3話
あれから彼の家は私の父のお得意先になったようで、サミュエルとは頻繁に会うようになった。
初めて会った時に貴族の子供だなんて知らなくてタメ口で話しちゃったから、敬語になおした方がいいかなと思い、再び会った時敬語で話してみたものの「きゅうになんだよ、きもちわるい」と一刀両断されたので偉い大人がいない場合はそのままタメ口で話している。
本当に大丈夫かなこれ……。
相変わらず彼の減らず口は健在だし、めちゃくちゃ私に突っかかってくる。後ろをひよこみたいについてくる点については、可愛いと思えなくもないかも。
初めて会った時みたいに自由にしてても父親にはバレないだろうし、父親が見てないところで私の相手をしていなくたって怒られることもないだろうに、なんでついてくるのか疑問に思って一度聞いてみたことがある。が、「え……」と一言言ったきり絶句してしまったので、
「つ、ついてきてくれるよりも隣を歩いてくれたほうが嬉しいなー!!」
と近年稀に見るレベルで必死にフォローした。そこまで傷つけちゃうとは思わなかったよごめんね……。
もしかしたら、『お前ついてくんなよ』みたいなニュアンスで伝わってしまったのかも。流石に口下手すぎる。これだから話すのが下手くそな陰キャは。
閑話休題。
庭にいた猫は使用人が密かに残り物を与えていた子のようで、今ではすっかり私にもサミュエルにも懐いてくれており、サミュエルも満更ではなさそうだ。撫で方もあんなにぎこちなかったが、もうだいぶ慣れたらしい。
「この子、名前とかないのかな」
隣にいるサミュエルにそう話しかける。
「ないだろ。かってるわけじゃないし」
名前、ないのか。呼ぶ時とか、名前があった方が便利だよな……。
「名前つけようよ。何がいいかなあ……」
「あ、そうだ。ルビーってどうかな。赤い目をしてるし」
「ルビーって……まあ、いいけど」
「ね、どうかな。ルビー」と猫ちゃんに呼びかけてみると、満足そうににゃあと鳴いた。
しばらくルビーと戯れていた私たちだったが、ご飯の時間になったのか、ルビーは軽やかな身のこなしで颯爽とどこかに行ってしまった。
あーあ、行っちゃった……。ここに毎日来れるわけじゃないし、まだあの素晴らしい毛並みを堪能したかったんだけどなあ……。
例え毎日来れたとして、そもそもこの庭はノゼアン家のものだから許可が無いとここには入れないし。
「ねえ、また一緒にルビーの様子見に来ない?」
彼がいればこの屋敷内ならどこでも出入りは自由だし、一緒にいた方がお得だよな…とちょっとした打算的な考えでそう言った。
「ふん。ま、まあ?おまえがそこまでいうなら、またいっしょにきてやってもいいぞ。しかたなくな!」
うん。多分、OKということだろう。そういうことにしておく。
ほんと素直じゃないなあ…なんて思いながら、私はルビーが去ってしまった方向をぼーっと見つめていた。




