39話
あれから数日、生贄の代わりとなる媒体を探していた私たちだったが、その作業は難航を極めていた。
まずそもそもとして、取り憑く化け物の魔力に耐えられる代物でなければ意味が無い。それに加え、その化け物にとって人間よりも取り憑く価値のあるものでなければ。
「本当にそんなもの、あるのかな」
「【紅玉の指輪】くらいのモノでもない限り、厳しいかもな」
「それ、全然市場に出回らないって言われてるめちゃくちゃレアな装備じゃん…」
現在地は私の家の倉庫。父親は仕事関係で留守中である。
じゃあなんでサミュエルがここにいるのかって?商家だと物が多いから大変だろうってわざわざここまで手伝いに来てくれたのである。うーんスパダリ。
しっかし、ここまで物が多いと探す気も失せてくる。どうしたものかね……。
あー、集中力が切れてきた。今すっごいネコ吸いたい。ルビーが私の家に住んでたらいいのに。
「にゃあ」
ああ、とうとう幻聴まで聞こえてきた。
「ルビー?おまえ何でこんな所に……」
「えっ、うそどこどこ!?」
サミュエルの向いている方向に視線を向けると、「にゃあ」とまた一鳴きする白色の猫の姿。
噂をすればなんとやら、というやつか、ルビーがそこにお利口さんにちょこんと座っていた。
「ルビー!会いたかったよ〜」
「もしかして、知らない間に一緒に馬車に乗ってきたのか……?」
サミュエルが不思議そうな顔でそう呟くと、そうだと言わんばかりにルビーは返事をした。賢い猫様だ……。
ふと、ルビーの足元に2つほど石が落ちていることに気づいた。
ひとつは赤色の石、もうひとつは半透明な石。
え、ちょっとまって、この赤い方の石って……。
「これ【紅玉の指輪】に使われてる宝石の原石じゃん!!!」
【紅玉の指輪】は、いわゆる魔力を何倍にも増幅させる役割を持つ指輪で、それに使われる宝石自体にも魔力が宿ると言われている。それは原石も然り。
しかも、これもうひとつの方も神の加護がつくと噂の水晶の原石だし!!
「こっちの赤いの、結構大きめだぞ。よくこんなのあったな」
彼の言う通り、ここまで大きいのはなかなか珍しい。こんなのうちの倉庫にあったっけな……?
まあ、とりあえず大切に使わせて頂こう。勝手にとってごめんねお父さん…これにみあう金額をちゃんと商会継いで稼ぐからね……。
ともかく、これで生贄の代わりになるものは見つかったし、まずは第一関門突破だ。
「ルビーが見つけてくれたのかな?うーん天才すぎる。さすがルビー」
今回のMVPを盛大に撫でて甘やかすと、ゆったりとした動作で床に転がり、それはそれは満足気な声を上げた。
・・・
「今回の授業では我が国の白銀の四神獣についてお話します」
黒板にカツカツとチョークの当たる音が響く。
先生が書く文字を目で追って、急いでペンを手に取った。
「まず白銀の四神獣は鷹、虎、狼、鯨のような姿とされ、それぞれ『自由』、『独立』、『統率』、『平和』を担い、我が国を守護しています」
「また、四神獣は自身と近しい動物の姿になることができるとされ、国や私たち国民をそばで見守っていると言われており___」
何とかノート自体は取っているが、別のことで頭がいっぱいで、話の内容があまり頭に入ってくれなかった。
何となく、窓の外を眺める。
学園の創立記念日である明日、運命を変える日がやってくる。
この日常を、大切な人を守りたい。たとえ無力なモブだと言われても、その思いは変わらない。
ちゃんと先生やミアちゃん達にも報告した。サミュエルもそばにいる。
大丈夫。私は、ひとりじゃない。
窓の外の空を見上げて、私は心の中でそう自分を奮い立たせた。




