38話
私はサミュエルにありのままを話した。
このままだとサミュエルやプリズムの皆が死んでしまうこと。学園に強大な敵が召喚されてしまうこと。私が、皆の代わりに死のうとしたこと。
そんな突飛な内容に彼は困惑しつつも、彼なりに話を噛み砕いてちゃんと納得してくれたようだった。
「聞いてて思ったんだが、本当にその生贄ってやつは生きてる人間だけしか駄目なのか?」
「と、いうと?」
「主に犠牲になるのは、この学園の生徒……つまりは魔力を与えられた人間だろ?」
「もしかしたら、人間に反応するんじゃなくてその魔力に反応しているのかもしれない」
「だったら別に生き物でなくても、それと同等かまたはそれ以上の魔力の量を持つ物であれば、生贄の代わりになるんじゃないかと」
「た、たしかに…それなら誰かが犠牲になることは避けられるかも」
私では思いつかなかった視点だ。確かに、人間という部分にだけ注目していたが、あの化け物が私たちの魔力そのものに吸い寄せられて取り憑いているという可能性も充分に有り得る。
少しだけ、希望が見えてきたような気がする。
「もし仮にそれが出来たとして、問題はその後だよな。その化け物をどう倒すか……化け物に殺されたら全部台無しだし」
彼の言う通り、召喚された化け物の取り憑く先の問題が解決しても、その化け物をどう倒すかという問題が残っている。
「それなんだけど……ミアちゃんたちや先生に協力を頼めないかなって」
原作ではヒロインと攻略キャラの4人、BADENDルートだと最低でも3人でないと勝てない相手だった。しかも、かなりレベル上げをしたメンバーで。
どう考えたって、2人で到底叶うはずもない。
サミュエルはまだしも、私なんて化け物の気をそらすので精一杯だ。あの花の魔獣でさえ倒せなかったくらいなのに。
せめてあと2人くらいは、プリズムレベルの人でないとかなり危険だろう。
「オレに話したのと同じように、あいつらにもこのことを話そうと思ってるのか?」
「…話そうとは思ってるけど、でも………怖くて」
もし素直に全部話して信じて貰えなかったらと思うと、胸が張り裂けそうになる。
冗談だと思われるだけならまだいい。だけど、彼らの何の力にもなれずに見殺しにするような真似だけは、彼らが死ぬかもしれない運命を変えられないのだけは嫌なのだ。
ミアちゃん辺りならこの話を信じてくれそうだが、他のプリズムのメンバーがサミュエルと同じように信用してくれるとは限らない。先生なら尚更。
「まあ、全部正直に話さなくてもいいか」
「…話さなくても、いいの?」
「相手にされなくて、あいつらが死に目に会うのが嫌なんだろ?」
「うん…」と素直に頷くと、彼は「大丈夫だ、全部話さなくたっていくらでも方法はある」と私を安心させるように、にっと笑みを浮かべた。まるで悪巧みするような笑顔だったが、それが何だか心強く感じて、こちらも自然と笑顔になる。
「最近、魔獣騒ぎがあっただろ?それの延長線で『怪しい影を見たから、その辺の警備を厚くしてくれ』って感じで頼めばいい。要はあいつらに警戒させればいいんだから」
「…うん、そうだね。その方向性でいこう」
着々と作戦が決まっていく。
あんなに1人でずっと思い悩んでいたことが、彼と一緒に向き合ってみるだけでここまで変わるなんて全く想像していなかった。サミュエルには感謝してもしきれないな。
私たちが今後すべきことは、生贄の代わりとなる媒体を探すこと。一応私の家は商家だし、倉庫にそういう系の商品やらが眠っているかもしれない。
「私の家の倉庫に、生贄の代わりになるものがないか探してみるね」
「ああ。オレの家の方でも探しておこう」
●○●○
クレアがオレに打ち明けてくれたことが、オレを頼ってくれたという事実が、『サミュエルになら弱みをみせても大丈夫だ』と言われた気がして、どうしようもなく嬉しかった。
「私のこと、信じてくれてありがとう。サミュエルがそばにいてくれてよかった」
『信じてくれてありがとう』なんて、こちらのセリフだ。多少は強引な手段を取ったが、最終的にオレを信じて話してくれたのは、他でもないクレア自身なのだから。
「ははっ、そりゃどーも」となんでもないふうに返す。
ただ……ここまで化け物が魔力そのものを狙っている前提で話したが、彼女が先程まで考えていた通り魔力は関係なく人間自体が目的の可能性は大いにある。
もしその場合であれば、オレは何がなんでもクレアだけは死なせないつもりだ。
オレにとっての優先事項はクレア。例えオレ自身や他のやつが犠牲になっても、その事実は変わらない。
今そんなことを口にしたら、きっとクレアは不服そうな顔を浮かべるだろう。まあ、そこはお互い様ということで。
クレアがオレや他のやつを守ると言うなら、オレがその分クレアを守るだけだ。
先程よりも顔色が戻ってきた彼女の頭を、いつかの彼女がそうしてくれたように、迷子の子供を安心させるように、オレはぽんぽんと撫でていた。




