日が陰りはじめ、その子と私たちの間により一層黒い霧が集まる。
私は、ソレが取り憑く前の化け物の姿であると確信した。
ソレが私に向かって、正確には私が持っている赤色の石に向かって迫ってくる。サミュエルが魔法で反射的に防ごうとしたが、ソレが向かってくるスピードには間に合いそうにない。もし失敗してしまえば、私は全てを失うことになる。
何とかなれと願いを込めて、手に持っていた赤い石をソレに向けて投げつけた。




